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シリコンと光のできちゃった結婚とその解決 |
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---地球にはたまたまケイ素が豊富に存在していて半導体はシリコンを中心に発達しました。一方、通信の方は、光ファイバーがベストだということがわかってきました。お互い別々に進歩してきたのですが、ブロードバンドという共通の目的のために、急速に歩み寄りをはじめました。こういった成り行き上、二つの間で電子と光子を変換する必要があるのですが、ここがうまくいきません。さて、この成り行き上の結婚を、どのようにして幸せなものにするのでしょう。--- |
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この記事では デキちゃったけど・・・ 結婚生活の悩みのタネ 石がガリウムで出来ていたら・・・ 光らぬなら光らしてみしよう 光らぬなら止めてしまえ という内容で構成しています。 |
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デキちゃったけど・・・
一方、通信のほうでは、無線や銅線、衛星回線などさまざまなものが登場しましたが、どうやら性能の面では光ファイバーが最も優れているようだということが分かってきました。光ファイバーは電話の回線やアナログの映像送信などのために、はじめは半導体産業とは別に進歩してきました。 ところが今では、ブロードバンドといった共通の目的のために、別々だったシリコン半導体と光ケーブルは歩み寄りを始めました。 何やらもったえぶった言まわしですが、最近ではパソコンと光ファイバーがセットで扱われているので、すでに聞きなれた話でしょう。しかし、この二つの関係には、新聞やテレビではあまり語られない一面もあるものです。実は、この二つの成り行き上の結婚には大きな悩みのタネがあったのです。 シリコン半導体は電子を使って情報を処理していますが、光ファイバーは情報を光、つまり光子で伝えます。そのためシリコン半導体と光ファイバーの境界では、性質の異なる電子と光子とを変換する必要がでてくるのですが、今のところ、ここがあまりうまくいっていません。実はこれから十数年の情報通信の行方は、この2人の結婚生活の如何に関わっているのです。 結婚生活の悩みのタネ 現在の、シリコン半導体と光ファイバーの境界での電子と光子の変換は、あまり感心できるものではありません。境界にシリコンチップをのせたマイクロプロセッサをおいて、一生懸命、光のパルスとデジタル信号を変換しあっているのです。このように光と電子を両方扱うことをオプトエレクトロニクスというのですが、では、これのどこが問題なのでしょう? それは光ファイバーの通信速度とそのプロセッサの処理速度の関係にあります。これまでは、光ファイバーが発展途上にあったので、プロセッサの処理速度のほうが光ファイバーの通信速度より速く、問題にはなりませんでした。ところが、限界通信速度が100Tbpsともそれ以上とも言われる光ファイバーのことですから、光ファイバーの通信速度がプロセッサの処理速度を追い越すのも時間の問題です。 つまり、高速道路ののろまな料金所と似たような関係です。せっかく高速道路で飛ばしてきても、料金所で処理しきれず大渋滞となり、高速道路の利点が失われます。これでは光ファイバーも性能を十分に出し切れないことになります。シリコン半導体と光ファイバーの結婚生活を、このプロセッサが足を引っ張っているというわけです。それに、このプロセッサの性能は光ファイバーほど順調に向上していかないでしょうから、プロセッサを改良するだけでは問題を解決できません。 究極的には、電子を追い出して光だけで統一したコンピュータネットワークというのが理想的なのですが、十数年で完成するとも思えないので、今回はその話は忘れてしまいましょう。 ではマイクロプロセッサは止めて、今ともっと違う方法や装置で、光子と電子を自然で効率的に変換できないものでしょうか? そこで登場してくるのが、発光ダイオードやレーザーといった、エレクトロルミネッセンスを利用した装置です。これを半導体回路に埋め込んで、光子と電子を自然で効率的に交換しようというわけです。 石がガリウムで出来ていたら・・・ ところが、発光ダイオードにしても、レーザーにしても、使われている原料はどんなものでしょうか。ヒ化ガリウムやチッ化ガリウムといった、あまり耳慣れない半導体ばかりが名を連ねます。 わざわざ、地球上にあまり存在しないようなガリウム(おかげで価格も高い)などを使わないといけないのは、シリコンが性質上、発光ダイオードやレーザーとして光らない、もしくは光りにくいためなのです。 手に入りにくいのは大目に見るとして、ガリウムでできた発光ダイオードやレーザーが、シリコン半導体と、うまくくっついてくれさえすれば、それほど問題はないのですが、そうはいきません。 金属にはそれぞれ特有の結晶格子というものがあって、サイズの違った卵のケースを重ねてもうまく重ならないように、違った半導体どうしをくっつけても、うまくくっつきません。そこからひび割れが生じて電気を通さなくなってしまいます。おかげで、シリコン半導体でつくったコンピュータチップに、ガリウムなどで作ったLEDやレーザーなどを取り付けれないでいるわけです。 仮に出来たとしても、価格の高いガリウムを使わなくてはいけなくなるので、パソコンの値段が突然に跳ね上がることになるでしょう。 もし地球上の石の成分がガリウムで出来ていて、ガリウムを中心に半導体が進歩していれば、こんな問題は起こらなかったはずです。たまたま、地球上の石がシリコンから出来ていたことが、恨めしく思えてきます。 ・・・まあ、大切なのはどう克服するかですから、「もしも」話はこの程度にしておいて、もう少し現実的な話をしましょう。 光らぬなら光らしてみしょう シリコンがLEDやレーザーとして光らないといっても、まったく可能性がないわけではありません。今でも、さまざまな方法で、シリコンを光らせようと研究がされています。もしシリコンを光らせることが出来れば、すぐにでも半導体回路に埋め込むことができますし、コスト面など有利なことが多いのです。 そんな努力の一例として、周期表上の光ることのできる元素を、片っ端からシリコンに混ぜることで、シリコンから光を得ようとする方法があります。このように、わずかな不純物を混ぜることを、もう少し正確には「ドープ」すると言います。例えば、周期表のずっと下の方に存在している、ほとんど誰も知らないようなエルビウム(Er)というものをドープしたりしています。こうしてシリコンを光らせてはいるのですが、まだ暗く、今の時点では実用化の「じ」の字も見えません。 そこで、もう少し変わった方法で、シリコンを光らせようとする方法があります。シリコンが金属として光らないのなら、別の法則、つまり量子法則が支配するサイズにまで小さく切り刻んで、光らせればよいというわけです。シリコンに限らず、大きな金属のときと比べ、数ナノの原子の集まりになると、同じ元素のものもかなり違った性質をもち始めます。 シリコンを酸で処理すると、スポンジ状になって、「シリコンスポンジ」として断熱材などに利用されていますが、これをある種のナノサイズの導線に切り刻んで、電気を通すのです。すると、金属のシリコンよりも明るく効率的に光ることが発見されています。実際に、この方法で、シリコンチップを光らせた科学者もいます。 このようにサイズを小さくして、量子の性質を利用するアプローチは有効で、他にもいろいろな方法が試されています。そんななかでも、もっとも期待されているのは、「量子ドット」と呼ばれる500個程度の原子しか含まない小さな塊です。これは数ナノのドットとしてランプのように光るので、細胞内のバーコードにも使えます。 この量子ドットはレーザーをつくるのに適した性質をもっており、試験的に、シリコンの量子ドットを使ったレーザーがつくられています。しかも光ファイバーで光のパルスを伝える場合を考えると、LEDよりもレーザーの方が重要となってきます。 こうして、シリコンに別のものを混ぜたり、シリコンを小さく切り刻んだりして、何とかシリコンを光らせようとしてきました。とりあえず研究は順調に進んでいますが、シリコンから明るい光が得られるようになるのは、まだしばらくかかりそうです。 光らぬなら止めてしまえ こうやって、一生懸命とシリコンのLEDやレーザーを開発しようと努力がされていますが、なかなか難しいものです。必ずしも、シリコンを光らせなければならないのでしょうか? つまり、鳴かぬなら殺してしまえというわけで、無理やりシリコンを光らせるのは諦めて、他のものを光らせるという手段もあるはずです。 ただし、光っていても、ガリウムのLEDのようにシリコン半導体に埋め込むことが出来ないのでは話になりません。ガリウムは、シリコンと異なる結晶格子の都合で埋め込むことが出来なかったわけですが、それならば、ガリウムのようにしっかりとした結晶格子を持たない、プラスチックなどの有機物を使ってはどうでしょうか。プラスチックには、しっかりとした結晶格子は存在しておらず、ある意味いいかげんなので、シリコンの結晶格子に合わせてうまくくっついてくれるのです。 つまり、シリコンとガリウムがサイズの違う卵のケースなら、その間に柔らかい布を挟めばよいというわけです。そうすれば、卵ケースのサイズの違いは問題にならなくなります。 具体的には、シリコンの上に二段階の有機物層をくっつけます。一段目は鎖の短い高分子から出来ていてシリコンからの電気を通し、二段目は半導体のLEDを含んでいて、一段目からの電子をそのLEDに伝えて光るというわけです。 プラスチックのようなコストのかからない材料を使えることは非常に都合のよいことですし、必要な技術は今までのものを転用することも出来ます。この方法で、試験的なLEDも完成しています。 しかし結局のところ、この方法も、シリコンを無理やり光らせる方法と同様に実用レベルにはまだまだ達していません。いずれの方法でも、実用化にはしばらくかかりそうですが、なんとか光ファイバーとシリコン半導体の結婚生活が破綻する前には完成して欲しいところです。 ※科学の世界の動向はなんともはやいもので、コラムを書いている途中に、次々と新しいニュースが飛び込んでくるものです。言い訳はこのくらいにしておいて、コラムに間に合わなかったニュースを紹介しておきます。シリコンLEDについて。太陽電池の技術を応用することで、今までのものより10倍以上効率が上がったようです。シリコンと光の幸せな生活も着実に近づいているようです。 ・Silicon LED strides ahead - Physics Web(英語)
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関連コラム 以前書いた関連のある「気になる科学ニュース調査」から。今回は、この記事では、端折ったところがあるのですが、ここに紹介する2つの記事と合わせて読んでもらえば、かなり理解しやすいと思います。 ・「光ファイバーの見えないガラスの壁」 こちらは、光ファイバーの理論上の限界がどの程度のものかということを扱ったもの。ただ、光ファイバーばかりが進歩しても、今回の話のように「足を引っ張る」要素があっては、本領を発揮することが出来ないわけです。 ・「LED照明に浮かび上がる21世紀の姿」 「光らぬなら止めてしまえ シリコン」などの部分で登場したLEDについて。有機LEDなどは深く関係しているところです。 関連サイト 日本語のページは手ごろなのが見つからなかったので、今回はパス。関連コラムの方を参照にしてください。 ・Chip promises faster light-to-circuit link - TRN News(英語) シリコン回路に有機LEDを埋め込んだときのニュース。 ・Silicon lasers start to take shape - PhysicsWeb(英語) 量子ドットを使ってシリコンレーザーを実現したときの特集。かなり詳しく書かれてあります。 |
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