ナノテクノロジー 序章 小さな世界の大きな情報スペース
この記事では、 という内容を取り扱っています。 さらに小さく最近のコンピュータ技術の進歩はすごいですね。どんどん高性能、高密度になっていって、しかも価格が下がっていきます。そして、どんどん小型化していっています。 こんななか、最近はナノテクノロジーという言葉を聞きますよね。ナノという原子分子レベルの大きさで操作する技術で、例えばコンピュータなら、さらに小型化、高密度化できると話題になっています。これだけを聞いていると、ナノテクノロジーというのは、今までの機能をより小さい形で可能にする技術なんだなといったイメージを持つかもしれません。 しかし、このナノテクノロジーは、ただ小さくできるだけではないのです。実はもっと面白い技術なのです。ナノテクノロジーはさまざまな分野に応用できますが、今回は情報通信の分野に限って、何が面白いのかながめてみましょう。 今までの技術は原始的で不器用?今でこそナノテクノロジーという言葉はあちこちで見られますが、実は1959年にリチャード・ファインマンという物理学者が、講義の中ではじめてナノテクノロジーの概念を提唱しました。ところが、ファインマンはこの講義の中でとても不思議なことを言っているのです。 その講義のタイトルは‘There’s Plenty of Room at the Bottom’ というものでした。’Bottom’という抽象的な言葉のせいで分かりにくいのですが、原子分子レベルの小さな世界には十分なスペースがあるといった意味でしょう。そのスペースとは、情報を蓄えるためのスペースのことです。そんなスペースがありながら、私たちはそれを利用していないといっているのです。 当然そのころの技術は未熟で、その余りあるスペースを利用することはできませんでした。しかしファインマンは、いずれはそのスペースを使うことが可能になり、当時で24巻にもなるブリタニカ大百科事典の情報を針の先ほどの空間に蓄えることができると予言しています。 では、ファインマンの予言が現実のものとなったかを考えてみましょう。 とりあえず今の現状を眺めてみると、コンピュータ技術の進歩のおかげで、針の先とはいわないまでも、小指程度の大きさの空間にそのブリタニカ大百科事典が収められるようになってきました。講義が行われたころと比べると、コンピュータ技術もかなり進歩しました。 ところで、その進歩についてですが、ムーアの法則というものがありますね。これは現代の半導体の技術の進化速度を予測したものです。シリコンに情報を蓄える密度は毎年だいたい二倍になり、シリコンのパフォーマンスは18ヶ月で二倍になり、しかもどんどんコストを下げていくという内容です。この法則では、初めのうちはシリコンについてだけ予言していたのですが、後々に登場した磁気ディスクにもあてはまる法則でした。本当にたいしたものだと思いますが、コンピュータが商業的に市場に出回るようになってから今まで、この法則はほとんど当てはまってきました。 このようにして、ブリタニカ大百科事典の情報はますます小さなスペースに収めることができるようになっていきました。 そこでこのような現在の小型化の技術の進歩をながめながら、ファインの予言を考えてみると、予言はあたったといえるのでしょうか?今のところは、的中しているとは言えないにしても、ムーアの法則にしたがって、じきに予言が現実のものになると言えるのでしょうか? 実は答えはノーです。そもそもファインマンは、自分の予言を実現を可能にするのが、ムーアの法則に代表されるようなこれまでの半導体技術の進歩などではないと考えていました。ファインマンは講義の中で、ナノテクノロジーとそれまでの小型化の技術をはっきりと区別していました。そして、自分の予言はナノテクノロジーによって、はじめて可能になると考えていたのです。 それだけではなく、ファインマンは講義の中で、今まで進歩してきたコンピュータ技術のことを、最も原始的(primitive)で不器用(halting)だとさえ言っているのです。 しかし、なぜ、ファインマンは今までのコンピュータ技術の進歩を原始的だとか不器用だという必要があったのでしょうか。ナノテクノロジーは今までの小型化の技術とくらべて、いったいどう違うというのでしょうか。 この不思議な発言を理解するためには、私たちはナノテクノロジーと今までの技術の違いを意識しながら見ていかなくてはなりません。 ナノテクノロジーは何が違うのか私たちの今までの半導体を小型化する技術とナノテクノロジーがどう違うかというのを考えるのに便利なのが、トップダウンとボトムアップという考え方です。経済やソフトウェア開発、行政などでもよく使われる言葉なので、聞いたことがある方も多いでしょう。 今までの半導体の小型化の技術がどちらかと言われると、トップダウンの方にあたります。この場合、トップダウンというのは、切ったり、はったり、型に入れたりして、どんどん半導体を小型化していったことを指しています。ムーアの法則というのも、このトップダウンの考えにのっとって、どのくらいの割合で半導体を小型化、高密度化していけるかというものといえるでしょう。 ではナノテクノロジーはどうでしょうか。ナノテクノロジーは反対のボトムアップの考え方になります。物質を作っている最小単位の原子や分子を積み木のように積み重ねていって、私たちの望みのかたちや機能をもった物質を作っていこうとするアプローチです。 このように、今までの技術とナノテクノロジーは発想から違うのです。 そして、ファインマンは、今までのトップダウンのアプローチを不器用で原始的だと言っているのです。もっとも、今の技術は、ファインマンが講義を行ったときの技術とくらべてはるかに向上しています。しかし、いくら進歩しようとも、今までの技術は原始的で不器用だといっているのです。 この理由には、今までのような半導体の小型化の技術の進化の限界がいずれやってくるということが分かっているからなのです。そのうちムーアの法則は破綻してしまうのでしょうか。 ムーアの法則の終焉まず、これまでのような半導体の小型化の将来を考えてみましょう。ムーアの法則に基づいて計算すると、あと20年もすれば、コンピュータチップの回路の大きさは原子程度の大きさになってしまうという結果が出てきます。 一般に今の半導体は、光を照射することによって化学的に彫ることで加工されています。ところが、光の波長の大きさ(可視光線なら4-600nm)を考えると、原子や分子レベル(数nm)サイズにまで加工していくのは難しいでしょう。まるでリンゴの皮を電気ノコギリを使って、むこうとしているようなものです。 最近では、紫外線を使って回路を加工処理しているようですが、紫外線の波長の大きさは200nm程度で、やはり、この方法では100nmより小さい物質を作るのが難しいといわれています。 さらに、原子や分子レベルの大きさの世界では、私たちの世界とはまったく異なる量子の世界の性質が現れてきます。この量子の世界は説明するのが非常に難しいのですが、数ナノメートルの大きさになると、私たちの世界の大きさでは無視できた、電子の波としての性質が現れてくるのです。この世界は非常に不思議な世界で、私たちの世界の感覚では説明できないことがたくさんあります。 こんな世界では、トンネル効果という現象が起き、電子が絶縁体をすり抜けて他の回線へ流れ出してしまうのです。これでは回路の役割を果たさなくなってしまいます。
技術的な面からも、そして量子の世界の性質からも、ムーアの法則がいつまでも続くわけありません。こういうわけで、科学者は新しいコンピュータチップをつくる方法を必死で考えてきたのです。そこで、二つの方法が考えられました。 海の中の文化その二つの方法とは、量子コンピュータと分子コンピュータです。一般にナノコンピュータと呼ばれています。 量子コンピュータというのは、説明すると非常に難しいし、そう簡単に理解できるものではありません。しかし、簡単に説明してしまうと、電子の粒子と波の二つの性質をもっていることが際立ってくるような世界なので、私たちの世界にない性質を利用して、今までとまったく違うコンピュータを作ることができるというものです。電子の回転の位置や向き、存在と原子核の回転の向きなどによって情報を蓄えたり、処理したりするのです。 とにかく、この量子という世界は、私たちの世界とは大きく異なる不思議な世界なので、既存のコンピュータにはできないことをやってくれるのではないかというわけです。量子コンピュータは、話を広げるときりがないのでこれくらいにしておきましょう。 もう一つの分子コンピュータはどのようなものでしょうか。こちらもさっきの(といっても、ほとんど説明していないからわからないかもしれませんが….)量子コンピュータと同じくらい期待されている方法です。分子一つで、情報の書き込み、処理、読み込みを行おうというものです。具体的にどんな分子が、この分子コンピュータとして期待されているとおもいますか。 なんと、ここでDNAの分子が登場してくるのです。なんだかなあ(笑)、こじつけじゃないかと思いたくなるところですが、本当なんです。DNAというのは、A,T,C,Gという四つの文字で表現されていて、これが長く連続しています。こういったDNAの分子の配列(遺伝子)によって、タンパク質がつくられるわけです。DNAの配列がさまざまなタンパク質をつくるプロセスを、計算処理に利用しようというわけなのです。 こういうわけで、DNA全体では、あれほどたくさんある分子が、それぞれ一つのプロセッサの機能としてはたらくのなら、より速いスピードで複雑な計算をすることが可能になるというわけです。 ちなみにDNAはなにも薬や病気の治療に利用するだけではなく、このようにプロセッサや半導体としての利用も考えられている物質なのです。DNAはいろいろな分野から注目されています。 ここではあまり詳しい説明はできませんでしたが、どちらの方法も、このように今までの半導体中心のコンピュータとはまったく違ったアプローチで、大きな可能性をもっていることがお分かりでしょう。 今までの技術が原始的で不器用だとファインマンが言った理由は、ナノテクノロジーと今までの技術の違う点を意識することではっきりと見えてきます。このように、ナノテクノロジーは、コンピュータを単に小型化する技術にはおさまりきりません。まさに、小さな世界に、今まで私たちの考えもしなかったような情報のスペースの利用が可能になるのです。そして、量子コンピュータや分子コンピュータが進歩すれば、ファインマンの予言が実現へと近づいていくのです。ナノテクノロジーの魅力とは何かと聞かれれば、疑いもなく、今までの小型化の技術にはできもしないようなことを可能にすることだといえるのです。 関連サイト
|