■半導体
− エネルギーバンドで電気的性質を理解する
これまでの説明で、半導体の電気的性質のイメージはだいたいつかめただろうが、さらに発展させていくためには、どうしてもエネルギー空間的な見方が必要になってくる。

分子軌道の数が増えるにしたがって、次第にバンド構造に近づいていく |
原子のもつ電子は、飛び飛びのエネルギー値をとる軌道上に存在している。二つの原子が存在すると、それぞれの電子の軌道がお互いに影響しあって、新しく別の軌道を2個つくる。安定な結合性軌道と不安定な反結合性軌道だ。この新しい軌道を「分子軌道」と呼んでいる。原子が三つになると、3つの分子軌道ができる。これは何度繰り返しても、やはり同じように別の分子軌道ができあがる。
ところが、シリコンの単結晶のように、ほとんど無限個(アボガドロ数個以上)と言ってもいいほどの原子がお互いに影響しあって分子軌道をつくった場合、たくさんの分子軌道で隙間なく埋め尽くされて、バンド(帯)のようなエネルギー分布になる。実際、半導体や金属(導体)などの結晶の電子は、分子軌道のように飛び飛び状のエネルギー分布をしているのではなく、バンド状のエネルギー分布をしている。これを「エネルギーバンド」と呼んでいる。
エネルギーバンドの主な構成要素は、結合性軌道の集まりからなるエネルギーの低い「価電子帯(Valence Band)」、反結合性軌道の集まりからなるエネルギーの高い「伝導帯(Conduction Band)」、そして電子の存在することのできない「バンドギャップ(禁制帯、band gap)」の三つだ。
下に、導体、(真性)半導体、絶縁体のエネルギーバンド図を示した。
図からすぐに分かることは、半導体と絶縁体の違いは、バンドギャップの大きさが違うだけということだ。絶縁体の方が半導体よりバンドギャップエネルギーが大きい。実際、半導体と絶縁体の違いはこの程度のもので、半導体と絶縁体の境目となるバンドギャップエネルギーが決まっているわけでもない。したがって、研究する人によって、同じものでも半導体に分類されることもあれば絶縁体に分類されることもある。半導体と絶縁体の分類をしない研究者もいるほどだ。
このエネルギーバンド図で考えるなら、電流が流れるということは、価電子帯にある電子が伝導帯に飛び移ることに相当するが、バンドギャップが大きいほど飛び移りにくい。つまり、バンドギャップが大きいほど、電気抵抗は大きい。これは、絶縁体と半導体の性質に矛盾しない。
では、N型/P型半導体のように不純物を加えたとき、エネルギーバンドはどのように変化するだろうか?N型/P型半導体のエネルギーバンドを下の図に示した。
まずはN型半導体を見てみよう。シリコンより価電子の多い原子でドープすると、自由電子が余分に提供(ドナー)される。この自由電子の影響で、「ドナーバンド」というものができる。ドナーバンドは価電子帯と伝導帯の間にできるので、電子がドナーバンドから伝導帯に飛び移るのは、価電子帯から伝導帯に飛び移るより簡単に起こる。そのためN型半導体の電気伝導性は劇的に上昇する。
次はP型半導体を見てみよう。こちらは正孔を提供、つまり電子を受け入れる(アクセプター)。この正孔の影響でできる空のエネルギーバンドを「アクセプターバンド」という。すると、電子は価電子帯から伝導帯まで飛び移らずに、アクセプターバンドまで飛び移るだけでよいので簡単に起こる。P型半導体の電気伝導性が上昇するのはこのためだ。
このように、絶縁体とほとんどかわらない(真性)半導体に不純物を添加して電気伝導性を上昇させることを「ドーピング」するという。
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