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ヒトクローンに立ち込める暗雲 |
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---ドリーが登場したときは明日にでもクローン人間が登場するかといった勢いでしたが、最近では科学者も、クローンで健康な動物を生み出すことは予想したより難しいと認識しなおしつつあります。 --- |
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この記事では 不妊とヒトクローン ランダムな欠陥 予想外の成功、ドリー クローンが不思議な理由 問題は詰め込み作業に起こる という内容で構成しています。 |
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不妊とヒトクローン 今年の一月末、二人の科学者の発表に世界は釘付けになりました。アメリカのケンタッキー大学のパノス・ザボス教授と、イタリアの著名な不妊治療専門医のセベリノ・アンティノリ氏の二人が、ここ1、2年のうちにヒトクローンをつくると発表したのです。 今までにも、ヒトのクローンを作るということは宗教団体などが発表したことがあったので、その点では決して目新しいことではありませんでした。 ところが、これはいつも以上に議論をよびました。いったい、なぜでしょうか? 理由はいくつか挙げれます。 このグループは、ヒトクローンの適用は、不妊夫婦だけを対象にすると発表しました。ちょうどそのころは、不妊夫婦とヒトクローンの適用について具体的な事例のために関心が高まっていたので、その発表は多くの人の関心を引くものとなりました。 この不妊の場合の議論の内容を取り上げるときりがないのですが、このことによって、ヒトクローンに関する考えが大きくゆれたことは確かです。 ヒトクローンを商業的な目的で使うとなれば、誰でも声をあげて反対しますが、不妊夫婦の話になると、実際のところ、どうしてよいのかわからないといった戸惑いがあったようです。この発表を機会に、ヒトクローンについて、倫理面でより深く議論されることになりました。 また、同時に、技術の安全面も大きく取り上げられました。ただし、この安全面についての議論は、技術が確立されてしまえば問題でなくなり本質的ではないと、切り捨てられてしまう場合もありました。 しかしそうはいっても、私たちが思っている以上にクローン技術の安全面には問題が含まれているのです。ドリーが登場したときは明日にでもクローン人間が登場するかといった勢いでしたが、最近では科学者も、クローンで健康な動物を生み出すことは予想したより難しいと認識しなおしつつあります。 そこで今回は、現時点で私たちはクローン技術について何がわかっていて、何がわからないのか整理してみましょう。 ランダムな欠陥 ヒトクローンが安全面で問題があるといわれていますが、具体的な数字を出すと、その成功率は2,3%以下だと言われています。 そこでよく引き合いに出されるのが、ドーリーは276回の失敗の上でやっと生まれたということですね。これは1997年のことですが、現在でも正常なクローンが生まれてくるには、やはりそのまえに何回もの失敗が繰り返されているのです。 クローンのうまくいかない例としては、主に胎児の時点で発育に異常が生じるということが挙げられます。そのため、クローンの実験では、生まれてくる前に殺すことの方が多いということになります。 また、仮に生まれてきても、心臓が異常だったり、肺に問題があったり、免疫系が未発達だったりとさまざまな問題が生じています。 例えばマウスの場合、クローンのもととなった普通のマウスと、そのクローンのマウスに同じ量のえさを与えても、クローンの方は異常に太ってしまったという報告があります。最初のうちは正常だったのに、ある年齢から突如として、この異常が起こってしまったのです。もちろんまったく予想していないことでした。 このような問題が何か系統立てて生じれば、原因を突き止めやすいのですが、厄介なことにそうではなく、ランダムに生じているので、原因を特定することが非常に難しいのです。今の時点では、その因果関係について具体的なことはほとんど分かっていません。 これを明らかにしないと、クローンの成功率の上昇はのぞめないでしょう。 予想外の成功、ドーリー いまさら言うまでもないかもしれませんが、クローンの原理自体は実に簡単なものです。まず、クローンをしたい対象者の染色体を含む細胞から、その染色体を取り出します。また、代理母の卵子から核部分を取り出しす。そして、空っぽの卵子とクローンしたい対象者のDNAを、電気的なショックを与えることで、融合させます。これらの操作は体外で行われて、この融合した細胞を再び代理母の卵巣に戻します。あとはクローンが生まれてくるのを待つという仕組みです。 このように、仕組み自体は簡単なのですが、逆になぜこれでクローンができてしまうかと聞かれると、あまり分かっていないといわざるを得ません。はじめてドリーが登場したときもそうでした。 ドリーがはじめて登場したときのことは、誰もが衝撃的な出来事として覚えていることでしょう。私たちと同じ哺乳類がクローンされたということは、近いうちにクローン人間が登場するのではないかといった不安に結びついたからでしょう。 そして科学者にとっても予想できなかった出来事でした。ドリーが実際に生まれてみるまで、哺乳類の大人の細胞の染色体を使ってクローンをつくることは不可能だと考えられていたからです。そう考えられるのには科学的な根拠がありました。 クローンが不思議な理由 ヒトには数え切れないほどの細胞があり、またいろいろな種類の細胞があります。しかし、その細胞に含まれている遺伝子はみな同じです。しかし、同じ遺伝子を持ちながらも、それぞれの細胞は場所によって別の働きをしています。 皮膚も脳も肝臓もみな同じ遺伝子を持っているのですが、その遺伝子すべての情報が使われているわけではありません。皮膚細胞の遺伝子は皮膚細胞の形成に必要な遺伝子情報だけが使われ、脳細胞の遺伝子は脳細胞の形成に必要な遺伝子情報だけが使われているといった具合です。他の遺伝子は眠っている状態なのです。 そのため、皮膚の細胞は脳細胞にはなりませんし、脳細胞は皮膚細胞にはなりません。このように分化しきってしまった大人の細胞の遺伝子をクローンに使っても、その遺伝子が胎児としての新しい有機体をつくることは不可能だと考えられていたわけです。 しかし、ドリーの成功はこの考えを覆すことになりました。つまり、卵細胞の中で大人の細胞の遺伝子がまた新しい有機体を作れるように再プログラムされたことになります。しかし、どのようにそれが行われているかといったことはまったく分かっていません。多くの科学者も頭を抱えています。 問題は詰め込み作業に起こる ところが、クローンの場合では方法上、この再プログラムの仕事を卵子は数分から長くても数時間で行わなくてはなりません。しかし、そのような状況でも、卵子は再プログラムをしてしまうのです。 普通の生殖の場合でも、精子と卵子の遺伝子情報をかけあわせて同じようなことをしているのですが、こちらの場合は卵巣で数ヶ月をかけてゆっくり行われます。同じようなことをしていても、クローンの場合とは違って、長い時間をかけてしっかり行われているわけです。 そのため、クローンでランダムに生じる欠陥は、この詰め込み作業のときに何らかの無理が生じ、それが関係しているのではないかと科学者は考えています。もちろんあまり詳しいことは分かっていません。 パノス・ザボス教授とセベリノ・アンティノリ医師の計画は、高性能の設備が整い、多くの資金が集まり、世界中から参加者も集まり、もはや実現の一歩手前にあるかのような報道がされています。しかし、それでも、技術的な面からは、成功の可能性はほとんどないに等しいといわざるを得ないのです。 関連ニュース 今回の内容に限らず、ここ半年くらいのクローンのニュースを幅広く集めてみました。 毎日新聞 科学環境ニュース クローン人間 冷静な判断もとに誕生阻め 不妊夫婦にクローンベビー「日本もやがて合法化」−ザボス教授に聞く ともに今回の発表について書かれた社説とインタビュー。 Cloning humans: Can it really be done? - BBC(英語) ヒトクローン技術の安全性について。 Australian clone work targets endangered species - ENN(英語) クローン技術で絶滅に瀕している種を救えるかについて。 Japanese Team Clones Healthy Pig - ABC(英語) クローンブタの臓器をヒトに移植することについて。拒絶反応や免疫の問題など。 1st Male Mouse Clone May Save Endangered Species - Lycos(英語) 初めてオスのマウスのクローンに成功したときのニュース。 関連サイト Roslin Institute Online(英語) 哺乳類ではじめてのクローン動物ドリーを生み出したロスリン研究所のサイト。 HowStuffWorks(英語) クローンの特集はあちこちで見られますが、どれも情報が古かったりします。ここでは最近の流れを受けて、2001年に新しく作られた特集があります。 How Human Cloning Will Work かなり最近に作られたヒトクローンについての特集。分かりやすい。 How Cloning Works こちらも、最近の動物のクローンの可能性など詳しく書かれている。 |
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