記憶はガラスの中に
この記事では、 という内容を取り扱っています。 ホログラムは楽しいだけじゃないホログラムと聞くと、NIKEやFILAのシューズについているあのスッテカーなどを思い出しますよね。そうそう、みなさんのクレジットカードにもついてませんか?だいたい緑色っぽくて、立体的に浮き出て見えるあのシールです。 しかし実は、このホログラムの能力は、見せるだけというものではありません。薄っぺらい素材に立体的な映像を映し出すこの技術は、コンピューターの記憶装置としても非常に高い可能性を秘めているのです。 ちらりと具体的な数字を出しておきましょう。この技術を使えば、角砂糖程度の大きさのメディアに1テラバイト(1000ギガバイト)の容量を記憶できるというすぐれものなのです。このホログラムを使った記憶媒体はホログラフィックメモリと呼ばれています。いったい、このホログラムに何ができるというのでしょうか。 今までのメディアは?まずは、今ある他の記憶媒体をちょっと見てみましょう。私たちにとって記憶媒体で身近なものにCDやDVDがありますよね。今さら言うまでもないかもしれませんが、これらの表面には凹凸があり、その反射率でデータの再生や記録をしています。これらを一般に光ディスクといいます。 また、パソコンの中には、ハードディスクとフロッピーディスクというのがありますよね。両方とも磁気ディスクです。名前のとおり、フロッピーはやわらかく、ハードはかたいという意味で、そのように区別するために名前が付けられました。今でこそ100ギガバイトのハードディスク搭載パソコンなどといったすごいものが出てきましたが、やっぱり角砂糖の大きさで1テラバイトにはかないませんよね。 よく、メモリ、メモリと呼ばれる小さな記憶装置がありますが、あれは回転などをしない電気的な記録装置ですね。 さて、これらの記録装置の違いを頭に入れつつ、ホログラフィックメモリの仕組みを見ていきましょう。 ホログラフィックメモリの読み書きこのホログラムを利用してデータを蓄えるという考えの基本は、電気ではなく光を使ってより速いアクセスと高密度のデータ蓄積をしようという考えの一つだといえるでしょう。 ただし、光ディスクなどとは違って、駆動部分も必要ありません。これは小型化などが可能という利点につながります。そして、この記憶素材の大きな特徴は、二種類のレーザーを使って、データを書き込むということです。この記録素材は主に、ニオブ酸リチウム単結晶というものが使われています。 このホログラフィックメモリは、基本的に干渉や回折といった光に固有の性質を利用しているのですが、ここから少し難しい話になります。 (この原理図は下に上げてあるURLを参考にすると分かりやすいと思います。おそらく図を見ずに説明を聞いていても分かりにくいので、図を見ることをおすすめします。http://www.howstuffworks.com/gif/holo-memory.gif ) Images courtesy Lucent Technologies
この記録素材にデーターを記録するときの原理というのは、簡単に言うと、以下のような感じです。 まず、二つのレーザーのうち、一つ目には、平面のデータページの情報をのせてあります。このデータページというのは、理解してもらうためのイメージとして、テレビにうつる砂嵐を思い浮かべてもらえればいいと思います。この白黒のデータページは、コンピュータによって画像データなどを変換した姿のものです。このデータをガラスに似たメディアに書き込むのです。 そして、一つ目のデータページを記録材料のどの角度に書き込むかということを、二つ目のレーザーが指定するものです。 この二つのレーザーの干渉によって、記憶媒体に三次元パターンのデータが記録できるというわけです。それぞれのレーザーの役割を考えて、一つ目のレーザーを信号光(Signal Beam)、二つ目のレーザーを参照光(Reference Beam)と呼んでいます。 このホログラフィックメモリの最大の特徴は、このように材料の一部分に何種類ものデータを記録することができるということです。まさに、あのホログラムと同じで、角度を変えると見え方が違うというわけです。このようにして、高密度のデータを記録することができます。 逆に、データを読み出すときはどうでしょうか。これも下のURLの図を参考にすると分かりやすいでしょう。 Images courtesy Lucent Technologies
ホログラフィックメモリは高密度という点でも優れているのですが、他にも読み出しが高速だという利点があります。 また先ほど記録したデータは、記録素材の同じところに角度の違いによって、たくさん書き込まれています。したがって、先ほどと同じ角度で参照光を当てれば、同じデータを読み出すことができます。再び、このデータを載せた光がCCDカメラという装置に当てられます。その後コンピュータに送られ、データページは再び画像データに戻るのです。 じきにやってくる夢のプレーヤーこのようにホログラフィックメモリが優れていることは分かりましたが、これはまったく新しい概念なのかというと、そういうわけでもありません。1960年代には、ピーター・ヘルデン博士によってこの概念は提唱されていました。そして、その20年後ぐらいには、その試作機が作られていました。しかし、当時急激に進化していた磁気メモリや半導体メモリの陰に隠れてしまっていたのです。また、安価な材料が不足していたという点も、陰に隠れてしまった原因の一つでしょう。しかし、最大の難点は、読み込むときに光を当てることによって、素材が変質してしまい、データが破壊されてしまうという問題があることでした。 しかし、このデータが破壊されてしまう問題に対しては、去年発表されたパイオニア株式会社と政府機関が共同開発したホログラフィックメモリ用記録材料と、その応用システムによってクリアされたと報告されています。 一度は他のメディアの陰に隠れてしまっていましたが、このホログラフィックメモリは90年代以降、再び脚光を浴びるようになってきました。そして、この応用として、パソコンなどの記憶システムのHDSS(Desktop HolographicStorage System)というものが開発されてきています。この装置は、2003年くらいには一般に出回るとIBMの研究者は予測しています。IBMはかなり前からこの分野を研究していました。 初めのころは、125ギガバイト程度の容量で転送率も40Mbpsくらいでしたが、最近では1テラバイトの容量に転送率も1Gbpsくらいが可能になってきました。DVDのデータが30秒もしないうちにすべてコピーしてしまうほどの速さです。 このようにして、HDSSの実現が目前となったのも、この装置に使われている部品の進歩のおかげとも言えるでしょう。HDSSは装置の部品として、先ほど出てきたCCDセンサーや液晶ディスプレイなどをなかで使っています。どちらも60年代には存在していないか、もしくは、まだ高価であった時代でした。 このようにして、メディアそのものの進歩とともに、他の部品の進歩に支えられてHDSSの実現が近づいてきたのです 多くの研究者が、あと数年でこの技術は市場に出回ると自信をもっていっています。そうなると、私たちが「スターウォーズ:エピソードⅡ」を家庭で見るころには、DVDではなく、このガラスのようなブロックをプレーヤーに入れて、この映画の高画質な映像を楽しむ、こんなことが現実になっているのかもしれませんね。 関連サイトホログラフィックメモリについて詳しくかかれているページを紹介します。
コラムに出てきた企業のページを紹介しておきます。
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