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怒りのブレイクスルー 常識に背を向けたとき「青い光」が見えてきた
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21世紀の絶対温度―科学者の眼から見た現代の病巣の構図
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好きなことだけやればいい
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青紫色レーザーが可能にする次世代光ディスク
青色の候補は二つ - 期待の星、セレン化亜鉛
青色の候補は二つ - 「大穴」の窒化ガリウム
今後の展望とリンク集

 
青紫色レーザー - 究極の「青」はどうやって実現された?
 − 青色の候補は二つ - 「大穴」の窒化ガリウム

 - 実際にどれくらいの研究者がいたか知りませんが、九十九対1以下の割合だったでしょう。どんな論文を読んでも「窒化ガリウムでは難しい」と書かれていたくらいです。 -

 - しかし、私はあえて可能性の低いほうを選びました。窒化ガリウムです。 -

 − 「怒りのブレイクスルー」、中村修二著

 選択肢の残りの一つの窒化ガリウムのほうはどうなのだろう?実はこちらのほうは研究が行われる前からすでに見捨てられた状態にあったのだ。実際にGaNで青色LED&レーザーを開発した中村氏に言わせれば、ZnSeとGaNの研究の割合は「99対1以下」だったという。

 これほどGaNが不評だった理由は、「
格子定数」のミスマッチにあった。格子定数というのは単結晶を構成する原子どうしの距離について示したものである。

 今まで前提のように話してきたが、半導体でよく登場するPN接合というのは原子レベルでピッタリと合っていないといけない。実は半導体産業というのは私たちが想像する以上に数字に神経質なところがある。

 例えば、シリコンは半導体の主役で、ここから様々なデバイスが作られるが、はじめに用意されるシリコンの純度は通称「イレブンナイン」、つまり99.999999999%という超高純度なのだ。

 もちろん格子定数の一致についてはそれほど厳しいものではないが、理論からは接合する面の格子定数の違いが0.01%以下(実際はもう少し大きくてもよいのだろう)だと理想的とされていた。格子定数が大きく異なる層のうえに別の層を成長させると、サイズの違う卵のケースを重ねたときのように、ひずみや断層が出来てしまう。こうなると電気抵抗が桁違いに大きくなり、ジュール発熱で燃えてしまうのだ。


 V-X、U-Y半導体化合物について格子定数・バンドギャップの関係。まずは、青色領域にはいっているのがGaNとZnSeだということが分かる。ZnSeの周りには比較的よい一致をするGaAsなどがあるのに対し、GaNはまさに「南海の孤島」、シリコンカーバイドは5%程度、サファイアは15%程度のズレがある。

 上にGaNやその他の半導体の格子定数とバンドギャップの図が示してある。図から分かるようにGaNをレーザーチップとして使った場合、よい基板が見つからない。その一方でZnSeは、すでに半導体レーザーでスタンダードだったGaAsとほぼよい格子定数の一致を見ることができる。当初は、わざわざGaNを使ってレーザーをつくりたいとは思えない状況だった。


 かつて蛍光灯の蛍光体などを専門としていた小企業、日亜化学に長い間勤めていた中村氏は、ネームブランドのある大手企業を相手に苦労してきた経緯があった。そのため、できる限り大手が着手しているZnSeレーザーの開発で競合したくないという考えもあったようだ。ただ、どんな理由があったにせよ、GaNを選ぶのは負け覚悟の無謀な賭けだと、少なくとも当時は考えられていたようだ。

 GaNに最も近い格子定数をもつ半導体はサファイア(Al2O3)とシリコンカーバイド(SiC)であるが、GaNと比べてそれぞれ15%、5%程度の違いがある。0.01%が理想だとするとどっちもどっちだが、大量生産のことを考えると安価なサファイアの方をとるべきだろう。中村氏はこちらをとった。

 さて、このままサファイアを基板としてGaNを成長させても、当然きれいな結晶薄膜はできるはずがない。半導体の結晶薄膜をつくるにはよく「CVD(Chemical Vapor Depotion)」と呼ばれる、真空に近い状態で基板にガスを吹き付けるという手法がとられるが、中村氏はこの装置を改造して、「ツーフローMOCVD(Metal Organic CVD)」という珍しい手法をとった。一つの吐き出し口からアンモニアと有機金属ガリウムのガスを吹きつけるという一般的なMOCVDに加え、さらに基板の上を別の吐き出し口からのガスで抑えつけてやるというものだった。結果的には、これが青色LED&レーザー実現の最大のブレイクスルーとなった。

 ただし、これだけでは格子定数の違いの問題は解決しておらず、ツーフローMOCVDのほかに「ツーステップ成長法」も採用している。これは格子定数の違う二つの層の間に緩衝の役割を果たす「バッファ層」を作る方法だ。サイズの違う卵ケースどおしの間に布の布巾を挟んでやるようなものだ。具体的には低温の薄い窒化ガリウム層を基板の上に成長させる。これによってとりあえず基板の上に使える結晶薄膜を成長させることができた。

 次に必要となってくるのは、PN接合部のp型とn型のGaNを用意することだが、これも簡単ではなかった。n型はシリコンをドープすることで得られるが、p型は簡単ではなかった。しかし、マグネシウムをドープし、さらに熱処理することでp型も得られるようになった。

 これで「ホモ接合」というタイプの最も簡単なLEDをつくることができるが、さらに高輝度のものを得られるようにと、複雑な「ダブルへテロ接合」のものを作った。こうして中村氏によって世界ではじめて商品化できる青色LEDが93年に完成した。

 のちに量子井戸構造にすることで青色レーザーも完成している。また、レーザーとLEDの最大の違いは、レーザー発振という光の増幅作用があるかどうかにある。(詳しくは解体真書シリーズ「発光ダイオード(LED)」、「レーザー」などを参考に。)

 また、量子井戸とは量子サイズ効果の一つで、電子の波長(10nm程度)ほどに薄くした半導体結晶は、電子の数が少ないために離散的なエネルギーバンドをとるというというものだ。結果として、量子的に格子を二次元平面内に閉じこめることができ、高輝度なレーザーを作ることができる。下図は、そのGaNの
多重量子井戸レーザー(MQW laser;Multiple Quantum Well)を示したものである。もちろん室温動作可能で1万時間以上という商品化が可能なものだ。

 98年に日亜化学の技術を使ってソニーなどが開発した次世代メディア向けの青紫レーザー(390-410nm)。ちなみにかつてはZnSeレーザーを研究していたソニーだが、93年以降のGaN側のブレイクスルーにより、94年にGaNレーザーの開発に鞍替えしている。

 現在では、中村氏の勤めていた日亜化学の他にも違ったアプローチで青色レーザー&LEDを完成させている企業もいくつかある。例えば松下の方法は、SHG(Second Harmonic Generation)青色レーザーと呼ばれ、例えば850nmと赤外光を半分の425nmの青色光にするといったことを可能にできる。




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