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LED照明に浮かび上がる21世紀の姿


---21世紀の照明だと期待される白色LED。それだけにおさまらず、LEDの原理は他にもディスプレイなどへ応用できます。有機ELディスプレイというのが今注目されて、多くの企業や研究機関が研究開発していますが、実は有機ELディスプレイの背後に、もっと大きな市場と可能性が見え隠れしているのです。---


この記事では
 LED照明のうしろに浮かび上がる21世紀の姿
 一つ目の難関 - 虹色成分の再現
 二つ目の難関 - LEDの光をもっと手軽に
 OLEDの可能性
     という内容で構成しています。
 


LED照明に浮かび上がる21世紀の姿


 19世紀の終わりにエジソンの発明された白熱灯が、なぜ20世紀という100年間をまたいでも、照明の主役の座を奪われることがなかったのか、ときどき不思議に思えてくることがあります。これほど日常的な電化製品で、白熱灯に完全に取って代わるものが登場しなかったのはあまりにも意外です。

 白熱灯の仕組みは非常に簡単で、あのねじれたフィラメントを過熱して、発光させているわけです。いわば熱の副産物として光を得ているのですが、その点ではローソクの火と同じ原理といえるでしょう。

 確かに100年以上もの間、白熱灯は照明の主役の座にいつづけましたが、考えてみれば、いかにもエネルギー効率が悪いといわざるを得ません。しかも、極端に加熱するためフィラメントの寿命は短く、だいたい1500時間くらいでしょう。

 どうせなら、電気をそのまま光にして、熱はほとんど出さないような効率のよい照明をつくることはできないでしょうか。

 電気のエネルギーによって直接光を発する現象はエレクトロルミネッセンス(EL:Electroluminescence)と呼ばれているのですが、この原理を利用した照明が今、本格的に白熱灯にとって変わりつつあります。

 それはLED(light emitting diode)、つまり発光ダイオードです。半導体金属の化合物に電気を流すと発光するという仕組みを利用しています。このLEDは20世紀の半ばにはほとんど完成していました。しかし、最近まで利用されていたのは、電化製品の動作表示ランプや位置表示灯といった非常に限られた範囲でした。LEDがいつまでもこんな脇役におさまっていて、白熱灯にとって代われなかったのには、克服できない2つの課題があったからです。

 一つは、虹色成分のすべての色を再現できないために、明るい白色を得られないことにありました。またもう一つは、白熱灯や蛍光灯とくらべて値段の高さや扱いにくさで劣っていたということです。

 ところが、この2つの課題を克服し始めたLEDは、単に白熱灯の主役の座を奪うだけではおさまらなくなってきました。現在、液晶だプラズマだなどと主役争いでもめているディスプレイ競争が続いていますが、LEDを利用したディスプレイは、液晶、プラズマと比べても大本命となる可能性を秘めていることがわかってきたのです。

 それどころか、LEDを上手に使えば、何もディスプレイという平たくて硬いものにとらわれる必要もなくなるかもしれません。紙程度の厚さのシートに美しくて滑らかな映像を映し出すことも可能になるでしょう。

 そうなれば、ITでも結局は実現できなかったペーパーレス社会というものを本当に実現してくれることになるかもしれません。


 そこで今回は、21世紀の光と期待されているLEDの2つ課題がどんなものなのかということと、LED照明の背後にぼんやりと浮かび始めた大きな市場と可能性がどんなものなのかとを考えてみることにしましょう。




一つ目の難関 - 虹色成分の再現

 LEDの光と色の話をする前に、光と色について、ちょっと寄り道をしてみましょう。

 19世紀の後半に白黒写真技術が登場し、忠実に世界を映し出すようになって、画家たちは絵画の意義というものを考え始めるようになりました。そんな画家たちのなかでも、印象派と呼ばれるグループは、白黒写真にはない色と光に絵画の存在価値を見出します。そのため、キャンバスのなかの風景にどうしたら光を取り込めるものかと悩みました。光の色は混ぜれば混ぜるほど明るくなるのに対し、絵の具の色は混ぜれば混ぜるほど光を失っていくからです。そして、そんな印象派のなかから、異端児といわれるスーラが登場してきます。光のこの特徴を考慮して、絵を小さな原色の点で描くことを試みたのです。つまり、原色の小さなドットから反射された光が、目に届くころには他のドットの反射光と混じって明るい別の色になるというわけです。こうした一種の錯覚を使って、光と色をキャンバスに再現していきました。スーラたちの絵に異様な明るさを感じるのはそのためでしょう。

 このように、光というものは色と深い関わり合いがあり、最も明るい色、つまり白を再現するにはいくつかの色の光を混ぜていけばよいわけです。

 スーラの絵の原理と同じように、テレビはRGB(赤緑青)の三原色を混ぜ合わせていくことにより、明るい白や他の虹色成分を再現しています。ところが、もしこの三原色のうち一つでもかけてしまうと、虹色成分を再現することができなくなってしまいます。例えば白黒テレビは、波長の短い青色光と波長の長い黄色光しか使っていません。

 まさに、これこそがLEDにおける大きな課題だったのです。LED自体は最近の技術ではなく、赤から緑あたりまでの光を出すLEDは20世紀の中ごろには確立されていました。下手な例えですが、今までのLEDは絵の具の足りない画家のようなものでした。つまり問題は、緑よりも波長の短い、青以降の光の再現でした。ヒ化ガリウムやリン化ガリウムといった半導体化合物によって赤や黄、緑は再現できていましたが、どうしても青が再現できなかったのです。電化製品の位置表示ランプや動作表示ランプに赤や黄、緑が多かったのはこのためです。

 けれど1993年になって大きな転機を迎えました。問題だった青色光が窒化ガリウムを使ったLEDによって発せられることが分かったのです。

 こうして虹色成分をすべて再現できるようになったLEDの利用範囲は爆発的に広がりました。

 なんといっても、LEDを使った照明は視認性に優れ、耐久性もよく、白熱灯よりも電気コストを抑えることができます。LEDが白熱灯との交代で最も成功した例のひとつに、信号機が挙げられることがありますが、これは大きな白熱灯の代わりにいくつかのLEDをドットとして丸のかたちに敷き詰めているのです。初期設備費こそ高くつきますが、電気代、メンテナンス代を考えればはるかに安いというわけです。

 ただし、LEDを信号機に使うというのは、最も実直な例で、LEDの魅力を十分に語り尽くすことはできません。




二つ目の難関 - LEDの光をもっと手軽に

 とりあえず、こうしてLEDで虹色成分の光をすべて再現できるようになると改めて別の問題が浮き上がってきました。

 現在の時点で、照明用に使える白色LEDというものは、ぼちぼち登場し始めています。その性能は、白熱灯の明るさを超えて、そろそろ蛍光灯に追いつくかどうかというところにあります。

 ところで、白色LEDはどのように白色を出しているのだろうと気になるかもしれません。白色を再現するには、少なくとも大きく波長の異なる2つの光、例えば波長の長い黄色や緑と、波長の短い青などを混ぜる必要があります。それなら極端な話、三原色のLEDをそろえて、光を混ぜればいいと思うかもしれませんが、それではコストもLED3本分になってしまいます。

 そこで、少し工夫します。例えば日亜化学の白色LEDの場合は、青色LEDと蛍光体をうまく組み合わせて白色を再現しています。この蛍光体が青色光を吸収すると黄色光を発します。これを利用して、青色LEDの一部の光を蛍光体に吸収させ、もともとの青色光と蛍光体の発した黄色光を混ぜて白色光を再現するといった方法です。(日亜化学の白色LEDの構造の説明図:)
http://ne.nikkeibp.co.jp/NE/1996/960923/report2.htm

 他にも、東芝や住友電気工業といった会社も、無機金属LEDと蛍光体などを組み合わせた、似たような構造の白色LEDを生産しています。

 ただ、今の白色LEDのほとんどは無機金属の半導体化合物などを使っていて、どうしてもコストが高くなるという問題が出てくるのです。明るさの方は、徐々に向上しており、もうすぐ蛍光灯を追い越すといわれていますが、価格の方は青色LEDの原価以下には下がるはずはありません。

 もっとも、電気代や使う年数を考えれば、はじめの費用が蛍光灯の2倍や3倍でも問題ないことといえるかもしれません。

 ただし、この話は保留にして、さらにもう少しLEDの可能性を考えてみることにしましょう。

 
 これまで話してきたLEDは、窒化ガリウム、砒化ガリウムといったすべて無機金属を材料としたものでした。しかし、その一方で、低分子からプラスチックなどの高分子までの有機物を用いたLEDというのがあります。一般に、OLED(Organic Light Emitting Diode)と呼ばれています。

 もし、無機金属に代わって、プラスチックなどがLEDの材料として使えれば、どれほどの利点があるかはすぐに分かるでしょう。例えば、軽くて、柔軟性があり加工しやすく安いということなどがあげられます。日常生活での家具や電化製品などあらゆるものにプラスチックなどが使われているのが、利点が多いということの何よりの証拠というわけです。

 1990年代に、プラスチックも金属と同じように電気を通すということが分かって、OLEDの研究開発は急激に進歩しました。はじめのころは、有機物のLEDはわずかな黄色の光を発するだけに過ぎませんでしたが、研究が進められるうちに、無機金属のLEDとほとんど同じように虹色成分すべてを再現できるようになりました。そんな研究の中には、怪しく発光するクラゲのたんぱく質などが対象となることもありました。こうして今では、無機金属以上にキレイな発色が可能になってきたと言えるかもしれません。

 今、無機金属のLEDよりも有機物のLEDの方が注目されているということを示すのによい例は、ディスプレイの分野だといえるでしょう。

 実は、無機物を利用した無機ELディスプレイ(EL:エレクトロルミネッセンス、Electroluminescence)というのは、すでにひっそりと登場しているのです。あなたが液晶ディスプレイだと思っているもののなかには、この無機ELディスプレイが使われています。例えば、24時間使用し続けるコンビニエンスストアのレジのディスプレイや医療機器の表示ディスプレイなどに利用されているのです。

 一般にELディスプレイというものは、最初に説明した、電気を流すと発光するという現象、つまりエレクトロルミネッセンスを利用しているのですが、液晶と同じようにフラットで薄型なディスプレイが作れるほか、消費電力や視認性、価格などはもっと優れているとされています。

 そんな、無機ELディスプレイが、液晶ディスプレイかなと間違えられるほどひっそりと存在しているのにはわけがあるのです。現時点ではまだ価格が高く、また将来的にもコストダウンが難しいと考えられています。また、カラー表示がなかなか難しいなどといったいくつもの問題を抱えており、なかなかポストブラウン管になれないでいるのです。一時期は注目されましたが、おそらく広く私たちの家庭にまで普及することはないでしょう。

 その一方で、有機物のLEDを使った有機ELディスプレイの方はどうでしょうか。プラスチックなどの高分子やその他の低分子の有機物を使ったこのディスプレイは、無機ELディスプレイと比べても、さらに消費電力や応答速度に優れていて、またカラー化も容易だという特徴があります。さらに製造過程も無機ELディスプレイより単純化できるので、将来的にはかなり価格を抑えることができるでしょう。

 現在、ポストブラウン管をめぐって、液晶やプラズマといったものが登場していますが、この有機ELは間違いなく大本命として注目されているのです。

OLEDの構造原理

 この有機ELディスプレイの仕組みですが、一般的に言って、有機物の発光体を含む層を2つの電極層でサンドイッチするといった3層構造になっています。電極ではさんでいる有機物発光体に電気が流れれば発光するというわけです。基本的な原理はこれだけで非常に単純です。有機層にどのように発光体を配置するかやどの部分に電流を流すかで、好みの色や映像を映し出す仕組みとなっています。ただし、その光を目で確認するためには、2つの電極層のうち少なくとも一方の電極は透明である必要があります。あとはこの3層を下層ガラスに貼り付けてディスプレイとしています。(ELディスプレイの一般的な構造:)


 現在下層に使用しているガラスは、液晶ディスプレイの場合とほとんど同じですが(この製造過程が高くつく)、下層にプラスチックなどが使えるようになると、価格がさらに安くできるだけではなく、曲げられるシート状のディスプレイなども可能になります。実際、この有機ELディスプレイの厚さのほとんどは下層ガラスによるものなのです。

 いずれにせよ、液晶ディスプレイと比べても、薄型で視認性に優れ、軽くて・・・と誉め言葉が続き、さらにいくらでも節約すところがあるので、かなりのコストダウンの可能性を秘めています。なかなか安くできない液晶ディスプレイに対して、大きな差といえるでしょう。





OLEDの可能性

 こうして今では有機ELディスプレイの研究開発に多くの企業や研究機関が携わっています。まだ市販されているものはありませんが、試作機のデモンストレーションを始めている企業も少なくはありません。例えば、セイコーとエプソンの提携、コダックとサンヨーの提携、そしてソニーなどが試作機のデモンストレーションをはじめています。

 特に今年初めのソニーのデモンストレーションは、一段と市販品のレベルに近づき、衝撃的なニュースとして覚えている方も多いことでしょう。

 実際のところ、これほど多くの企業や大学がディスプレイの開発に携わっている状況は今までになかったと言われています。しかし、これは単なる流行というわけではなく、有機ELディスプレイの背後に、巨大な可能性と大きな市場がぼんやりと見えているからなのです。

 例えば、有機ELディスプレイの構造で、下層にガラスを使っていると言いましたが、いずれこれが薄くて曲げられるプラスチックなどに代われば、電子ペーパーとして使うことができます。薄いシートに文字や映像が浮かび上がってくるというわけです。(信じられない?じゃあこちらのムービーを見てみたら?)
http://www.universaldisplay.com/foled.php
現時点では、このような技術は確立していませんが、それほど遠くない未来には実現するでしょう。

 ITのおかげでペーパーレス社会がやってくると、一時期盛り上がったことがありましたが、結局は中途半端に終わってしまった感じがあります。しかし、OLEDの価格などが下がれば、本当にペーパーレスの社会がやってくる可能性だってあります。

 また、OLEDをやわらかいシートに埋め込む技術が確立すれば、何もいわゆる電球や照明器具を作らなくても、天井の壁紙やカーテンにOLEDを埋め込んで光らせるということもできます。だとすれば、無機金属の白色LEDよりもずっと優れたものもつくれるかもしれません。

 そう考えると、今まで電化とは程遠かった商品にも新しく電化の道が開けてきます。例えば衣服や食器、お菓子のパッケージなどにこの有機ELを埋め込むなど、さまざまな利用法が登場してくるはずです。その場の雰囲気で色の変わるカーテンなど容易いことです。現在、これほど多くの企業が有機ELディスプレイの研究開発に取り組んでいるのは、そういった見通しを考慮してのことなのかもしれません。

 少し大げさかもしれませんが、エジソンが白熱灯を発明したときのインパクトがこのLEDにもあるのかもしれません。LEDは単に21世紀の照明器具となるだけではなく、ディスプレイの本命ともなり、さらにまったく新しい経済市場を切り開くことになるはずです。
関連サイト
今回はプレスリリースなどの関係で日本語のページが多め。記事本文では、原理や構造などをほとんど書くことができなかったので、気になる部分があったら参考にしてみるのもよいかもしれませんね。

白色LEDについての国内のプレスリリースなど

日亜化学 - 日経BP

住友電気工業 - プレスリリース

東芝 - プレスリリース


有機ELディスプレイ・無機ELディスプレイなど

有機ELディスプレイ - Yahoo!コンピュータ用語

無機ELディスプレイ - Yahoo!コンピュータ用語

ソニーの有機ELディスプレイ - プレスリリース

サンヨーとコダックの共同開発の有機ELディスプレイ - プレスリリース


以下のページは英語ですが、こちらの方にもたくさんの情報が詰め込まれています。

ユニバーサル・ディスプレイ(英語)
 電子ペーパーなど、「OLEDの可能性」で書いたような内容を実行してくれそうな企業。それにしても、電子ペーパーのムービーには驚いた。


Organic Light Emitting Diodes Project - IBM R&D(英語)
 ここに比較的やさしく有機ELディスプレイの原理、構造が書かれています。

CDT(Cambridge Display Technology) (英語)
 フィリップスやドュポン、エプソンなどの企業と提携した有機ELの一大研究機関。かなり昔から研究開発に取り組んでいる。

Introduction to Organic Light-Emitting Diodes (英語)
 有機LEディスプレイに関係するRolltronicsという会社のサイトから。OLEDの技術的な問題から、将来性までしっかりと書かれているイントロダクション。


関連書籍紹介
『怒りのブレイクスルー 常識に背を向けたとき「青い光」が見えてきた』
/中村 修二著 出版:ホーム社
本文中では一切触れませんでしたが、青色LEDを開発したのは、元日亜化学の社員のこの著者。サイドストリーばかりが有名になってしまったこの青色LEDですが、まさにそのことについて書かれた自伝。



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