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fMRIごしに見える「考え中」の脳の場所


---ここ数年認識神経科学は、fMRIを利用して脳の活動領域をピンポイントで示すことができるようになりました。この技術は、この分野だけにおさまらず、精神病などの研究にも利用されるようになってきました。しかし、そんなfMRIにも克服すべき課題が残されていたのですが、最近になってその謎が明らかになりました。---



この記事では
 脳の活動領域の地図
 認識神経科学のルネサンス
 fMRIと脳の活動の関係
     という内容で構成しています。
 

脳の活動領域の地図

 言葉を覚えているときやテレビを見ているとき、私たちの脳はそれぞれ異なった領域が活動しています。それを知るために、認識神経科学の専門家は、さまざまな実験とテストを繰り返し、どんなタスクに対して脳のどの領域が活発に活動するかということを少しずつ明らかにしてきました。

 ところがここ10年ほどで、fMRI(機能的磁気共鳴画像)という、人の脳の様子を直接のぞきこむことのできる装置が、この分野の研究で利用されるようになってきました。

 このfMRIによって、認識神経科学はこれまでにないスケールで進歩し、その研究対象範囲も幅広いものとなりました。しかし、そんなfMRIにも、まだ完全に理解されていないブラックボックスの部分が存在していたのです。しかし最近になって、その謎が明らかになりました。

 そこで、これまでのfMRIの貢献とfMRIのブラックボックス部分について見てみることにしましょう。



認識神経科学のルネサンス

 あるものを見たり考えたりするときに、私たちの脳のどの領域が活動しているかについて、fMRIは、その状況をリアルタイムで映像に映し出すことができます。

 今では認識神経科学の世界で、fMRIはすっかりとおなじみので道具となりました。このfMRIは血流分布を示すことができるのですが、この性質は脳にも応用できます。もともと病院などで、筋肉や骨など断面を映し出すなどの医療的な目的で使われていましたが、今では脳神経の研究などにも使われるようになってきたのです。そして脳の活動状態のマップをつくるために、神経細胞の活動と関係のある生理現象に注目します。一般的は、血液中の酸素の量について注目します。(BOLD法、blood-oxygen-level-dependent)こうして、脳のどの領域が活動をしているかということを推定ができるというわけです。

 被験者に痛みを与えずに、リアルタイムで高画像な脳の血流分布を映し出すことができるため、認識神経科学には理想的な手段と考えられています。

 従来の心理学的な実験にfMRIをあわせて利用することで、脳の活動領域が次々と明らかになり、fMRIを用いた実験報告のラッシュが起こりました。しかもfMRIのおかげで、実験の幅は相当広がりました。

 例えば、従来の認識心理学的な実験に、へんてこなアニメーションを被験者に何度も見せるといったものがあります。fMRIを使わないそれまでの方法なら、この後に被験者の感情や理解について、質問やテストで確かめたりしていました。ところが、fMRIを用いれば、被験者がアニメーションを見ている最中に、リアルタイムで連続的に脳のイメージをうつすことができます。このようにfMRIを使った実験は、今までの制約を取り払ってくれるものでした。

 また、fMRIのおかげで、従来の方法では難しい実験も可能にしてくれるようになりました。それは、心像(想像による映像)や、幻覚、幻聴といった、脳の中だけに存在しするものの認識についての実験です。

 まず、心像について考えてみましょう。今実際に網膜を通してある風景を見たときの脳の働きと、5分後にその風景を頭の中に思い浮かべて見るときの脳の活動とは同じものなのでしょうか?認識心理学的には、相当興味深い内容なのですが、これを従来の方法で調べることがどれほど難しいことかは想像がつくでしょう。しかし、fMRIには可能です。気になるその答えですが、fMRIなどの装置を使った実験の結果は、脳の活動領域などに関しては同じだとわかったのです。

 また、幻聴や幻覚といったものは精神病の典型例と言え、こちらも心理学的に非常に興味深いものです。これもfMRIを使って調べたところ、やはり普通にものを見たり聞いたりする場合と、脳の活動領域が同じだとわかりました。

 さらに犯罪精神病といった遠そうな分野の研究でも、この技術が応用されています。一般に、犯罪精神病は環境に大きな要因があると考えるのが精神病理学なのでしょうが、fMRIを使った研究では、むしろ生物学的なところに要因があるという結果が出る傾向にあります。これは人権などを含めて大きな論争の種になっています。


 このように、fMRIを使った最近の報告からうかがえるのは、単に多様で興味深いというだけにとどまらないようです。fMRIは、認識神経科学は、従来の分野で大きな貢献をしただけでなく、精神病の研究などかなり広い範囲にまで影響をもたらすようになってきているようです。
 



fMRIと脳の活動の関係

 そんなfMRIにも、基本的なところで、まだ明らかになっていないことがありました。最初の方で述べましたが、fMRIは血液中の酸素分布によって、間接的に脳の活動領域を推定していたわけです。

 しかし、酸素が多く供給されることと神経細胞の活動との間に、どのような因果関係があるかということはほとんど分かっていなかったのです。ほとんどの専門家はfMRIのうつした脳のイメージが、実際は何を意味しているかを詳しく知らないままだったのです。

 そのため、次々と実験データが蓄積されていっても、その膨大なデータを効果的に利用できる基準を考え出すのに苦労をしていました。

 しかし、血流による酸素の供給と神経細胞の間の具体的な関係が、ドイツの研究グループによって明らかにされました。

 神経細胞では情報の伝達を、電気的または化学物質などを利用して行っています。例えば細胞の内外でナトリウムイオン(Na+)とカリウムイオン(K+)のやりとりをして、内外の電位差を調整して電気信号としています。外からの刺激を受けると、細胞の外にあったナトリウムイオンが内部に流れ込み、内部の電位が変化します(local field potential)。この電位が一定の値になったら神経細胞が電気信号を発するといった具合です(action potential, nerve impulse)。

 問題となるのは、この神経細胞の電気的な信号と、fMRIによる酸素の供給量の変化との間で、具体的にどのような関係があるのかということです。この2つの現象の間には、ずいぶん隔たりがあり、今までこの関係が明らかにされていなかったのです。具体的な関係がわからないことには、より正確で深い研究をするのに問題が出てくるでしょう。

 しかし、この問題も今回の報告によって解決しました。今回の報告をした研究チームは、サルに模様の替わるチェッカーボードを見せ、脳の活動について2つの方法で観察しました。

 一つ目は、fMRIをつかって脳の血管中の酸素の量についての脳の活動領域を測定するものでした。そして二つ目は、麻酔をかけたサルの脳の神経細胞に細い針を刺し、細胞内外の電位差を測定するものでした。この二つ測定方法で、それぞれのデータを同時に記録し比較するというものでした。

 神経細胞が電気信号を受けたり送ったりする一連の過程にはいくつかの段階があるのですが、この方法のおかげで、どの段階に酸素量の増加が関係しているかということを突き止めることができました。

 その結果、脳の活動領域の酸素量が増えるのは、刺激によるインプットで電位が変化するlocal potentialの方に関係しているということがわかりました。この結果になったのは、電気信号を受けるときに必要なエネルギーを、血液によって供給された酸素とグルコースの反応によって補うためだろうと考えられています。

 こうして、いままでfMRIによる脳の測定の際に、血流の変化と神経細胞の活動の関係の謎が明らかになりました。これにより、ますますfMRIなどを使った認識神経科学は信頼性を増していくのでしょう。また、fMRIなどの装置のおかげで、今まで以上に幅広い分野の研究に大きな影響を与えていくのは疑いないでしょう。



           

関連サイト

理化学研究所 脳科学総合センター

電子技術総合研究所 ライフエレクトロニクスセンター

機能的MRIコース
 MRI、fMRIの仕組みについての科学的背景

How Your Brain Works - Howstuffworks(英語)
 脳の仕組みについて一通りさらりと知ることができます。

Form and function of nervous systems - Britanica.Online(英語)
 神経細胞の情報伝達の仕組みなど。

関連ニュース
今回の文章を書くのに参考にした記事をいくつか上げておきます。

Brain imaging explained - nature science update(英語)
 今回の報告について取り扱った記事。

特定された脳の記憶領域 - WiredNews日本版

Hearing voices - nature science update(英語)
 幻聴とfMRIについて。

Into the mind of a killer - nature
犯罪精神病は、環境的なものなのか、それとも人によって特有のものなのか?気になる内容。

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