このサイトは現在、サイエンス・グラフィックス(株)が管理しています。 お問合せはこちらまで。 |
||||
トップページ華麗なる急流絶滅理論 | ||||
|
華麗なる恐竜絶滅理論 。 |
|||
---ある宇宙生物学者が、物理公式や惑星の軌道データをコンピュータにプログラムして、太陽系モデルをつくっていました。そのコンピュータモデルのシミュレーションで年代を遡っていたところ、約6500万年前から太陽系の様子が変わるという結果がはじき出されました。ところが誰も予想していなかったことに、この計算結果は、恐竜の大量死があった時期と偶然にも一致しているです。そこでこの学者は、年代が一致した理由を考え、結果を報告しました。--- |
||||
この記事では 恐竜の大量死の謎 「科学者のるつぼ」 隕石衝突説 - 短期絶滅 ゆるやかな気候の変化 - 長期絶滅 華麗すぎる・・ という内容で構成しています。 |
||||
恐竜の研究と言えば、まずは古生物学が思い浮かびます。しかし、恐竜について、他のさまざまな分野の学者が異常なまでに興味を抱いていることがあります。たとえば、気候学者や天文学者、物理学者、そして今回の場合は宇宙生物学者といった具合です。共通点を絞り込むのが難しそうなこの学者たちは、恐竜の何に興味を持っているというのでしょう? ・・・それは、恐竜の大量死についてです。 恐竜の大量死の謎 今から約6500万年前の白亜期末のわずかな時期に、それまで栄えていた恐竜たちの謎めいた大量死が起こりました。この大量死は、"大絶滅(great extinction)"とも呼ばれることがあります。 しかし、地球上ではそれ以前にも大量死は何度か起きていることが知られており、この恐竜のときの大量死は、量の点では、まったく"great"ではないのです。このとき絶滅したのは恐竜だけではなく、当時の生物の約50パーセント程度が絶滅したと考えられています。ところが、 2億5千万年前のペルム紀と三畳紀の境目に起こった大量死では、地球上の90パーセント以上の生物が絶滅したと考えられています。 数の上では、あまりインパクトのない6500万年前の絶滅の何に、多くの科学者は関心を示したのでしょう? このときの絶滅が謎だといわれる理由は、絶滅した生物の数ではなく、絶滅した生物の組み合わせにありました。このとき、恐竜とともに絶滅したのは、アンモナイトや海洋原生生物でした。ところが、なぜか魚はまったく影響を受けなかったのです。他にも、恐竜と同じ地上に住んでいたワニやトカゲ、昆虫、鳥類もほとんど絶滅の影響は受けなかったのです。 このような謎の多く興味深い現象について、約二百年間、古生物学者や地質学者が中心となって、さまざまな議論を展開していました。まだこのころの議論は、一部の分野の科学者によって限られていました。 例えば当時の議論の内容は、疫病の流行や熱波の到来、かんばつ、一時的な寒冷期、火山の噴火に海面の上昇、それに卵を食べてしまう哺乳類が増えてきたからではないかなどと、地球上で起こりえそうなことなら、ほとんどすべてのシナリオが挙げられていました。 「科学者のるつぼ」 ところが、1980年代になって、この恐竜の大量死をめぐる争いに大きな変化が見られたのです。アメリカの地質学者ウォルター・アルヴァレツが、初めて隕石衝突説をとなえたのです。 これまでは大量死を説明する場合、そのほとんどが地球内の現象が直接の原因となったというものでした。ところが、彼が唱えた説は、今までの説とはずいぶん異なり、地球外からの要因が恐竜の大量死の直接の引き金になったというものだったのです。 このあと、大量死の原因は地球内で起こった出来事だというグループと、隕石衝突に代表されるような地球外の出来事が原因だというグループの2つに大きく分かれるようになりました。 両グループとも、約6500万年前に地球で気候の変化がおこり、恐竜の大量死につながったという点では共通しています。しかし議論の分かれ目は、その気候変化をもたらした要因が地球の内か外かということと、その気候変化が起こったのは長期間か短期間かということの二点に集中しました。 このように短期、長期だといったように、どちらかに絞りきれないのにもわけがあります。5万年程度昔のことなら、炭素年代測定法でその地層の化石を調べることで、きっちりと年代を観測することができます。しかし、6500万年も前のこととなると炭素年代測定法は役に立ちません。そのために、従来どおりの地質学的な観測によって調べ、6500万年の前後200万年程度の期間に収まるかたちで気候の変化が起こったということが分かったのです。 200万年というのは、地球の歴史でいえば非常に短いものです。しかし、生物が絶滅するには十分すぎる長さで、両グループのどちらが正しいかということが絞り込めないのです このようにして議論は過熱していきました。古生物学者や地質学者は、化石や地層を調べ、物理学者や天文学者は隕石や地層に含まれる化学成分を調べました。このようにして、幅広い分野の科学者が、それぞれ自分の視点でこの恐竜の絶滅の謎について議論するようになったのです。こうして、この分野は、まるで「科学者のるつぼ」のようになっていきました。 逆に、もともとこの分野を調べていた古生物学者のなかには、自分たちの手を離れて徐々に加熱していく恐竜絶滅の議論に関心を失っていくものも出てきました。こうして、古生物学者のいくらかは、恐竜の絶滅には関わらずに、むしろ恐竜の生態などのほうを中心に調べるようになっていったのです。 そのようななかでも、この論争はさらに「科学者のるつぼ」の様相をあらわしていきます。毎年たくさんの研究報告がされ、そのいくつかがメディアに派手に取り上げられているので、いろいろな説があるということは皆さんもご存知でしょう。 ただ、あまりに広範な議論のために、私たちだけではなく、この議論の外にいる科学者にも分かりにくいことが多いのは確かなのですが。 さて、そのようにさまざまな専門家が自説を披露しているようななか、やっと、今回の話の主人公である、太陽モデルを研究していた宇宙生物学者が登場してきます。この宇宙生物学者も、地球の恐竜の絶滅の議論に参加しようとしています。 ・・・が、今回の主人公の宇宙生物学者には、もう少し出番を待ってもらうことにしましょう。 そのまえに、大きなグループに分かれている、先ほどの二つの説を、もう少し詳しく見てみることにしましょう(笑)。 隕石衝突説 - 短期絶滅 地質学者だったウォルター・アルヴァレツが、隕石衝突説を唱えるきっかけになったのは、「K-T境界層」(Cretaceous-Tertiary boundary, K-T boundary)と呼ばれる特異な地層の発見したことによります。ウォルターは1970年代に、イタリアのガビオという町の地層に、地球ではあまり存在しないイリジウム(Ir)が通常の20倍も集中して含まれていることを発見したのです。 このイリジウムは、地球ではあまり多く存在しない元素なのですが、隕石などに多く含まれていることが知られていました。そこで、このK-T境界線に集中してそんざいするイリジウムの存在を説明するために、隕石衝突説を考えたのです。この地層がちょうど恐竜の大量死があった時期に一致したのです。今では、この隕石衝突説が、K-T境界線の性質を最もよく説明するものとして、広く受け入れられています。また今では、イタリア以外にも、イリジウムを多く含む地層が見つかっています。 ところで、K-T境界層をつくってしまうほどの隕石ならば、直径100キロメートル以上のクレーターが存在しているはずだと考えられています。ところが、今のところ、このようなクレーター見つかっていません。もっとも、地球の2/3は海で覆われているため、私たちにはわからないだけで、海底にこのような大きなクレーターが隠れて存在しているのかもしれません。 ゆるやかな気候の変化 - 長期絶滅 一般に、テレビのドキュメンタリー番組や映画などを見る限りでは、隕石衝突説のほうが有名で有力のように感じられますが、実際にはこちらの長期絶滅を主張するグループもほぼ互角な議論をしています。 海洋の化石を詳しく調べたところ、原生動物やアンモナイトの絶滅は、短い時間にほぼ同時に起こったらしいということが分かってきています。確かにこれは、隕石衝突説でうまく説明できます。 ところが、陸上の化石を調べたところ、むしろ海洋とは逆で、長い期間をかけて徐々に絶滅していったということが分かるのです。これは隕石衝突よりも、火山活動やプレート運動の方がうまく説明できます。例えば、火山の噴火により、太陽からの光を徐々に遮るようになり、植物が枯れていき、陸上の環境を徐々に変えていったと考えられるわけです。プレート運動の方は、大陸などの配置が変わるので、海流が大きく変わり、やはり海の環境が徐々に変化していく原因となるわけです。もちろん、火山活動とプレート運動は別々に考えられるものではなく、お互いに複雑に関係しています。 このように、隕石の衝突した場合よりも、ゆっくりとした時間をかけて地球の気候が変わっていき、恐竜や他の動物の大量死を引き起こしたのではないかというわけです。 今でも、この2つの説をめぐる議論は決着が見えてこず、多くの専門家の関心をあつめています。一般的に言うなら、古生物学者の多くは長期絶滅説のほうを支持し、天文学者や物理学者は短期絶滅説のほうを支持する傾向にあります。また、地質学者は半々に分かれているような感じです。 ただし、どちらの説でも、うまく説明できないこともあります。それはなぜ一部の生物では大量死がおき、他の生物ではほとんど影響を受けないといった、選択的な大量死が起こったかということです。これについては、恐竜の生態がどういうものだったのかというのが明らかにならないことには、なかなか答えの見えてこない謎といえるのでしょう。 華麗すぎる・・ このように議論は収束することなく、むしろ広がっていき、ますます「科学者のるつぼ」の様相を強めていきます。今回の宇宙生物学者の報告もまさにその通りです。カルフォルニア大学のブルース・ラネガーの研究チームが、風変わりな説を発表したのです。 この研究チームは、はじめから恐竜の絶滅について調べていたわけではありませんでした。宇宙生物学という肩書きように、はじめは太陽系の歴史について研究していたのです。物理公式や過去の観測データを入力してコンピュータモデルをつくって、過去2.5億年間の太陽系の様子をシミュレーションしていました。 コンピュータで複雑な計算を繰り返し、太陽系の歴史を遡っていたところ、偶然にも水星の軌道が、問題の6500万年前から変化することが分かりました。研究チームは、この水星の変化こそが恐竜の絶滅に関係していると発表したのです。 もっとも、水星のぐらつきから、地球上の恐竜の大量死を説明するには、ずいぶんと可能性の連続綱渡りをしていかなくてはいけません。 まず、水星のぐらつきの直接の影響で、地球の環境が変化し恐竜が絶滅したわけではないことを確認しておかなくてもいけません。確かに惑星間では相互に力はたらいていますが、この研究チームのコンピュータモデルでは、水星のぐらつきは直接地球での大量死をもたらすほどの影響を与えなかったという結果が出たのです。 直接地球に影響を与えたのではなく、水星のぐらつきによって小惑星ベルトのいくつかの小惑星の軌道が変化し、それが最終的に隕石となって地球を襲ったというのです。現在、この研究チームは、小惑星ベルトと水星間のコンピュータモデルをつくり、この水星が小惑星にどのような影響を与えたかをシミュレーションしています。 このスケールの大きな説に対して、「華麗だ」などと形容する天文学者もいますが、それは皮肉をこめていったことなのでしょう。今回の太陽系モデルを使った恐竜絶滅の説は、かなり信頼性の高い太陽系モデルを使っているとは言っても、実際に何が起こったかということよりは、あくまで複雑な計算に基づいて何が起こったかを推測したに過ぎません。確かに「華麗」と言いたくなるようなスケールの大きな説なのですが、結局それが正しいとは限らないというわけです。今後は、地球上の地質的な証拠などを探して、この仮説が正しい可動化を検証していく必要があります。 関連サイト 今回の太陽系モデルを用いた説についてのページ。はじめから恐竜の絶滅を調べていたわけではないのに、偶然にも年代が一致したのは興味深いことです。 ・Chaos killed the dinosaurs - nature science update(英語) ・Did a planetary wobble kill the dinosaurs? - newscientist(英語) その他、恐竜の絶滅についてのサイト ・恐竜化石特集 - WNN ・何がペルム紀末の大量絶滅を起こしたのか - 日経サイエンス ・What Killed The Dinosaurs?(英語) 整理されているので読んでいて理解しやすいです。"Invalid Hypotheses"では、一般によく耳にするけど、間違っている仮説などが書かれてあります。 |
もちろん他にもいろんな科学コラムがあります。
ぜひ、そちらもよんでください。
バックナンバー紹介を見てください。