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光ファイバーの見えないガラスの壁 |
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---あちこちで21世紀は光ファイバーの時代だと聞かれます。大容量情報伝達が可能なのは間違いないのですが、物理的限界というものも忘れてはなりません。ところが、この光ファイバーはその性質上、なかなかその限界を計算することができませんでした。しかし最近、ベル研の技術者がその限界を導き出しました。今のうちから限界の話をするのもタイミングが悪いように思うかもしれませんが、今後有効に光ファイバーの可能性を引き出していくには限界を知ることは重要なのです。--- |
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この記事では 見えないガラスの壁 光ファイバーの限界が見えにくいわけ 高速道路ののろまな料金所 頂上までの道はたくさん という内容で構成しています。 |
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見えないガラスの壁 「光ファイバーの通信速度の理論上の限界は、いったいどのくらいなのでしょうか?」 今後の情報通信の分野において、光ファイバーが重要となってくることを疑う余地はないでしょう。しかも国内では、じきに家庭まで光ファイバーが届くということで、その期待は膨らむばかりです。 ところがこれとは裏腹に、アメリカでは4年間もかけて多額の投資をしてきた大掛りな光ファイバー網が、結局は1〜5パーセント程度しか利用されておらず、有効に活用されていないという報告がされたばかりです。このような過剰供給の問題が、今年初めからの通信ハードウェア株の大暴落の原因の一つにもなったのだと評価されることもあるほどです。 今ある光ファイバーでさえ十分利用しきれていない状況を考えれば、光ファイバーの理論上の限界の話をしようというのは、ずいぶんとタイミングが悪いような気がしないでもありません。 しかしつい最近、アメリカのベル研の科学者が、光ファイバーの理論上の限界というものを求め、それを報告したのです。その報告によれば、一本の光ファイバーの伝達速度の理論上の限界値は、今まで考えられてきた限界値の約10倍程度あるということが分かりました。 つまり、光ファイバーのは、これまで考えられていた以上に成長性が望めるものだということになります。けれど別の言い方をすれば、理論上の限界がそれだけ遠くにあるのなら、どのようにして技術力をそこまで近づけていくかということが問題になってきます。そのためにも、さまざまなアプローチの仕方が考えられます。どのアプローチが主流になるかで、今後の光ファイバーの事情もずいぶんと違った様相を見せてくることでしょう。 そこで今回は、光ファイバーの理論上の限界値についてと、理論上の限界値がわかったということが、今後どのような影響を与えていくかといったこともあわせて考えてみましょう。 光ファイバーの限界が見えにくいわけ 光ファイバーには大きく分けて二種類あるのですが、インターネットなどのデータ送信を行う光ファイバーは、異なった波長の光に信号をのせて、たくさんの光を同じ一本の光ファイバーを通して送信する仕組みになっています。それぞれの光にのせた信号が干渉することなく独立して伝わります。(波長分割多重、Wavelength Division Multiplex)。 そのため、波長の異なる光の数を増やし、一つの光で伝えられるデータ量の効率を上げることができれば、その光ファイバーの高速通信が可能になるというわけです。光ファイバーそのもののほうをかえなくても、この二点を改良すればよいのです。 すると、すぐに疑問がわいてきますよね。波長の異なった光の数を増やせば、どのくらいまで光ファイバーを高速化できるのでしょうか? ところがこの疑問にすぐに答えるのは、そう簡単なことではありません。というのも、あまりに多くの数の光を一本の光ファイバーを通して送信すると、ノイズの問題など複雑な条件のために、通信速度を計算することが難しくなってきます。 例えば、光ファイバーを通して長距離間で光を伝えるとき、どうしても次第に強度が失われてしまうものです。そのため、60-100キロメートルおきに増幅器を用いてもとの強さに戻すのですが、このときにどうしてもノイズが生じてしまいます。しかも、一本の光ファイバーに多くの波長の光を通すほど、このノイズの問題が複雑なものとなってしまいます。 これはイメージ的には、多くの会話がオーバーラップして聞き取りにくい場合に似ています。例えば、静かな図書館では、相手の声を聞き取ることは容易なことですが、多くの人が話している騒がしいホールではなかなか相手の声が聞き取ることができません。 つまり伝達可能な情報量は、波長の異なる光の数を増やしていけば、単純にそれに比例して増加していくわけではないのです。そのために、光ファイバーの限界を計算で求めることは簡単なことではなかったのです。光ファイバーはこのように、非線形な特徴をもっています。 そこで、情報通信関連の研究機関であるベル研究所の科学者は、この光ファイバーの量子的な性質を、これまで情報分野で使われてきた線形の性質に上手に置き換えて、この上限値を計算しました。 その結果、一本の光ケーブルで、およそ毎秒100テラビット程度の通信が可能だと結論付けました。現行の光ファイバーは、2テラビット弱程度で、実験室でもせいぜい10テラビットが精一杯という程度です。 具体的な数字を見ても、まだまだ技術的にも改良していく余地があるわけです。そのことを考えると、光ファイバーの理論上の限界へ技術が追いつくようになるのは、まだずいぶん先というわけです。 高速道路ののろまな料金所 今回の研究報告をしたミトラ氏によれば、物理や化学の理論では生物などがどのような仕組みになっているかということを説明できるが、技術やデザインの理論では、どうしてそのような仕組みになっているのかを説明することができるといっています。 また、光ファイバーのデータ送信速度の限界を知ることは、どのように需要にこたえていくかという方法を探すのに役立つともいっています。かなり遠くに見える理論上の限界まで技術を近づけるために、さまざまな手段を使って有効に近づけていこうというわけです。 現時点では光ファイバーのデータ送信速度の向上と同時に、その周辺の要素が足を引っ張っているということにも目を向けなくてはいけません。 例えば、光ファイバーを通ってデータを通信するのは非常に速いのですが、今のコンピュータはほとんどが電子を利用した半導体の技術に基づいています。電子は光(光子)と比べれば、はるかに速度が遅いため、いくら光ファイバーの通信速度が向上しても、コンピュータが足を引っ張ることになります。 また電子と光子の変換に関しても時間的にも能率的にもロスができます。言ってしまえば高速道路の料金所のようなものです。高速道路ではあれだけ快適に進んでいたのに、料金所の前で渋滞になります。一般道路に出てしまえば、速度はある程度制限されますが、また車は流れ始めます。渋滞の原因は高速道路と一般道路をつなぐ料金所にあるのです。 例えば、数行程度のメールを送信するのに、電子のデータから光子のデータに変換し、また同様にして、このサイズの小さいメールを受信するのに光子のデータを電子に変換しなおさなくてはなりません。いくら変換の速度が上がっても、いかにも無駄が多いように思われます。 頂上までの道はたくさん このような光子を利用した電子工学は、オプトエレクトロニクス(optoerectronics)と呼ばれています。代表的なものには、太陽電池や発光ダイオード、そしてこの光ファイバーといったものがあります。ところが可能性を秘めながらも、先ほどのメールの送受信の例のように、今のオプトエレクトロニクスでは、電子と光子を無理やりくっつけたような不器用さが出てきてしまうのです。 そこでまず解決策として思いつくのが、コンピュータの回路も光ネットワークを中心にしてしまおうというものです。 これまでのコンピュータは、スイッチの役割をするものとして、シリコンを利用した半導体を中心になってきました。ところがシリコンを使った半導体は電子を利用したスイッチで、今のところ光を利用するレーザーや発光ダイオードなどで実用的なものはあまり開発されていません。ちなみに、CDプレイヤーのレーザー部分では、シリコンではなく、ヒ化ガリウムなどを利用したものが使われているはずです。 そのため、シリコン以外の半導体金属で光スイッチなどを使って、コンピュータを光で統一してしまおうと考えられています。 ただしシリコンと他の半導体金属は原子配列が異なるので、LLサイズの卵をSサイズの卵ボックスに入れようとしてもうまくいかないように、接合する際にあまり相性がよくありません。他にもコストなどの問題もあって、そう簡単には実現しそうにはありません。 そのため従来どおりシリコンを利用して、レーザーや発光ダイオードなどの光スイッチの研究開発もされています。他にも金属半導体などを使わず、炭素を中心とした有機系のダイオードの開発もされています。 いくつか簡単に例を挙げてみましたが、あくまで一例に過ぎず、他にもかなり多くのアプローチがあります。いずれにせよ、今回の報告によって、光ファイバーのデータ送信速度に関しての理論上の限界がわかっために、広い視野で長期的な研究開発がしやすくなることにつながるのでしょう。 関連コラム ・ガラスは記憶の中に 角砂糖程度の大きさのガラスの中に、光を利用して非常に高密度な情報を蓄える記憶メディアについて。これ自体は素晴らしいのですが、本文中ののろまな料金所のような問題などを解決しないと、このメディアの可能性を最大限に引き出すことはできないでしょう。 関連サイト ちょっと英語のページが多め。 ●光ファイバーについて 今回の本文では光ファイバーの仕組みについて、基本的なことをほとんど触れなかったですが、光ファイバーについて詳しく知りたい方は以下のサイトを参考にしてください。 ・波長分割多重(WDM) - 日経IT用語集 ・Understanding Lightwave Transmission - Bell Lab.(英語) チュートリアル形式で、光ファイバーの歴史から、仕組み、最新の話題まで分かります。相当なボリュームで、へたな本よりはるかに素晴らしい内容。ちなみに所々にフラッシュアニメーションで、仕組みを説明している部分があります。そんなサイトからページを一部紹介。 ・光ファイバーの電子-光子のデータ変換の仕組みなど ・光ファイバーの断面図、全反射など ・一本の光ファイバーを多くの光が通っていく様子など ●今回の報告に対して一般のサイトの記事を拾ってみました。光ファイバーの限界がわかったという事実に対して、それぞれのサイトが少しづつ異なった見解を見せています。また、どこに着眼点を置いているかはだいぶ異なっています。 ・光ファイバーで100Tbpsまで可能―ベル研が報告 - ZDNet日本語版 ・Scientists at Lucent Technologies' Bell Labs calculate theoretical limits of fiber optic communications - Press Release(英語) ・Glass ceiling fixed - nature science update(英語) ・Lucent stretches limits of fiber - ZDNet(英語) ・Nonlinear limits to the information capacity of optical fibre communications - Nature(英語) 今回のベル研の科学者が発表した論文の抜粋。 --- 寄り道豆知識 --- ニュースのタイトルに"glass ceiling(ガラスの天井)"って表現がありますが、これは職場で女性が上の管理職に登りつめようとするときに、家庭の事情や男性の無理解などさまざまな問題が「目に見えない障害」となるといったような意味でよく使われています。で、そのような使われ方を考えると、今回の内容の場合、今まで光ファイバーの限界はあまり目に見える形で分かっていなかったので、確かに"glass ceiling"ってタイトルにあっているのかもしれませんね。 ●光ファイバーの周辺技術 本文の「頂上への道はたくさん」で登場したいくつかの技術について、分かりやすく説明しているページを紹介。 ・nature science update(英語) ・Rosy glow on information horizon 金属半導体を利用するアプローチ。 ・A happier marriage 有機物などのほかのアプローチ。 |
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