野菜が嫌いな別の理由
この記事では、 という内容を取り扱っています。 前ブッシュ大統領はブロッコリーがお嫌い?野菜が心から好きという人はいったいどのくらいいるでしょう。健康にいいからとか、ダイエットのため、美容のためだと自分に言い聞かせて食べている人って多いんじゃないですか。それとも、質問をかえて、「野菜を食べることに何のプラスもなければ、あなたは進んで野菜を食べますか」としたらどうでしょうか。野菜にとってはショッキングな質問です。 ところで、日本でも世界でも、トップの人が本音を言うと、いろいろとまずいことが起こるものです。かつて、前ブッシュ大統領がブロッコリーが嫌いだといったことがありました。しかし、これはまずかった。野菜を子供に説得させて食べさせようと必死になっている世界中のママたちとブロッコリー業者がこの発言に怒りました。野菜がまずいから食べなくていいというわけではないということは、誰でも頭では理解しているつもりでしょう。そこで、今回は、野菜のまずさを取り巻くいろいろなことをちょっとのぞいてみましょう。 まずい=苦い?野菜がまずいと考えられる最も大きな原因は、野菜に「苦い」と感じさせる成分が含まれているからでしょう。単純に苦いと区切れるものではないかもしれませんが、少なくともあの独特の味は、甘いや辛い、しょっぱい、酸っぱいなどといった味覚よりは、苦いに近いでしょう。あまり意識したことはないでしょうが、私たちは野菜をあの「苦さ」から、まずいと嫌っているのです。 野菜には栄養素、ビタミン、繊維といった体にいいものが含まれています。だから、いやでも食べろということになるわけです。ところが、野菜のまずさの元凶である「苦さ」とは、この物質によるものではないのです。苦さの素となるのはフィトケミカル(phytochemicals)とよばれる化学物質によるものなんです。このフィトケミカルと呼ばれる物質は、もともとの意味が植物に含まれる化学物質という意味でした。だから、本来の意味ならビタミンなども含まれます。しかし、今は一般にタンパク質や炭水化物、ビタミンなどの主要栄養素を除いて、植物に含まれている、健康によい化学物質という意味で使われています。この文章では後者の意味をもちいます。 フィトケミカルという言葉はあまり聞いたことがないかもしれませんが、皆さんはその中の一つ一つの物質は知っているはずです。例えばリコピンとかポリフェノールという名前を知っていますね。これらがフィトケミカルです。他にもカテチン(カテキン)、イソフラボンなどと皆さんが知っている物質がみんなフィトケミカルと呼ばれるものに所属するのです。(下のURL紹介からこれらの物質のきれいな顕微鏡写真が見れます。)今やお菓子や健康食品などどこにでも見つけられる名前ですね。そして、健康によいというのは折込済みです。ただ、よく見られるわりにいまいち実体のわからない物質という感じでしょう。でも、実はちょっと立ち入ると実に面白い物質です。 植物の大気「汚染」これらのフィトケミカルが体にいいことはあとで述べますが、何も野菜は私たちの健康のためにこのフィトケミカルをつくってくれているわけではないんです。フィトケミカルからは、植物が進化してきた歴史を垣間見ることができるのです。そこで、時代をさかのぼってみましょう。 植物がはじめて地上にあらわれたとき、大気は今のような成分比ではなく、酸素は非常に少ないものでした。しかし、植物が光合成をおこなった結果、大気中には酸素の量が増えていきました。このおかげで動物は地上で進化し繁栄することができたのですが、実は酸素の増加は、植物にとって都合が悪いことでした。酸素が多いということは必ずしもよいこととは限らないからです。例えば私たちの老化現象も酸素によるところが大きいと考えられているように、植物にとっても、酸素の量が増えすぎることは脅威なのです。酸素に対する耐性が弱い原始の植物にとって、これは一種の大気の「汚染」と言えたのです。 現在の私たちの生活では、温暖化につながる二酸化炭素の増加が大気汚染だと考えられています。しかし面白いことに、見方を変えると、私たちは太古に植物がやってきた大気「汚染」のおかげで、今こうして存在しているのです。今から見てみると、植物が酸素を放出することによって果たした役割は実に面白いと思いませんか。 さて、その酸素による「汚染」に対し、植物は身を守るすべを見つけなくてはなりませんでした。そこで、非常に反応性の高い酸素分子から身を守るために、植物は酸化防止物質を作るようになりました。それがフィトケミカルです。このおかげで、現在の植物のように酸素に対して耐性を持つようになっていったのです。酸素に対して耐性をもつことができなかったバクテリアや菌類を考えてみると、この植物の進化がいかにすごいものかが分かることでしょう。そして動物も、植物がつくったこのフィトケミカルを摂取することで進化してきたわけです。 野菜は食べないでと言っている?また、フィトケミカルの役割は他にもあります。フィトケミカルのおかげで、酸素に対する自己防衛能力をもっているのと同じように、植物は動物に対しても自己防衛能力をもつ必要がありました。なぜって、植物だって動物には食べられたくないからです。それと対照的なのが、果実部分でしょう。果実部分は動物に食べてもらって、種を別のところに運んでもらうという話で有名ですね。ただしあれは果実の部分の話で、野菜は食べられたくないのです。だから、「苦さ(まずさ)」をもって動物に食べられないように進化していったのです。その役割を果たしたのがやはりフィトケミカルなのです。フィトケミカルの苦さ(まずさ)を利用して、動物を拒絶したのです。果実部分が動物に「甘い」誘惑をしているのとは対照的です。 (ところで、お子さんを持つ読者の皆さん、このコラムをお子さんが見ないように気をつけてください。いままで、子供に「食べないと野菜さんがかわいそうでしょう。」という説得していたりしませんでしたか。すぐさま、かしこい子供に「野菜は食べてほしくないと言ってる」と反論されてしまいます。子供が野菜を食べなくなっても責任は取れませんよ。) そして、なかには、苦さだけでは自己防衛に十分でないと考える(?)ようになった植物は、毒素も持つようになりました。植物がますます自己防衛能力を高めたわけです。人間が苦さに対して敏感なのは、このような植物のもつ苦い毒素から自分を守るための能力だともいえます。この能力は人間のみならず多くの霊長類にも存在することが最近の研究からわかりました。動物の進化の過程のどこかで、動物は苦さを見つけ出す能力を身に付けたと考えられています。
業者の奇妙な行動こうして植物がフィトケミカルをどのようにしてつくってきたのかという歴史がわかったと思います。次に、フィトケミカルの体への影響について少し見てみましょうか。ここで述べなくても、カテチンやリコピンがどのように体にいいかということは健康志向の強い皆さんならご存知だと思いますが..。 たとえばトマトなどに含まれるリコピン(トマトジュースの表示を見てみてください。自慢げにリコピンのことがかかれてありますよ)は、トマトの赤色を作る色素で、ガンを防ぐとされています。フィトケミカルは確かに体にいいものなのです。 そこで、市場はフィトケミカルに目をつけて、なんにでもリコピンだとかポリフェノールだとかを一生懸命添加して消費者に売ろうとしているわけです。その宣伝効果があって、体によいらしいということは誰でも知っているわけです。でも、これらの物質が先ほど述べたような経緯でつくられてきたことなど、ほとんどの人は知ることがなかったでしょうが。 ところで、実を言うと、今でこそフィトケミカルは健康にいいものと市場で崇められていますが、以前の市場の動向は、このフィトケミカルを以下に取り除くかということに関心があったのだから、なんとも面白い話です。 先ほども言いましたように、このフィトケミカルは苦さの成分で「苦さ=まずさ」なわけで、かつて業者は何とかこのフィトケミカルを野菜から取り除いて、「おいしい(食べやすい)」野菜を作ろうと努力していたのです。昔の野菜と比べると、今の野菜って食べやすい理由は、このような業者の努力があったわけです。しかし、かつて取り除いていたフィトケミカルを、今度はいろんなものに添加しまくっているというわけです。今回の内容はいろいろと裏側がのぞけて楽しいですね。 フィトケミカルの研究さて、業者の努力をからかってばかりいてはいけません。このように業者が奇妙な行動をとるハメになったのは、以前までフィトケミカルの効用が明らかでなかったからです。このフィトケミカルの効用が最近になって、いろいろと分かってきたのです。フィトケミカルの研究の推移を見ていきましょう。 1970年代から、食品と健康や寿命との間にどのような関係がるのかということに徐々に焦点があてられるようになりました。70年代に最も注目されたのは、今となっては知らぬ人のないコレステロールでした。(ただしコレステロールはフィトケミカルに含まれませんよ。)このコレステロールの血中濃度が高いと確かに危険なのですが、このコレステロールを摂取することが血液中の濃度を高めることとは直接つながらないということが分かり、市場からコレステロールの人気がうすれていきました。 ところで、ちょっと前に日本でもコレステロールが大騒ぎになりましたね。しかし結局のところ、体に悪いのかどうかが分かりにくかったと思うのですが、その原因の一つにこのあいまいさがあるのではないかと私は考えています。 コレステロールの後にやっとフィトケミカルが注目されるようになったのです。1980年代から90年代の間に、このフィトケミカルは多くの科学者によって薬品や化学品への応用が研究されました。フィトケミカルがときどき植物化学薬品と訳されることがあるのはこのためでしょう。(あまり決まった日本語訳はないようですが植物化学物質という訳が多いようです。)このフィトケミカルは体の中での反応に携わる酵素を活性化させたり増産したりする効果があり、そのおかげでがん細胞の発生を抑えたり、心臓病や脳卒中を防ぐのをてだすけしてくれます。基本的に病気予防に役立つ物質です。さっきのリコピンはこの一例です。 ただし、いいことずくめのように見えるフィトケミカルも、摂取のし過ぎはあまり感心できたものではありません。例えばビタミンAの摂取と関わるベータカロチンを摂取することはさまざまな利点があります。しかし喫煙をしている男性が、これを摂取しすぎると肺がんの可能性が高くなると報告されています。このようにある種の状況が重なるとフィトケミカルにもマイナスの面が出てきます。もちろん普通に野菜から摂取している場合には問題ないのですが、薬品や補助食品として摂取する場合は、過剰な摂取には注意が必要というわけです。 消費者のジレンマさて、話が膨らみましたが、最後に一つ問題が残りました。それは野菜の消費者のジレンマです。かつての業者がやったように、おいしい(食べやすい)野菜を追及すると健康によいフィトケミカルが失われ、健康を重視するとまずい(苦い)野菜を食べなくてはならないということです。これは科学の力ではどうにかできるものではないでしょう。 今日の食卓に並んだ野菜をにらめつけ、「私に食べたれたくないからそのようにまずくなっているようだが、まずいからこそ栄養があるので食べてやる。」といった意気込みでそのジレンマに打ち勝ってください。 ※フィトケミカルという言葉はあまり日本では使われていないようです。googleで入力したところ、フィトケミカルが51件、植物化学物質が71件、植物化学薬品が1件という結果でした。しかし、先ほど述べたように、皆さんはリコピンとかポリフェノールという個々の例は知っています。 関連サイト結局、個々のフィトケミカルについて、あまり触れることができませんでしたが、下にあきれるほど詳しくかかれてあるサイトを紹介します。自分の興味のあるフィトケミカルを一つくらいのぞいてみてはどうでしょう。いずれ、個々の例で面白い話を見つけたら、またコラムを書きますね。
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