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こちらは気になる科学探検隊
更新: 2001/03/31
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ヒトの進化の歴史を変える頭蓋骨

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この「こちらは気になる科学探検隊」のホームページは、現在、サイエンス・グラフィックス株式会社がアーカイブとして管理しています。すべてのお問合せはサイエンス・グラフィックスまでお願いします。
また、このホームページは2002年までのもので、現在は内容的に古くなっている可能性がありますが、あらかじめご了承下さい。

この記事では、

という内容を取り扱っています。

より複雑になる進化の樹形図

 ヒトの進化の過程を考えたときに、みなさんはどんなイメージを持っていますか。木のようにどんどんと枝分かれをしていく、樹形図のイメージが多いでしょう。そして数多くある枝のひとつの先端に私たちがいるわけです。

では趣向を変えて、逆に時間をさかのぼってみるとどうでしょうか。普通なら幹から枝へと上っていく場合は道が何本にも分かれていきますが、反対に時間をさかのぼって、枝の先端から幹へ下りていく場合は一本道のはずですね。そうして、一本道を下って他の枝と合流していくといくと、いつかアウストラロピテクス(Australopethicus)という太い幹へとたどり着くはずです。つまり、私たちの遠い祖先はアウストラロピテクスだと考えられています。少なくとも、今までそう考えられていました。

 ところが、私たちにとってアウストラロピテクスは本当に直結の先祖なのか、または、ヒトの進化の過程は樹形図のような単純なものではなくて、絡まった毛糸のようにもっと複雑なものではないのかという声が高まってきました。

 私たちがどこからやってきたかという疑問は誰しももっていることでしょう。しかし、その疑問は、今回の発見により、より複雑で謎めいたものになってしまいました。このことに専門家も驚きと同時に戸惑いをかくせないようです。それでは、今回はこの深い疑問について掘り下げてみることにしましょう。

ケニアの平たい顔のヒト

 今回の衝撃は1999年にケニアで掘り起こされたある頭蓋骨にはじまります。北ケニアのタルカナ湖の西岸で、リーキー博士は今までには見たことのない頭蓋骨を発見したのです。比較的平たい顔や臼歯は小さいといった特徴をもった頭蓋骨でした。それぞれの特徴一つ一つは決して目新しいものではなかったのですが、これらの特徴がこのように組み合わさっているものは他では発見されていませんでした。場所や特徴にちなんで、ケニアンスロプス・プラチオプス(Kenyanthropus platyops)という名前が付けられました。ケニアの平たい顔という意味を表しています

 この骨をいつのものかを調べたところ、およそ320から350万年前のものだということが分かりました。ちょうどこの時期には、先ほどのアウストラロピテクスが存在していた時期なのです

 アウストラロピテクスは、300から400万年前に存在していたと考えられています。アウストラロピテクスの化石で有名なものに、ルーシーと呼ばれる化石があります。これは1974年にドナルド・ジョンソン博士がエチオピアで発見したものです。これ以来、アウストラロピテクスは以降の原人、新人、そして私たちの共通の祖先だと考えられてきました。

 ところで、なんでこう、原人などの名前は長ったらしくてセンスがないのかなと思った方も多いことでしょう。英語ではもっと発音しにくいですからね。それぞれの頭蓋骨には、ルーシーなどといったニックネームが付けられることがあるのですが、この頭蓋骨は今のところ性別が分かっておらず、ニックネームが付けられないようです。とりあえず当分の間は、専門家も舌をかむことになるのでしょうね。

私たちの祖先はアウストラロピテクスだけか?

今まで、ヒトの進化が枝分かれし始めたのは、アウストラロピテクス以降の250万年前くらいからだと考えられてきました。少し詳しくこの過程を説明しておきましょう。
(今回のコラムの説明に都合のよい図が見つけれなかったので、アニメーションをつくっておきました。このページからジャンプできます。)

 まずはアウストラロピテクスを主幹として、大きく分けて二つの枝に分かれてヒトは進化していきました。

 一つはパランスロプス(Paranthropus)と呼ばれる大きなグループでしたが、100万年前ほどには地球から姿を消しています。

もう一方はホモ(Homo)と呼ばれるグループでネアンデタール(neanderthalensis)やホモサピエンス(H.sapiens)などがいます。およそ200万年前から100万年前までは、このホモの中にもいろいろなグループがいました。しかし、今では、ホモサピエンスの他のグループは今の地球からは姿を消してしまっています。例えば、有名なネアンデタールも数万年前までは地球に存在していたのですが、それ以後突如として姿を消しています。

 地球上に、ホモサピエンス以外のグループや進化の過程の途中のグループが存在していないというのは非常に不思議なことです。話が変わりますが、しばしばダーウィンの進化論に反対する根拠としてこれが用いられることがあるのはご存知でしょう。

 いずれにしても、アウストラロピテクスを共通の祖先として、二つのグループができ、一方は絶滅し、もう一方は今の私たちにつながっているという構図が分かってもらえたと思います。

 このように、およそ600万年前にヒトはゴリラやチンパンジーなどのほかの霊長類と枝分かれしてから、紀元前250万年以降にヒトの中で枝分かれしていったのだと考えられていました。少なくとも、紀元前250万年より以前にヒトの進化が枝分かれしていたことを示す証拠となる化石がほとんど発見されていませんでした。

 しかし、今回発見されたケニアンスロプスは、アウストラロピテクスとはまったく別のグループだと考えざるをいません。こういうわけで、少なくとも、ルーシーたちアウストラロピテクスが存在していた時期には、ケニアンスロプスという別のグループも存在していたことになるのは間違いありません。

 つまり、今まではヒトの進化が枝分かれし始めたと考えられていた250万年前より、ずっと前の400万年前くらいに、すでに枝分かれが起こっていたのではないかという考えにいたるわけです。

 そして、私たちの共通の祖先と当然のことのように考えられてきたアウストラロピテクスは、直結の祖先ではなく、もっと前に枝分かれした遠い親戚に過ぎないということになるのかもしれません。もちろんこれについては、科学者の間でも議論になっており、今のところ何もいえませんが…。おそらく一年や二年でかたのつく議論ではないでしょう

掘り出した後の熱い議論

 私たちの祖先は今まで考えられてきたアウストラロピテクスではなく、別のグループのものだなんて聞くと、なんとなく興味をかきたてられますよね。新しいものや新しい考えが好きな人にとっては、私たちの進化の歴史が覆されるなんて聞くと、今回の発見が楽しみで仕方ないのではないでしょうか。

 アウストラロピテクスVSケニアンスロプスという構図で今回の発見をすえると、私たちにとってはシンプルで非常に分かりやすいのですが、一方ではあまり気持ちのいいものでないと思っていることも事実です。

 以前からこの業界に対して、新しい発見があるたびに科学者は自分の発見を正当化しようと派手に宣伝しすぎるという批難がありました。これは、アマチュアの考古学好きがあつまる掲示板などを見ても、いろいろなところで見られます。

 それに、先ほど出てきたリーキー博士とジョンソン博士はまったくの他人ではなくて、以前から家族を巻き込んで、いろいろなことがありました。ジョンソン博士がアウストラロピテクスのルーシーを掘り起こしたのは先ほど述べたとおりです。しかし、このとき、リーキー博士は、アウストラロピテクスの樹形図上の位置付けに疑問を抱き、ジョンソン博士と議論を巻き起こしたことがあるのです。今回の発見のように、マスコミによってルーシーに挑戦だとか、ヒトの進化の歴史を取り替えるとか、派手に対立構図を際立たされて報道されてしまうと、二人の中が険悪なものになるだけでなく、後々正しい判断がしにくくなってしまうことも考えられます。

 しかし、あれだけ騒ぎ立てたマスコミも、しばらくして時間がたち、ほとぼりが冷めた頃には別の行動に出るからなんとも不思議なものです。マスコミは、自分たちで大騒ぎしたのを棚に上げて、騒ぎによって研究の正確性が損なわれたなどといった他人事のようなことを言い出すのです。日本の場合では、今回の内容について、このようなあまり見つけることができなかったのですが、あまり他人のことをとやかく言える状況でないのは同じようです。

この例で私が見ていて、まさにそのとおりだと思ったのは、ニューヨークタイムズの対応です。はじめは3月の21日に”New Find Challenges ‘Lucy’ as Mankind’s Oldest Ancestor”(最も古い人類の祖先と考えられているルーシーに異議を唱える新しい発見)という衝撃的な題名の記事を書いたのですが、この記事を何回か修正して、議論の過熱のし過ぎをほのめかす内容を加えて、3月22日に同じ記事を”Skull May Alter Experts’ View of Human Descent’s Branches”(ヒトの進化の樹形図の考え方を変えるかもしれない頭蓋骨)という控えめな題名のものに書き換えていました。その後、「今週のレビュー」では、”Fossil Find: The Family of Man Grows a Little Larger”(化石の発見:ヒトの家系図は少しだけ大きくなる)というかなり客観的な題名をつけた記事を書いています。

 ちょっとからかってしまいましたが、ここまで丁寧にこの内容を取り扱った一般紙は、ニューヨークタイムズ以外にありません。感服しています。

新しい発見、そしてこれからは…

 ところで、ここ数年は掘れば何か発見がされるといった感じで、次から次へと新しい発見につながる化石が見つかりました。例えば英文雑誌TIMEの記事を見てみると、毎年のように関連記事が雑誌の表紙を飾っていました。

 このように実はここ数年で、この分野では立て続けに大きな発見がされています。そのため、科学者も発見をどのようにとらえるかということに苦労しているようです。

 ここでちょっと説明しておくと、古生物学者はだいたい二つのグループにわかれるそうです。一つは発見を既存の分類に当てはめていくタイプと、もう一つは細かく枝わけをしていくタイプだそうです。

 この半世紀は、前者のほうが主流でした。これまでは権威のある学者が、新しい発見を何とか既存の3つの分類に当てはめるというものでした。つまり、アウストラロピテクスとホモの中の二つの分類の三つです。お分かりだと思いますが、これはまさにほとんど一直線ですね。幹に多少の細枝があるだけといったイメージです。中には、同時期に二種類以上のグループが存在したなどといったことはありえないという科学者もいたほどでした。極端な話、今までは、いかにすっきりとした人の進化の過程の樹形図を描くかといった研究だったのです。

 しかし、最近では、もはや既存の分類に収めきれないような新しい発見が次々と発見されてきました。つまり、後者の古生化学者が優勢になってきたのです。しかし、こちらが優勢になるということは、それだけ人の進化が複雑でわかりにくくなったということの裏返しでもあるのです。今年にフランスのチームによって発見されたオローリンと呼ばれるグループなども、今までのグループにはまったく属さない発見でした。

 このように、あまりにも衝撃的な発見が多いため、情報の整理が追いつかないようです。そのため、ヒトの進化を表す樹形図には、身元不明、正体不明のグループがあちこちに散在しているといった感じがします。それぞれのグループが他のどのグループへと進化していったのかということが分からない状況です。点と点が線で結べないような状況といえるでしょう。

 「自分たちがヒトの進化の樹形図を考えているときに、新しい発見のせいで、今までの取り組みが台無しになる。とりあえず、これから数年でケニアンスロプスの発見のおもな影響は専門家の頭を悩ませることだろう。」などと冗談まじりで、本音をこぼす専門家もいるほどです。

 こういうわけで、これからは新しい発見だけではなく、骨格に関しての生物学者や分子生物学者などが協力して、樹形図上に散らばっている点を結んでいくかということが重要になっていくと考えられています。

関連サイト

  • ケニア国立博物館
    今回の発見についてのページ
    この博物館ににケニアンスロプスの骨が保管されていると思います。ただし、写真などはなさそうです。
  • Human Evolution in 3-D – UCSB
    今回のコラムに出てきたケニアンスロプスはありませんが、他の有名な頭蓋骨が3Dモデリングでぐるぐる回して遊べることができ..、もとい、鑑賞することができます。とりあえず、"Click here to enter the gallery"というところをクリックすれば自動的に始まります。
  • Nature
    今回の発表が騒がれたのは、なんだかんだいってもこの誌面をかりて発表されたから。今回はたぶん会員でなくても記事を読むことができると思います。このサイトは直接リンクがはれないので、トップページで、この巻号とページを入力してみてください。
  • New hominin genus from eastern Africa shows deverse middle Pliocene lineages
    vol. 410 p433-440

    とてつもなく詳しくかかれています。専門的な知識のある人むけ。もしくは写真だけが見たい人むけ(?)。

  • Another face in our family tree
    vol.410 p419-420

    こちらの方が一般の人向け。

●その他、一般のニュースサイトの関連記事をあげておきます。タイトルを見ると私の記事の内容がナルホドという気になるでしょ。(笑)