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ナノエレクトロニクス
更新: 2003/01/01
ナノエレクトロニクス

液晶ディスプレイ

お知らせ

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この「ナノエレクトロニクス」のホームページは、現在、サイエンス・グラフィックス株式会社がアーカイブとして管理しています。すべてのお問合せはサイエンス・グラフィックスまでお願いします。
また、このホームページは2003年までのもので、現在は内容的に古くなっている可能性がありますが、あらかじめご了承下さい。

イントロダクション

ノートパソコン、携帯電話、PDAなど、最近では至るところに液晶ディスプレイ(LCD:Liquid Crystal Display)が使われている。それにともなって、100年以上前からディスプレイで唯一のシェアを誇ってきたブラウン管(CRT,Cathode Ray Tube)に近づく存在となってきた。

とにかく薄型という点に関しては、CRTでは置き換えることができない。それもそのはずで、LCDはCRTとはまったく異なる原理にもとづいているのだ。具体的には、液晶分子のどういう性質を利用してLCDはできているのだろう?

また、LCDはちょっと見る角度を変えると暗くなるとか、動画表示に向かないと言われていたはずだ。それなのに、今では液晶テレビ(つまり動画専門のディスプレイ)がでるほどになり、動画表示も視野角の問題もずいぶんと改善された。このLCDの進化の背後には、どういったブレイクスルーがあったのだろうか?

最近では、プラズマディスプレイ(PDP)や有機ELディスプレイなどLCDの他にも魅力的なフラットパネルディスプレイ(FPD)が登場しつつある。しかし、これらの目新しいディスプレイたちも構造の重要なポイントを、FPDの火付け役であるLCDから多く参考にしている。

そこで、今回は、液晶ディスプレイ(LCD)について、上に挙げたようなことを中心に見ていくことにしよう。

液晶の性質・歴史

液晶の歴史

実用的なデバイスとして液晶の性質を初めて利用したのが日本のSHARPだということは、今さら取り立てて言うことでもないだろう。けれど、液晶の面白い性質が発見されたのは意外に古く、オーストリア人植物学者Renitzerが1888年に発見したとされている。

1960年代には、液晶をディスプレイとして利用する発想が生まれ、スイスのホフマン・ラロシュ(Hoffmann-LaRoche)社などによって研究されてきた。しかし、実際に商品として売り出したのは、1973年のSHARPの小型電卓のディスプレイがはじめてというわけである。

液晶の性質

液晶はその名前にあるように、結晶でありながら固体ではなく液体の状態にあるというユニークな性質を持っている。たいていの場合、液晶分子は長細い棒状の形をしていて、エステル系やビフェニル系の分子である。

液晶の大きな特徴には主に次の三つが挙げられる。

  1. 板の溝に沿って液晶分子が並ぶ
  2. 電圧をかけると液晶分子の並び方が変わる
  3. 光は液晶分子の並んだ向きに沿って進む

液晶ディスプレイの原理はこの3つが基礎となっている。

液晶分子の性質。棒状の緑色のものが液晶分子、黄色のプレートが配向膜。

ふつう液晶分子はゆるやかな規則性をもって並んで存在しているが、溝を彫った板(「配向膜」)が存在していると、その溝の向きにぴったりと並ぶ。

液晶分子の性質。棒状の緑色のものが液晶分子、黄色のプレートが配向膜。

二枚の配向膜をそれぞれの方向性が直交するように重ねて、その間に液晶分子をはさむと、液晶分子は図のように配向膜の向きに沿ってねじれた並び方をする。これは液晶の1つ目の性質を利用したものだ。(下図左)ところが、こうやって二枚の配向膜にはさまれて、ねじれて並んでいる液晶分子は、電圧がかけられると電場の方向に並ぶ性質を持っている。したがって二つの配向膜に電圧をかけてやると、図のように液晶分子は垂直に並ぶ。これが液晶の2つ目の性質を利用だ。(下図右)

左が電圧をかけていない場合。右が電圧をかけた場合。

左が電圧をかけていない場合。右が電圧をかけた場合。

この二つの性質に、さらに3つ目の性質を上手に組み合わせることで、液晶ディスプレイの原理が完成するのだが、まずその前に、光の性質について簡単に知っておく必要があるだろう。

光は進行方向と直角に電磁場が振動する横波であり、さまざまな方向の振動をもつ光が入り混じっているのが普通である。この光を偏光板に通してやれば、偏光板の方向性にあった光だけを取り出すことができる。さらに偏光フィルターを二枚使って、それらをクロスさせれば光を完全に遮ることもできる。サングラスのレンズをある方向に二枚重ねて何も見えなくして遊んだ人もいると思うが、それも同じ原理だ。

左が電圧をかけていない場合。光は液晶分子のねじれにあわせて進むため、光の向きもねじれる。結果として光は偏光フィルターを通り抜けることができる。右図は電圧をかけた場合。液晶分子は直立し、光は直進するだけである。そのためクロスした偏光フィルターに遮られ、光は通り抜けることができない。

左が電圧をかけていない場合。光は液晶分子のねじれにあわせて進むため、光の向きもねじれる。結果として光は偏光フィルターを通り抜けることができる。右図は電圧をかけた場合。液晶分子は直立し、光は直進するだけである。そのためクロスした偏光フィルターに遮られ、光は通り抜けることができない。

例えば上図左のときは、光の方向が液晶分子によって90度だけねじれたために、クロスした偏光フィルターに遮断されることなく光が通り抜けることができる。

ところが、上図左のように、液晶分子に電圧をかけてやると液晶が垂直方向に整列するために、液晶の中を進む光の方向のねじれは解けてしまう。そのため、液晶を進んだ光はクロスした偏光フィルターにぶつかり通り抜けることができない。

つまり、あらかじめ図のような装置をつくっておけば、電圧をかけるかどうかで光を通したり遮ったりすることができるわけである。これは「TNタイプ(次のページの液晶の種類を参考)」の液晶ディスプレイの原理だが、基本的に多くの液晶ディスプレイで共通している原理である。

次に、具体的にデバイスとしての液晶ディスプレイを組み立てる場合、どのようなタイプのものがあるか見てみよう。


LCDの構造・基礎原理

図.液晶ディスプレイの構造と表示原理

液晶ディスプレイ(LCD;liquid crystal display)」と一言にいっても、実にさまざまなタイプがある。もちろん、液晶の性質のページで紹介した内容を大なり小なり利用しているわけだが、電卓の表示パネルとパソコンの高画質なモニターがまったく同じ構造になっているはずもない。

例えば、電卓の表示パネルはあらかじめ「8の字」型の細長い表示単位があって、それが白黒になるだけである。その一方で、一昔前の携帯ゲーム機(初期のゲームボーイなど)は、縦横のドットを表示単位として、文字やグラフィックを表示していた。パソコンのモニターなら、カラー表示や動画表示も可能である。

LCDは表示する情報量の観点から、いくつかのタイプに分けることができる。まずは、電卓のような、表示する情報量の少ないディスプレイを見てみよう。


低情報密度ディスプレイ(low information-density display)

電卓の場合

もっとも単純な液晶ディスプレイに電卓の表示パネルのようなものがあるが、その駆動方法に注目すると、次の二つに大別することができる。

初期の電卓の表示パネルには、「8の字」型の表示単位一つ一つに電極が付いていた。この駆動方式を「スタティック駆動方式」というのだが、当然この方法では表示単位が増えるほど、電極などを結ぶ回線が増え複雑になってしまう。この方式では、パソコンのモニターを造り上げるのはほとんど不可能だろう。

そのため、できる限り電極の数を減らし、必要な部品を減らすように考えられた方式が、「ダイナミック駆動方式」である。例えば、電卓の表示パネルにこの方式を採用すると、下図のような構造になる。

この構造では、上部に電極を4つ、下部に電極を2つ付けることで、全体として必要な電極の数を減らしている。現在では、スタティック駆動方式の液晶ディスプレイはほとんど存在していない。次に紹介する高情報密度ディスプレイ(high information-density display)では、ダイナミック駆動が用いられている。


高情報密度ディスプレイ(high information-density display)

現在、高情報密度ディスプレイと呼ばれるものには、主に二つのタイプがある。「パッシブ・マトリックス駆動(passive matrix dynamic)」と「アクティブ・マトリックス駆動(active matrix dynamic)」と呼ばれるものだ。

パッシブ・マトリックス駆動

パッシブ・マトリックス駆動方式は、液晶ピクセルのスイッチオンオフの構造が単純なため、「単純マトリックス駆動」と呼ばれることもある。主にワープロやPDA、携帯電話など、静止画表示が中心のディスプレイに採用されている方式である。動画のような情報量の多いコンテンツを表示するのには向かないが、構造が簡単だということから、安価に生産できる利点がある。パッシブ・マトリックス駆動のLCDの一般的な構造が下図に示してある。

図のように、液晶分子層が電極層にサンドイッチされた構造となっている。電流を導く導線を格子状にはりめぐらせ、縦横それぞれのタイミングをあわせて電極に電気信号を送ると、縦横の交差する場所の画素が点灯する。縦横の導線の組合せで、目的とする複数の画素を同時に点灯することができる。横の導線に接続されるX電極は液晶セルの下の基板に、縦の導線側のY電極は上の基板にある。主に電極の材料には、透明なITO(酸化インジウムスズ,Indium Tin Oxide)が使われている。

単純な構造ゆえに製作コストをおさえることのできるパッシブマトリックス駆動だが、いくつかの制約があるのも事実だ。液晶分子セルに大きな電流が流れすぎると、そばにある別のセルも影響を受けてしまうおそれがあるのだ。具体的な現象としては、マウスを画面の左端から右端へすばやく動かすとマウスの残像が生じるが、これがまさにその例である。逆にセルに流れる電流が小さいと、液晶分子の並びがかわるのが遅いためにピクセルのスイッチオンオフが遅くなる。こちらの場合は、例えば動画のコントラストが下がるといった現象としてあらわれてくる。

パッシブ・マトリックス駆動のディスプレイのなかでも、特に「液晶分子」に注目すると、いくつかのタイプに分けることができる。そのうち代表的なものを以下の表にあげておく。

液晶の種類

TN(Twisted Nematic) 初期のタイプのパッシブ・マトリックス駆動。上図にあるように、二つの配向膜にはさまれて液晶分子が90°だけねじれているもの。コントラストが低く、レスポンス速度も遅い。なお、あとで解説するアクティブ・マトリックス駆動は主にこのTNタイプを採用している。主な用途は電卓、電子手帳など。
STN(SuperTwisted Nematic) 配向膜にはさまれた液晶分子が180~270°程度ねじれているもの。液晶分子のねじれのため偏光の効率が良くなるので、高コントラストが可能になる。しかし、液晶分子を含むセルの厚さによって、特定の波長の光が反射・散乱されるため、ディスプレイの色調は黄緑/濃紺となる。そのため白黒表示はできず、フルカラー表示もできない。主な用途は80年代のノートパソコン、初期の電子手帳など。
DSTN(Dual SuperTwisted Nematic) STNで不可能だった白黒表示を可能にしたもの。STNの構造にさらに別の液晶セル(補償セル)ではさんだ構造。液晶層が増えたため、光が吸収されてしまう欠点があるほか、製造が難しいなど、あまり一般的ではない。
FSTN(Film-compensated STN) 複屈折性をもつ高分子フィルムを採用し、STNの構造で白黒表示を可能としたもの。現在のパッシブ・マトリックス駆動の中では最も標準的な構造。主な用途はワープロ・ノートパソコン、PDA、携帯電話など。

アクティブ・マトリックス駆動

パッシブ・マトリックス駆動は、TSTN、FSTNなどに改良することで、高コントラストな画像が表示できるようになるが、やはり動画表示に向いているとはいえない。というのも個々のピクセルのスイッチ速度が遅く、また電極の格子構造のためにマウスの動きがゴーストになりやすいなどの欠点を抱えているためだ。それを解消するために考えられたのが、アクティブ・マトリックス駆動である。アクティブ・マトリックス駆動では、個々のピクセルを一つ一つの「アクティブ素子」で制御している。

スイッチの役割をするアクティブ素子には主に、ダイオードを使ったMIM(Metal Insulator Metal)のものと、トランジスタを使ったTFT(Thin Film Transistor)のものがあるが、図ではTFTのものを取り上げている。MIMよりもTFTの方がスイッチング速度が速く高性能である。現在、売り文句になっている「TFT液晶」とはこのタイプのものである。

このページで紹介した様々な高情報密度ディスプレイについて、下の表でまとめておく。

駆動方式 タイプ 素子 表示性能 レスポンス速度(動画対応) 大画面 コスト
表示内容(高精細) コントラスト フルカラー 中間調 視野角
パッシブマトリックス駆動 TN
STN
DSTN
FSTN
アクティブマトリックス駆動 TN TFT
MIM

LCDのさまざまな技術

現在の液晶ディスプレイは10年前のものと比べると、いろいろな角度からでも表示内容がはっきりと見えたり、また液晶テレビが出るなど動画表示も可能になった。また液晶ディスプレイの価格も、ここ2,3年でずいぶんと下がってきた。

価格や視野角、動画表示などは、LCDがCRTに対して劣るポイントだったが、最近ではその差も少しずつ狭まってきている。しかし今後LCDが、これらの点でCRTと同等のレベルにまで達するようになるかと尋ねられれば、決してそうだとはいえない。

このページでは、視野が狭く、動画表示にも向かない液晶ディスプレイが、どのようにして現在のような見やすいディスプレイになったかを見てみよう。また、それぞれの技術的課題を考えてみれば、今後液晶ディスプレイがどれだけ進化するかということもそれなりに見えてくるかもしれない。

視野角の問題とその解決

CRTのディスプレイはほとんどどの角度から見てもハッキリと表示内容を見ることができるが、LCDの場合はそうはいかない。LCDの視野角が狭いのは、液晶分子を使った原理そのものに固有の性質であるため、そう簡単には解消できるものではない。

LCDの原理は、前のページでも紹介したように、棒状の液晶分子のねじれた並びを利用して光の向きを操作することに基づいている。そのため液晶分子によって、ある特定の方向の光だけが通されたり、また別の方向の光は遮られたりする。そのことは、LCDを45°斜め横から見てみると暗く見えるといったことからも理解できる。逆に特定の方向の光だけを強く通しすぎることもあるので、ムラが生じたりする。とくに黒い部分がやたら明るく見えるといったことを誰しも経験したことがあるだろう。

視野角にまつわるこういった問題を解決するには、液晶分子を含んでいるセルの設計を改良するのが最も一般的な方法といえる。現在、使われている技術は主に次の三つかそれを組み合わせたものだ。

・In-Plane Switching (IPS)

図1 TNタイプ

従来のLCD(TNタイプ;Twisted Nematic)の液晶セルにはガラス基板と垂直に電圧をかけてきた。具体的には、普段はねじれた液晶分子(図1の左部分)を、電圧をかけることでガラス基板と垂直に並ばせる(図1の右部分)という方法をとってきた。

ところが1995年、HITACHIは従来の方法とは異なる「In-Plane Switching(IPS)」(同社では「スーパーTFT」という技術名で通っている)という方法を考案した。従来のタイプのLCDが液晶分子を二枚の電極ではさんでいたのに対し、IPS では基板の片側に二本の電極を置いた構造になっている。電圧をかけていない場合は、従来のものとは異なり、液晶分子はねじれてはいない(図2の左部分)。しかしその電極にガラス基板と平行に電圧をかけると、液晶分子がガラス基板と水平になるように並ぶ(図2の右部分)。

図2 IPSタイプ

結果としてガラス基板に液晶分子が水平に並ぶため、LCDに特有の視野角の狭さの問題が解消される。具体的には、どの角度からみても画面に対し140°程度の視野が得られるとされている。また色深度もよくなる。しかし、それに伴って失うものも少なくない。

従来のLCDと比べても電極の占める部分が大きくなるため、バックライトの光が吸収されてしまいやすく暗い。そのため明るくするためには、バックライトをより強くする必要があり、電力消費が大きくなる。またレスポンス時間も長いため、動画表示には向かない。

・Vertical Alignment (VA)

図3 Vertical Alignmentタイプ

従来のLCD(TNタイプ)は電圧をかけていない場合に液晶分子がねじれた状態で光を通し、電圧をかけた場合に液晶分子がガラス基板に対して垂直になり光を通さないように設計されている。しかし実際は、電圧をかけた場合でも、完全には液晶分子はガラス基板に垂直に並ばず(図1の右部分の液晶分子に注目)、光が漏れてしまう。また、光を通す時でも視野角が狭い。

ところが「Vertical Alignment(VA)」と呼ばれる方法はこれとは異なり、電圧をかけていない場合に液晶分子が完全に垂直になり光を通さない(図3の左部分、図1の場合とは異なり、液晶分子が完全に垂直になっていることに注目)。一方、電圧をかけると液晶分子が(ねじれずに)水平に並び、光を通す(図3の右部分)。

電圧をかけていないときは液晶分子が完全に垂直なので、NTタイプのように光が漏れることもなく、黒が美しく映し出される。また電圧をかけた場合でも、複雑にねじれた配置になることもないのでレスポンス時間も短い。消費電力という点ではIPSの場合と同様に効率が良いとはいえないが、視野角も比較的広く、レスポンス時間の短さはIPSを凌いでいる。

・Multi-Domain

マルチドメイン設計(Multi-Domain)というのは液晶セルをいくつかのパート(たいていは下図のような4方向)に分ける方式を指す。それぞれの液晶セルには、それぞれ異なる方向を向いて並んだ液晶分子が存在している。そのため特定の方向にのみ視野が限られることがない。この技術はVertical Alignment(VA)とともに用いられることが多く、「Multi-domain Vertical Alignment(MVA)」という技術で通用している。このMVAの技術は97年に富士通によって導入された。下図に示されているのはMVA方式のものである。

MVA(Multi-domain Vertical Alignment)方式

色深度(color depth)について

液晶のいくつかの課題のなかで、視野角の問題と同じくらい重要なものに色深度(color depth)についてのものがある。CRTはほとんど無限の色彩と明るさを表現することができる。それは、明るさに応じて蛍光体にぶつける電子の量をアナログ的に変えているからだ。RGBの蛍光体(phosphor)それぞれに照射する電子ビームの強度を変えれば、自在に色を操ることをできるというわけだ(また一つのディスプレイで解像度を変えられるのもCRTの特徴)。

一方LCDの場合は、液晶セルにかける電圧を操作することで、バックライトの光を通す量を段階的に調整している。アクティブマトリックス駆動の場合は、トランジスタがピクセルごとに制御しているように、ピクセルごとに色彩や明るさを制御することができるが、パッシブマトリックス駆動では格子状の電極で制御しているために微妙な色表現ができない。

では、具体的にアクティブマトリックス駆動のLCD(AMLCD)がどのように色表現をしているかを見てみよう。AMLCDでは、RGBのサブピクセルごとに透過する光の量を制御している。例えば8bitのコントローラーなら、それぞれのサブピクセルごとに256(2^8)段階で制御している(サブピクセルのこの数をグレイシェイド(gray shade)という)。これがRGBの三色になると16,777,216色(256^3)で表現できるというわけだ。これが24bitのディスプレイになる。目で見る限り基本的にはこれで問題ないが、写真の編集などの場合には依然としてLCDはCRTに及んでいない。(さらにLCDは見る角度によって、発色の具合が変わってきてしまう問題があることも上で述べたとおり。)

レスポンス速度

日本では液晶テレビ(つまり動画専門の液晶ディスプレイ)が市場に出回っているが、やはりLCDの欠点の一つには動画表示があることを忘れるわけにはいかない。LCDの原理のページで何度も見てきたように、液晶分子が実際に移動することによって動画を表示しているので、どうしてもスイッチ時間とのタイムラグが生じてしまう。このタイムラグを「レスポンス時間」と呼んでいる。

CRTの場合、このレスポンス時間はほとんどないといって良い(電子ビームの速度とブラウン管の距離を考えてみよう)。ところが、LCDの場合、特にパッシブマトリクス駆動のLCDの場合、このレスポンスは150ms以上だとされている。もっと身近な言葉に直すと秒間6フレーム程度ということになってしまう。動画表示に向いているアクティブマトリックス駆動のLCDでも、標準的なレスポンスは40ms程度で、つまり秒間25フレーム程度ということになる。視野角が広いがレスポンスの遅いIPSは40ms程度、MVAはレスポンスが速く25ms程度とされている。

バックライトとバッテリー問題

液晶と消費電力という言葉を同時に聞くと、プラスの印象を受けるかもしれないが、必ずしもそうではない。確かにCRTと消費電力を比べれば、LCDはずいぶんと省電力といえるだろう。だからこそ、携帯電話やPDAのディスプレイとして利用することができるのだ。ところがふたを開けてLCDの仕組みを見てみると、LCDは必ずしもエネルギー効率が良いとは言えないことがわかってくる。

LCDは液晶分子が直接発色しているわけでもなければ発光しているわけでもない。バックライトの光を通しそれを蛍光体に当てることではじめて、私たちがその光を認識できる。ところがバックライトからの光は私たちの目に届くまでに、液晶分子や蛍光体に吸収され、最終的な明るさは10%程度になってしまうのだ。

このために見にくくなった画面はバックライトの強度を上げてやれば解消できるが、デスクトップパソコンはともかく、モバイルではバッテリーを食ってしまう。ノートパソコンやPDA、携帯などは屋外で利用する機会が多いが、その際にはバックライトを強くしないと、画面がはっきりと見えない。かといって、バックライトを強くすると、大きなバッテリーを必要とし、持ち運びに不便になってしまう。これこそまさにモバイル産業のジレンマなのだが、いったいどうすれば解決できるだろうか?

いくつか解決策があるだろうが、どうせ見にくくなるのは屋外なので、屋外の光をうまく使えないだろうか?そういう発想から生まれてきたのが、「反射型TFTディスプレイ」である。従来のLCDはディスプレイ自体がバックライトによって光る「透過型」で、屋外では見にくいものだった。ところが反射型は、外界からの光が偏光フィルター、液晶セルを通って反射層で跳ね返されて私たちの目に入ってくるという仕組みだ。ただし反射型は屋内で醜いという欠点もある。

また、バックライトの光を有効に使うという方法もある。バックライトをディスプレイ全面につけるのではなく、画面端にだけつけ、くさび型の光拡散板などをつけ、画面全体に光が行き届くようにするというものだ。携帯電話などではこの方法がとられていることが多い。

製造コストと低温ポリシリコン

この図では、分かりやすくするために単結晶Siが二次元的に書かれているが、実際はダイヤモンド構造の三次元的なものになっている。ポリシリコン、アモルファスシリコンについても同様である。

いろいろとLCDの欠点を挙げることはできるが、最終的にものをいうのはその価格だろう。もしCRTとLCDが同じような価格だったら、もはやCRTは化石になってしまっていたはずだ。なぜLCDはこうも価格が高いのだろうか?いずれCRTと同じ程度の価格になるのだろうか?残念ながらそうなることはないだろう。LCDの価格の最大の原因は、LCDの製造過程があまりにも複雑なことが挙げられる。

アクティブマトリックス駆動のLCDはピクセルごとにトランジスタが存在しているため、その製造過程はコンピュータチップをつくるときと似ているところが多い。ただしコンピュータチップと大きく異なる点に、基板にコストのかかるガラスを使っていることと、シリコン単結晶ではなくアモルファスシリコンを使っていることが挙げられる。アモルファスシリコンの場合、ガラス基板にシリコン膜を成長させるのは技術的に容易で製造コストを抑えることができるが、非結晶ゆえに単結晶の場合と比べると電子の移動速度が遅く、結果としてトランジスタの性能はあまり望めない。

しかしシリコン単結晶でトランジスタをつくるのは、ガラス基板の熱耐性などの問題から、そう簡単ではない。そこで、現在は少しずつ「ポリシリコン(多結晶シリコン)」が使われている。ポリシリコンは、単結晶とアモルファスの中間のような存在だ。そのため、アモルファスシリコンより電子の移動速度が速い(a-Si が~1cm2/V-secなのに対し、p-Siは200~400cm2/V-sec)。これまではポリシリコンの加工は高温で行われる必要があったため製造コストがかかっていたが、最近ではより低い温度で加工が可能な低温ポリシリコンが使われている。これによって、低コスト、高性能なLCD(とくにモバイル)が可能になってきている。(さらに詳しくは「アモルファス&ポリシリコン」を参照。)

今後の展望-ポストCRT競争と「付加価値」化

視野範囲の広域化、ディスプレイの大型化、レスポンス速度の向上など、液晶ディスプレイは技術蓄積によって確実に進化してきた。電気屋では30インチ程度の液晶テレビが一番目立つところに置かれているほどだ。

ところが、現在、そんな液晶ディスプレイは大きな岐路に立たされている。電気屋の店頭では必ず「プラズマテレビ(PDP)」が液晶テレビとともに肩を並べている状況を思い出してほしい。「ポストCRT戦争」という言葉もあるように、液晶だけが21世紀のディスプレイというわけではないのだ。

プラズマディスプレイ(PDP)は大型テレビとして、最近は価格もずいぶん現実的なものとなっている。PDPとLCDは比較して、その性格上、それぞれ別の用途に向いているといえそうなので(詳しくは「プラズマディスプレイ」を参照)、直接競合することはないかもしれない。

液晶の将来の雲行きを怪しくしているのは、もう一つの有力候補である「有機ELディスプレイ」の存在だ。有機ELディスプレイは電流を流すと光る自発光型のディスプレイだ。(詳しくは「有機ELディスプレイ」を参照。)少なくとも有機EL開発に携わるメーカーの主張では、ポテンシャル、使いやすさ、コスト面などいくつもの点で、LCDを凌いでいる。日本は液晶技術が世界的に見ても優れているため、LCDの展望を疑う見方はあまりないが、有機ELディスプレイの研究開発を本格的に行っている欧米では、有機ELの可能性を強調する見方が多く見られる。

そういう事情もあってか、最近では、液晶ディスプレイの付加価値を高めようとする動きが広く見られるようになってきた。とくに開発サイクルの回転の速い携帯電話用ディスプレイ市場ではその動きが顕著だ。そこでは、さまざまな付加価値を備えた液晶ディスプレイが登場しているが、とくに注目すべき技術は3D液晶だろう。3D液晶技術とは、ヒトが視差を利用して遠近感を判断しているのを利用して、平面画面上に映像が飛び出して見えるようにする技術のことだ。その原理については、下図で簡単に紹介している。もちろん、この種の立体映像は液晶ディスプレイに限られたものではないが、数あるディスプレイのなかで、技術的に最も成熟した液晶ディスプレイにこそ適したものなのだろう。他のディスプレイとの競争が激しくなるなか、今後は「付加価値」が液晶ディスプレイの活路になっていくのかもしれない。

上図:3D液晶技術を理解するために
– その1 なぜ立体的に見えるのか?ヒトの視差による説明

上図:3D液晶ディスプレイを理解するために
– その2 ヒトの視差を利用して、平面画像を立体的に見せる。

上図:3D液晶ディスプレイの原理

リンク集

ナノエレクトロニクスから

有機ELディスプレイ
プラズマディスプレイ
電界放出ディスプレイ
電子ペーパー、EPD
アモルファス&ポリシリコン

外部サイトから

関連情報誌
「月刊ディスプレイ」 – テクノタイムズ

ニュース&概論

概論

3Dコンソーシアム
3D液晶【すりーでぃーえきしょう】 キーワード -ZDNet
液晶ディスプレイの原理とその技術 – SHARP
Channel HITACHI – Hitachi
最先端技術「低温ポリシリコン」の登場 – Toshiba
polysilicon – Toshiba
“How LCDs Work” – HowStuffWorks
“TFT LCD” – Sumsung
LCD Monitors: Technology Update – Extreme Tech(2002/1)

ニュース

2003年3月
3D立体表示普及へ「3Dコンソーシアム」設立 -ZDNet
3D表示可能なバイオも展示 -ZDNet
セイコーエプソン、高温多結晶Si-TFT新パネルを開発 – 日経BizTech
シャープの3次元表示ディスプレイ、PC向けモニターとしてお目見え -日経BizTech
50インチの大型ディスプレイも登場「3D液晶」 -日経BizTech
シャープ、3D表示と「CGシリコン」を組み合わせた液晶パネル披露 -日経BizTech
シャープなど70社、“立体表示市場”の創出目指す業界団体 -日経BizTech
3D立体表示市場の創造を目指す『3Dコンソーシアム』を設立 -サンヨープレスリリース
2003年1月
J-フォン、QVGAのCGシリコン液晶搭載「J-SH010」 – ZDNet
松下、BS/CS内蔵32型ハイビジョン液晶TVを発売へ -日経BizTech
「50型の大型液晶テレビを投入する」–シャープ町田社長 -日経BizTech
東芝松下ディスプレイ、携帯電話機向け低温p-Si TFT液晶増強 -日経BizTech
2002年12月
3D液晶【すりーでぃーえきしょう】 キーワード -ZDNet
シャープ、3D液晶の広範な用途に期待 -ZDNet
2002年11月
“液晶が鏡になる”「J-SA05」見てきました – ZDNet
ナムコ、裸眼立体視と高精細2D表示を両立する新技術 – ZDNet
「3D液晶」が携帯に?~シャープ、三洋 – ZDNet
「3倍明るく、省電力」――米新興企業のディスプレイ技術 – ZDNet
2002年10月
液晶の抱える3つの課題 – ZDNet
最強のモバイル向け液晶は「プラスチック基板+低温ポリシリコン」 – ZDNet
2001年以前
液晶モニタの需供バランスに変化 – ZDNet
More Than Meets Eye – Extreme Tech
Future for ‘crystal cycle’ growth looks bright – Semiconductor Magazine
そろそろ買いどき?液晶ディスプレー特集 – ASCII24
反射型TFTカラー液晶ディスプレイ事業への参入について – NEC プレスリリース
MVA(Multi-domain Vertical Alignment)方式 – 鈴木直美の「PC Watch先週のキーワード」
Fujitsu Develops Breakthrough Technology for TFT Liquid Crystal Displays – Fujitsuプレスリリース(英語)