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液晶ディスプレイ、LCD
 -LCDの構造・基礎原理


図.液晶ディスプレイの構造と表示原理


 「
液晶ディスプレイ(LCD;liquid crystal display)」と一言にいっても、実にさまざまなタイプがある。もちろん、液晶の性質のページで紹介した内容を大なり小なり利用しているわけだが、電卓の表示パネルとパソコンの高画質なモニターがまったく同じ構造になっているはずもない。

 例えば、電卓の表示パネルはあらかじめ「8の字」型の細長い表示単位があって、それが白黒になるだけである。その一方で、一昔前の携帯ゲーム機(初期のゲームボーイなど)は、縦横のドットを表示単位として、文字やグラフィックを表示していた。パソコンのモニターなら、カラー表示や動画表示も可能である。


 LCDは表示する情報量の観点から、いくつかのタイプに分けることができる。まずは、電卓のような、表示する情報量の少ないディスプレイを見てみよう。



低情報密度ディスプレイ(low information-density display)
 電卓の場合

 もっとも単純な液晶ディスプレイに電卓の表示パネルのようなものがあるが、その駆動方法に注目すると、次の二つに大別することができる。


 初期の電卓の表示パネルには、
「8の字」型の表示単位一つ一つに電極が付いていた。この駆動方式を「スタティック駆動方式」というのだが、当然この方法では表示単位が増えるほど、電極などを結ぶ回線が増え複雑になってしまう。この方式では、パソコンのモニターを造り上げるのはほとんど不可能だろう。

 そのため、できる限り電極の数を減らし、必要な部品を減らすように考えられた方式が、「
ダイナミック駆動方」である。例えば、電卓の表示パネルにこの方式を採用すると、下図のような構造になる。

 この構造では、上部に電極を4つ、下部に電極を2つ付けることで、全体として必要な電極の数を減らしている。現在では、スタティック駆動方式の液晶ディスプレイはほとんど存在していない。次に紹介する高情報密度ディスプレイ(high information-density display)では、ダイナミック駆動が用いられている。




高情報密度ディスプレイ(high information-density display)

 現在、高情報密度ディスプレイと呼ばれるものには、主に二つのタイプがある。「
パッシブ・マトリックス駆動(passive matrix dynamic)」と「アクティブ・マトリックス駆動(active matrix dynamic)」と呼ばれるものだ。


パッシブ・マトリックス駆動

 パッシブ・マトリックス駆動方式は、液晶ピクセルのスイッチオンオフの構造が単純なため、「
単純マトリックス駆動」と呼ばれることもある。主にワープロやPDA、携帯電話など、静止画表示が中心のディスプレイに採用されている方式である。動画のような情報量の多いコンテンツを表示するのには向かないが、構造が簡単だということから、安価に生産できる利点がある。パッシブ・マトリックス駆動のLCDの一般的な構造が下図に示してある。


 図のように、液晶分子層が電極層にサンドイッチされた構造となっている。電流を導く導線を格子状にはりめぐらせ、縦横それぞれのタイミングをあわせて電極に電気信号を送ると、縦横の交差する場所の画素が点灯する。縦横の導線の組合せで、目的とする複数の画素を同時に点灯することができる。横の導線に接続されるX電極は液晶セルの下の基板に、縦の導線側のY電極は上の基板にある。主に電極の材料には、透明なITO(酸化インジウムスズ,Indium Tin Oxide)が使われている。

 単純な構造ゆえに製作コストをおさえることのできるパッシブマトリックス駆動だが、いくつかの制約があるのも事実だ。液晶分子セルに大きな電流が流れすぎると、そばにある別のセルも影響を受けてしまうおそれがあるのだ。具体的な現象としては、マウスを画面の左端から右端へすばやく動かすとマウスの残像が生じるが、これがまさにその例である。逆にセルに流れる電流が小さいと、液晶分子の並びがかわるのが遅いためにピクセルのスイッチオンオフが遅くなる。こちらの場合は、例えば動画のコントラストが下がるといった現象としてあらわれてくる。

 パッシブ・マトリックス駆動のディスプレイのなかでも、特に「液晶分子」に注目すると、いくつかのタイプに分けることができる。そのうち代表的なものを以下の表にあげておく。


 液晶の種類

TN(Twisted Nematic)  初期のタイプのパッシブ・マトリックス駆動。上図にあるように、二つの配向膜にはさまれて液晶分子が90°だけねじれているもの。コントラストが低く、レスポンス速度も遅い。なお、あとで解説するアクティブ・マトリックス駆動は主にこのTNタイプを採用している。主な用途は電卓、電子手帳など。
STN(SuperTwisted Nematic)  配向膜にはさまれた液晶分子が180〜270°程度ねじれているもの。液晶分子のねじれのため偏光の効率が良くなるので、高コントラストが可能になる。しかし、液晶分子を含むセルの厚さによって、特定の波長の光が反射・散乱されるため、ディスプレイの色調は黄緑/濃紺となる。そのため白黒表示はできず、フルカラー表示もできない。主な用途は80年代のノートパソコン、初期の電子手帳など。
DSTN(Dual SuperTwisted Nematic) STNで不可能だった白黒表示を可能にしたもの。STNの構造にさらに別の液晶セル(補償セル)ではさんだ構造。液晶層が増えたため、光が吸収されてしまう欠点があるほか、製造が難しいなど、あまり一般的ではない。
FSTN(Film-compensated STN) 複屈折性をもつ高分子フィルムを採用し、STNの構造で白黒表示を可能としたもの。現在のパッシブ・マトリックス駆動の中では最も標準的な構造。主な用途はワープロ・ノートパソコン、PDA、携帯電話など。




アクティブ・マトリックス駆動

  パッシブ・マトリックス駆動は、TSTN、FSTNなどに改良することで、高コントラストな画像が表示できるようになるが、やはり動画表示に向いているとはいえない。というのも個々のピクセルのスイッチ速度が遅く、また電極の格子構造のためにマウスの動きがゴーストになりやすいなどの欠点を抱えているためだ。それを解消するために考えられたのが、アクティブ・マトリックス駆動である。アクティブ・マトリックス駆動では、個々のピクセルを一つ一つの「アクティブ素子」で制御している。

 スイッチの役割をするアクティブ素子には主に、ダイオードを使ったMIM(Metal Insulator Metal)のものと、トランジスタを使ったTFT(Thin Film Transistor)のものがあるが、図ではTFTのものを取り上げている。MIMよりもTFTの方がスイッチング速度が速く高性能である。現在、売り文句になっている「TFT液晶」とはこのタイプのものである。



 このページで紹介したさまざまな高情報密度ディスプレイについて、下の表でまとめておく。

駆動方式 タイプ 素子 表示性能 レスポンス速度(動画対応) 大画面 コスト
表示容量(高精細) コントラスト フルカラー 中間調 視野角
パッシブマトリックス駆動 TN
STN
DSTN
FSTN
アクティブマトリックス駆動 TN TFT
MIM



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