■電子ペーパー、電子インク
- 電子ペーパーの今後
●多機能化する電子ペーパー
1997年にルーセント社(Lucent)のベル研究所が有機分子からなる実用的なトランジスタの開発に成功してからというもの、電子ペーパーだけに限らず、ディスプレイ業界に大きな流れがうまれた。それはディスプレイのフレキシブル化である。
これまで、硬くてもろいアモルファスシリコンやポリシリコンを使っていたTFTを、有機トランジスタに置きかえることで、フレキシブルなディスプレイが可能となったのだ。1999年にルーセント社とE
Ink社が技術提携を行なうなど、電子ペーパーもこの恩恵を受けている。
Lucent, E Ink Developing E-Books Using Bell
Labs Plastic Transistors
- Lucent(プレスリリース1999)
こうして電子ペーパーは、フレキシブルままで、内容の表示・書換・消去といった自己印字機能を備えるようになった。そのため、単に「紙」の代わりとしての利用だけではなくて、液晶に代わってパソコンやPDAのディスプレイとして使えないかという試みもなされている。
他にも、電子ペーパーのマルチカラー化の研究開発も行なわれている。例えば国内では、E
Ink社と提携している凸版印刷がカラーフィルタを担当している。
凸版印刷、米イー・インク社とカラー電子ペーパー共同開発へ - 凸版印刷
ただし多機能化が試みられる一方で、あくまで電子ペーパー本来の手軽を重視する方向もある。これは、自己印字機能などを備えずに、外部装置によって書き込み消去を行なうというものだ。例えば、富士ゼロックスは、プリンターと紙の関係のように、書き込み装置と表示媒体を分けた「光アドレス電子ペーパー」という戦略をとっている。
光書き込み型電子ペーパー技術の紹介 - 富士ゼロックス
今後電子ペーパーがどのようなものになっていくかは、まだ何ともいえない。しかし、次に述べる「他のディスプレイとの比較」の中にその答えがあるのかもしれない。
●他のディスプレイとの比較
電子ペーパーは、液晶ディスプレイと比べて、次のような利点がある。
・消費電力が低い
・視認性が高い(視野角が広い)
・フレキシブルである(柔軟性がある)
液晶ディスプレイは省エネということが売りだが、電子ペーパーはそれ以上に省エネといえるかもしれない。その大きな理由が、書換の電気信号を送らない限り、一度表示した内容は電気を消費することなくそのまま表示されつづけるということにある。それに、視認性の高さは液晶ディスプレイとは比べ物にならないほどよい。柔軟性があるということも、液晶ディスプレイにはない応用例を開拓することにつながるだろう。
ただし、電子ペーパーが液晶ディスプレイに取って代わるということはまず考えられないだろう。というのも、いくらアクティブマトリックス駆動の電子ペーパーをつくっても、動画表示には向かないからだ。
それに電子ペーパーの将来を考えるときは、液晶ディスプレイのことだけを考えていればよいわけではない。実は最も手ごわいライバルは、フレキシブルで表示速度も速く、視認性も高いとされている「有機ELディスプレイ」だろう。いくつかの性質で、電子ペーパーと有機ELディスプレイは競合する部分があり、そのたいていの部分では有機ELのほうが高いポテンシャルを秘めていると考えられている。実際、研究開発に携わっている企業の数や投資の規模は、電子ペーパーより有機ELのほうがはるかに多い。
そうなると、電子ペーパーは有機ELのニッチを探ることになるのかもしれない。いずれにせよ、有機ELディスプレイとのすみ分けが重要になると考えられている。
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