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こちらは気になる科学探検隊
更新: 2001/03/24
こちらは気になる科学探検隊

ポスト遺伝子組換えを語る企業

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また、このホームページは2002年までのもので、現在は内容的に古くなっている可能性がありますが、あらかじめご了承下さい。

この記事では、

という内容を取り扱っています。

他が追いつけないバイテクの世界

 遺伝子組換え作物をとりまくいろいろなことは、一般の消費者である私たちにはわかりにくいことが多く、日常の生活ではあまり深く考えることはないかもしれません。意識をしていることといえば、遺伝子組換え作物を使っていないという表示のある食品をとりあえず買うといった程度でしょう。それ以上のことは考えないのが普通ですよね。でも実際は、表示がないから遺伝子組換え食品ではないという保証はないわけで、日常的に遺伝子組換え食品に接しているわけです。

 だからあなたも意識をもって…といったことを聞きますが、最近のバイオテクノロジーの進歩の速さは、他の科学と比べても際立っていますから、専門家でもなければついていくのは無理というものです。

 バイテクの一分野である遺伝子組換えの世界も、例外なく、速いスピードで進歩しています。危険だから反対するといっても、ちょっと前に反対していた技術が今では廃れてしまって、反対していた対象がいなくなってしまう可能性だってあります。議論をしている最中もバイテクの進歩は止まらないので、すぐに追いつかなくなってしまいます。

 このことは私たちだけではなくて、経済もバイテクの進歩に追いついていくのに苦労しています。例えば、先日、人の遺伝子の数が3万個しかなかく、予想より少なかったといった報道がなされましたよね。そして私企業のセレーラ社と政府出資のヒトゲノム計画が互いに競い合ってその報告しました。このあとウォール・ストリート・ジャーナルをはじめとする経済誌では、セレーラ社がどのようにこの業績を経済的価値につなげていくかと大騒ぎをしていました。セレーラは情報を大学や研究所に売って利益をあげると言っていましたが、これには疑問視する意見がでていました。そこで、セレーラはこの成果を製薬に生かしていくという方向転換を図っていくことにしたようです。しかし、経済界のこのような議論がなされている間でも、バイテクの世界ではこの業績のおかげで次々と新しい発表がされました。バイテクの世界では、経済以上に深い影響を与えていきました。(これについて詳しい関連記事を下で紹介しています。)

 そして、先日のゲノム解析の影響は、遺伝子組換えの分野にも影響を及ぼしつつあります。単純に遺伝子組換えの分野の進歩に貢献するだけではなく、少し別の方向へと導くものとなっているのです。

 今回はいつもと少し趣向を変えて、どのようにゲノム解析が遺伝子組換えに影響をあたえつつあるのか、そして、企業はこれにどう対応していこうとしているのかをを中心に見ていきましょう。

遺伝子組換えと今までの品種改良は違う

 遺伝子組換え技術は、消費者などからいろいろなことで批難されているわけですが、大きく分ければ技術そのものの問題と技術を取り巻く環境の問題の二つに分けれるはずです。技術そのものの問題とは人体への危険性だとか環境への影響の心配というものです。逆に技術を取り巻く環境の問題とは、法規制だとか技術導入による貧富の格差の問題といったものです。本当はそれぞれが独立して存在するのものではないのでしょうが、同時に二つを見ようとすると、よく収拾がつかなくなります。そこで今回は、技術そのものの問題だけに焦点をあてることにします。

 遺伝子組換え技術の安全性をめぐって、よく議論に登場することに、以下のようなことがあります。

 今まで人類が品種改良によって作物の遺伝子を操作してきたのと同じで、遺伝子組換えも安全なのだという主張があります。この主張に対して、遺伝子組換えは種の壁をこえて遺伝子操作されたものなので、従来の品種改良と同じはずがなく、予期しない危険の可能性があると反論します。例えば、野菜にバクテリアの遺伝子を組み込んだりするわけだから、遺伝子組換えが今までの交配による品種改良と同じはずがないというわけです。

 そして結局この議論の行き着くところは、安全とは限らないから使ってはいけないとか、危険性が証明されないから使ってもよいという、見かただけの問題になってしまいます。このように、なかなかこの議論から脱出口が見つけられません。

 ただし企業の側としても、いくら自分たちが正しいと信じていても、消費者が疑って買ってくれないのでは話になりません。それに、法規制も不十分だといわれながらも、安全性のチェックの必要があり、企業にとって、遺伝子組換えは面倒なことが山ほどあります。そこで企業も解決方法はないものかと頭を悩ましていました

再び交配による品種改良

 そこで登場してきたのが、最近のゲノム解析で明らかになりつつある遺伝子情報を引っさげた、交配による品種改良なのです。交配による品種改良というのは今まで人類が長年の間、行ってきたことですね。

 この新しい交配が従来の交配とどのように違うかということについては、後で詳しく述べましょう。しかし少なくとも交配なら、遺伝子組換えが受けているようなこの批難を避けることができます。遺伝子情報を利用するからといっても、やっていることはあくまで交配なので、従来の品種改良とまったくかわりません。遺伝子を異種間で切ったり貼ったりする遺伝子組換えとは違うわけです。そのため、少なくとも企業は、さっきのような堂々巡りの議論になることは避けることができると考えているわけです。

 とは言っても、言葉で「従来の品種改良と同じ」などといっても、もう信用できないというのももっともな意見です。そこでもう少し詳しく、従来の交配と最近の交配の違いを説明しておきましょう。

 従来の交配は、実が大きいとか収穫性が高いといった欲しい性質をもった作物を組み合わせていくことで、品種改良をしていきました。これを何世代も繰り返して理想の品種を作るわけです。これは根気のいる作業でした。

 しかし、どの遺伝子が実の大きさに関係し、収穫性を高めるかというような遺伝子情報がハッキリしていれば、従来より能率よく理想の品種が作れるわけです。また、仮にその遺伝子が、植物の性質として目に見える形で現れてなくても、その遺伝子の存在は知ることができます。

 さらに従来の交配では、新しくできた品種が理想のものかどうかを確かめるのに、栽培して確認したり、化学的な成分を調べる必要がありました。

 ところが、遺伝子情報がハッキリしていれば、わざわざ栽培しなくても遺伝子情報を調べるだけで理想のものかどうかが分かります。

 こうして、今まで7年から10年ほどかかっていたイネの品種改良が、5年程度まで短くできるようになると考えれれています。

 はじめの話に戻りますが、このように遺伝子の切り貼りのために遺伝子情報を利用するのではなく、従来の交配による品種改良の手助けに用いるので、「従来の品種改良と同じ」といえるわけです。

それでも遺伝子組換えの魅力的な理由

 しかし、いくら消費者の反発を避けることができても、そして遺伝子情報が明らかになりつつあるとはいっても、この新しい交配技術を全面的に採用する企業などいないというのもまた事実です。なぜでしょうか?

 モンサント社やパイオニア・ハイブレッド社といったバイテク企業は、今も、そしてこれからも遺伝子組換え技術を重要視していくと言っています。

 例えば、パイオニア社の副社長トニー・カヴァリレは、最近の交配技術の発達が遺伝子組換え技術に取って代わるとは考えてないと言っています。遺伝子組換えと、この新しい交配技術は互いに延長線上にあるのではなく、まったく別の技術だというわけです。最近の交配技術の発達と比べて、遺伝子組換え技術が劣っているということを証明するわけではないため、これからも遺伝子組換えにも力を入れていくというのです。

 いまさら言う必要はないかもしれませんが、遺伝子組換えは好きな遺伝子をブレなく選択できるのに対し、交配はいくら遺伝子情報が明らかになったところで、理想の遺伝子がくるかどうかはランダムです。また、交配は、もともとその種に含まれている遺伝子しか選択できないので、まったく新しい性質を期待することはできないと考えられています。その点では、良くも悪くも種の壁を超えて遺伝子の切り貼りをする遺伝子組換え技術のほうが、マイナスと同時にプラスの可能性を持っているわけです。

 その例として、このようなものがあります。スイスの種会社シンジェンタ社は12年間交配によって害虫に耐性のある品種のトウモロコシを作っていったが、害虫による被害を抑えることができたのはわずか10パーセント程度にすぎませんでした。

 遺伝子情報が明らかになれば開発期間は短くすることができるでしょうが、害虫への耐性が飛躍的にアップするというのは考えにくいでしょう。

 この場合、遺伝子組換えならば、種の壁を超えてバクテリアなどの遺伝子を組み込むので、それまでの種には考えられなかったような性質を得ることができるわけです。例えば、有名なBtコーンというものがあります。BtとはBacillus Thuringiensisと呼ばれるバチルス菌の遺伝子のことです。この遺伝子の作るタンパク質を特定の昆虫が食べると死んでしまうのです。この効果によって害虫を駆除することができるのです。確かにこの効果によって生じる他の問題も無視できないのですが、害虫の被害は劇的に抑えることができました。

 少なくとも交配だけではこのような変化は期待できないでしょう。先ほどのカヴァリレ氏は、遺伝子組換え技術なしでは、健康によい油もつくることができないだろうし、交配の技術だけでは、ビタミンAの豊富な話題のゴールデン・ライスも作ることはできないと言っています。

 ちなみにゴールデン・ライスとは他の植物やバクテリアの遺伝子を組み込んでビタミンAを増やしたイネのことで、栄養失調で失明に苦しむ途上国に貢献するだろうと考えられています。

 以上のように遺伝子組換え技術の利点を考えると、やはりバイテク会社がこの技術を簡単に手放すことはまず考えられないというわけです。

夜一つ谷のトマトの遺伝子の多様性とその可能性

 これでは、新しい交配技術には、科学的な展望がまったくないみたいで、がっかりしてしまった方がいるかもしれません。しかし、まだがっかりするのは早すぎます。

 市場で売られている世界中のトマトと名前のつくすべてのトマトの遺伝子よりも、ペルーの一つの谷に生息している野生のトマトの遺伝子の方がよっぽど多様性に富んでいるといわれることがあります。これはどういうことでしょうか。

 人類は、長年の間、実が大きいといった明らかな性質をもったものばかりを選択して、品種改良をしてきました。しかしこれが繰り返されるにつれ、市場に登場する穀物というのは遺伝子の多様性の点からは非常に限られたものになってしまったのです。したがって、これらの穀物で掛け合わせても、結果も非常に限られたものになってしまったというわけです。

 逆に言うと、野生の植物にはまだはっきりと分かっていない性格をもった遺伝子が含まれている可能性があるわけです。例えば、野生の緑色で小さなトマトと市場に出回っている赤いトマトとを掛け合わせると、より赤いトマトができたと報告されています。野生の緑色の小さなトマトというのは、あまりおいしいものではなく、今までの品種改良リストの対象からは外されていたのです。

 遺伝子情報を引っさげた交配による品種改良のよい点は、このように野生の植物と掛け合わせることで、今までの交配では登場し得なかったような品種をつくることができることだといえます。

 いずれにせよ、遺伝子組換えと交配はまったく異なった技術であるために、企業が遺伝子組換えをやめて、すべて交配の方に切り替えるなどということは考えられません。おそらく今までどおり遺伝子組換えの研究開発をしながら、交配の技術の方にも手を出すというかたちになるのでしょう。

 しかし、消費者との折り合いをつける必要があるため、遺伝子組換え技術だけに固執していくのは難しくなっていることをいちばんよく知っているのは、それぞれのバイテク企業なのは間違えないでしょう。

関連サイト

 今回のコラムは、いろいろと前提条件となっていることが多く、分かりにくいところが多かったと思いますので、いつもより多めに関連サイトを上げておきます。

 記事の中で出てきた、ゲノム解析の発表の騒ぎが過ぎたあとの経済誌でのセレーラ社に対する評価についての記事を下に載せます。(ウォール・ストリート・ジャーナルは有料なので載せてませんが。)

  • Post Genome, Celera Now Shoots for Profits – Fortune(英語)
    セレーラ社が今後、製薬に方向転換していった過程を見ることができます。会長のベンター氏が21日に東京のシンポジウムで日本と共同研究をしたいといっていましたが、これも日本人にあった薬品の開発がねらいということなのでしょう。ここにも方 向転換を図ったセレ-ラの姿がうかがえます。

今回登場したバイテク企業のホームページを紹介します。メディア・リリースにいろいろと関連記事があります。


 遺伝子組換え技術についてのサイト

 今回の記事では、遺伝子組換えについて、ほとんど触れることができませんでした。簡単に遺伝子組換え作物について知りたいときには、以下のサイトを参考にしてください。

 遺伝子組換えが従来の品種改良と同じかどうかの議論は日本でもよく聞かれることです。例えば上の二つのサイトでも、この二つのページ見比べてみてください。