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エイズの起源をめぐる争い |
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---現場に残された膨大な手がかりを結びつけていき最後に犯人へとたどりつく、まるで探偵のような手法でエイズの起源を追い詰めていく本があります。エドワード・フーパーの書いた"The River"という本です。当時、この本は科学者の関心をあつめただけではなく、もっと幅広い人の関心を集め、大きな議論をよびました。そして、2年がたった今、その議論はどこへと向かっているのでしょうか?--- |
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この記事では ナイル川の起源、エイズの起源 歴史のなかの手がかりと犯人の追及 パドルもなしに川の上流に進む? ポリオワクチンの無罪を証明したい科学者 消えた疑問、消えない疑問 大河の後に残った大きな跡 という内容で構成しています。 |
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ナイル川の起源、エイズの起源 あの4000マイルほどの長さを誇るナイル川はどこからはじまるのでしょうか。最初、ナイル川はヴィクトリア湖から始まると考えられていました。ところが後になって、その源はヴィクトリア湖に流れ込む小さな泉だということが分かったのです。人目を引くことのない小さな泉が、あのような大河のはじまりだったのです。 同じように、エイズの起源も、私たちが注目したことのないようなところにあるのではないか、そう考えた人間がいました。エドワード・フーパーです。フーパーはその内容をまとめ、“The River: A Journey to the Source of HIV and AIDS”という一冊の本にし、1999年に出版しました。 では、フーパーは、どのようにしてエイズの起源を探していったのでしょうか。それを考えてみる前に、もっと古典的な例を考えてみると分かりやすいかもしれません。 それは、1854年に発生したコレラに発生源に関することでした。ある科学者が、コレラの発生源を追っていました。そこで、その科学者は、コレラによって死者を出した家を地図に記していくことにしました。そして、その印をたどることで、最後にコレラの発生源が1つの井戸であることを突き止めたというのです。 フーパーも、これと同じように、過去のいくつもの手がかりをたよりにし、その延長線上にエイズの起源があると考えました。いってしまえば、現場に残されたいくつもの手がかりをたよりに犯人を推測する探偵にも似た方法で、エイズの起源を求めていったのです。 フーパーが本を出版してから、じきに2年がたとうとしています。その間、この"The River"の真偽をめぐってさまざまなことが議論されました。しかし、単に科学的な真偽をめぐる議論におさまりきるものではありませんでした。この本の影響はもっと遠いところへと広がっていったのです。 今回は、この二年間に、この本のまわりで起こったさまざまな出来事をつなぎあわし振り返ることで、いったい何がわかったのかということを考えてみましょう。 歴史のなかの手がかりと犯人の追及 フーパーは、もともとはBBCのアフリカ特派員でした。そんな彼は、アフリカの地でエイズに関して多くの取材やインタビューを重ねることで、あることに気づいたのです。それは、20世紀の後半になって急激に広まったエイズは、アフリカからはじまったのではないかということでした。エイズの発病のもととなるHIVの存在が確認できた血液で、記録の残っている最古のものは、1959年のコンゴの男性から採取されたものでした。このようにして、フーパーは取材やインタビューを通して、エイズの感染者の出た地域を記していきました。 そしてフーパーは、このような比較的初期の段階に、HIVに感染してエイズが発病した人たちの確認できる地域には、奇妙なほど、ある共通点があるということを突き止めたのです。 ・・・それは、1950年代にアフリカで大々的に行われた、ポリオワクチン接種キャンペーンでした。 "The River"は、1000ページをこえ、多くのインタビューや資料を含んだりと、非常に膨大な情報の詰まった書物なため、読もうとする者を圧倒するのですが、この中でフーパーが主に主張していることは以下のようなことです。 1950年代にヒラリー・コロプスキーと呼ばれるウィルス学者に率いられた、ウィスター研究所のグループは、CHATと呼ばれる経口ポリオワクチン(OPV:oral polio vaccine)を開発しました。ところが、偶然このワクチンは、あるウィルスに汚染されていて、このワクチンを接種した人たちはHIVに感染することになってしまったというのです。つまり、今の悲惨なエイズの現状の原因は、50年代にアフリカで行われたポリオワクチンの接種にあるというのです。 さらに、なぜワクチンがウィルスに感染してしまったのかということについては、フーパーは次のように述べています。 コロプスキー博士たちは、ポリオワクチンをつくるのにサルの肝臓細胞を使っていました。しかし、そのとき博士たちが研究していた施設は、リンディという土地にあるチンパンジー研究センターに関係していました。そしてワクチンを作るときに、サルの肝臓に混じってチンパンジーの肝臓を使っていたのではないかというのです。 実はサルの変わりにチンパンジーの肝臓が使われていたとしたら、非常にまずいことがおこるのです。そのとき、チンパンジーはあるウィルスを保有していたからです。そのウィルスとは、SIV(simian immunodeficiency virus,もっと正確にはSIV cpz)という呼ばれるHIVの遠い親戚のようなもので、これが人間の体内に入って、のちのちHIVに進化したのではないかというのです。フーパーは、このような経緯で、当時のポリオワクチンが汚染されていたのだという話を展開しました。 そのため、フーパーがその本の中で要求していることは、当時のポリオワクチンの残りを調べ、その中にウィルスか、またはチンパンジーのDNAが残っていないか確かめろということでした。 もっとも、このフーパーの説に似たようなものは、10年程前から言われていたことで、実際に1992年にあるジャーナリストが、フーパーの説に似た推測を雑誌に発表しています。 確かに、そのときの推測はセンセーショナルなものでしたが、根拠などが不十分で、なかなか受け入れられるものではありませんでした。それと比較して、フーパーの場合は、多くの事例を集めて、どのように人に感染していったのかということを綿密に調べています。 "The River"は、600回以上のインタビューと、4000以上の文献を検索して、情報を整理しストーリーをつなぎ合わせることで完成したものです。フーパーの調査は、医学論文の検索に始まり、いもづる的に関係者を見いだしてはインタビューを行って考えをまとめあげていたのです。そして、その膨大な手がかりの中から、どのように人が感染していったのかということを推測しているのです。 この本は一見すると、SF小説か映画のようで、詳しい事情を知らない私たちでも何かあるのではと関心をひきつけられてしまうのですが、同時に科学者にとっても大きく関心をひきつけるものだったのです。 パドルもなしに川の上流に進む? もしフーパーの言っていることが正しいなら、ポリオを根絶するためにおこなった偉業が、エイズという新たな災いを引き起こしたという皮肉なことになってしまうため、多くの科学者は一斉にフーパーを批難したのは想像に難くないでしょう。 特に際立った例として、科学誌Natureは、すぐに"Up the river without a paddle?"というタイトルの書評を書いています。このタイトルの意味は、おそらく、パドル(直接の証拠)もなしに、河の上流(エイズの起源)へ進む(追及する)つもりか?という比喩だと思うのですが、"The River"という書名の比喩を逆手に取り皮肉ったものといえるでしょう。 確かにフーパーの説は、多くのインタビューや取材を重ねていて、非常に精力的に真実を示そうとしているのですが、それらが直接の証拠になるわけではなく、あくまで仮説に過ぎません。こういったことが書評の中で書かれているのです。当然のことながら、直接の証拠を目の前に突き出されない限りは、そう簡単に科学者を説き伏せることはできません。 もし、フーパーの説の正当性を直接示す証拠があるとしたら、それは、当時のポリオワクチンの中にウィルスが含まれているということを示すことといえるでしょう。 ポリオワクチンの無罪を証明したい科学者 これをめぐる議論に関して、大きな変化が見られたのは、2000年の夏にロンドンで開かれた専門家の集まりでした。この会議の最大の関心事は、まさにフーパーの唱えたエイズの起源の真偽を明らかにすることにありました。というよりは、いかにフーパーの説が間違っているかということを示すかということに関心事があったといえるかもしれません。この会議は、フーパーの説をあらゆる方面から否定する結果になりました。 この会議では、前々からフーパーが主張していた、ポリオワクチンの残りのサンプルを調べた結果が発表されました。このとき、7つのサンプルが三つのそれぞれ独立した研究所によって調べられたのですが、結果はすべて、ポリオワクチンの無実を証明するものでした。 また、フーパーの仮説の中で重要な役割を果たしている、初期のエイズ症状が見られた土地とポリオワクチンのキャンペーンが行われた土地とが一致するということに関しても議論がなされました。 フーパーは初期のエイズの症状が見られた例の64%が、ポリオワクチンが試された地域に非常に近いということを述べていました。しかし、これについても、多くの反論が用意されていたのです。例えば、ポリオワクチンのキャンペーンが行われた場所も、エイズの症状に関する医療データが手に入った場所も、資料が手に入りやすいという条件で、もともと限られた範囲の地域でしか調べられていなかったというのです。つまり、二つの場所が一致するのは偶然などではなく当たり前だというのです。 また、フーパーの説に対して多くの反例が挙げられました。ワクチンの接種が行われた土地なのにエイズの症状がかなり後になってからしか見られなかったという例や、ワクチンの接種が行われた地域から何百キロも離れた土地で、初期に大々的にエイズの症状が見られたという例などです。 また、コロプスキーがワクチンをつくっていたリンディの研究所とチンパンジーが飼われていた関係については、人より効果のはっきりと確認できるチンパンジーを薬品のテストに使うためで、ワクチンの製造のためではないと発表されました。 もっとも、ワクチンの調査結果が白とでたと言っても、ワクチンの残りのサンプルの数が少なく確認が不十分ということもありましたし、反例などを示したとしても、ポリオワクチンの無実を証明する直接の証拠にはならないのではありません。しかし、この会議が終わるころには、フーパーの説はかなり揺らいでいる状態でした。 そして、多くのメディアが、この会議の内容を取り上げ、フーパーの説は間違っているのかもしれないという報道をしたのです。 それから、この議論はある程度落ち着いていたのですが、今年になって、つい先日、科学誌のネイチャーとサイエンスに、フーパーの説を否定する報告が同時に4つ載せられました。この4つの報告の中の1つは、去年のロンドンの集まりでは示すことができなかった、有力な報告でした。 フーパーの説では、コンゴで行われたポリオワクチンのキャンペーンがきっかけになって、そこからはじめのHIV(正確にはHIV-1のMグループ)が発生し、現在のようなたくさんの種類に枝分かれしていったと主張されていました。ちなみに、一言にHIVといっても、まず大きく分けてHIV-1とHIV-2という二つのグループがあり、それぞれの中にさらにたくさんの亜種がいます。 そこでこの報告をした科学者は、世界中のさまざまなHIVの遺伝子的な特徴を調べることで、発生系統つまり、HIVの進化の樹形図のようなものを作りました。ちょうどヒトが原人、求人、新人と枝分かれしながら進化していったのを調べるように、各地のHIVの進化の足跡をたどることで、どこからHIVが始まり、どのように進化し枝分かれしていったかということを導こうとしようとしたのです。 しかし、今回の報告で示されたことは、コンゴのポリオワクチン以前に、すでにHIVの進化の枝分かれは起きていたのではないかということでした。これによって、フーパーの説を否定しようというわけです。 今回ばかりは、何かと競い合っているように見えるサイエンス、ネイチャーの両誌とも、手を取り合うかのように同じ見解を示しました。それぞれの編集者が書いた記事を見てみると、"The AIDS Theory Dies Its Final Death(ポリオワクチンのエイズ起源説は完全に消えた)"、"Polio Vaccines exonerated(無罪判決が下ったポリオワクチン)"などと、もはやフーパーの説に対して勝利宣言をしているかのようにすら見えます。一方、フーパーはどうかというと、今回の報告に対して、自説の撤回こそしませんが、沈黙を守り、公式な発表を述べていません。 消えた疑問、消えない疑問 しかし、フーパーの説が間違っていたとすると、当然のことなら疑問が残ります。そう、結局のところ、エイズの起源はどこにあるのでしょうか?フーパーの説が間違っていることを示せば、ポリオワクチンの業績を守ることはできます。しかし、エイズの起源を探るという点では、また振り出しになってしまったといえるでしょう。 このポリオワクチンのエイズ起源説がだめだとすると、次に候補となりそうな起源説といえば、従来から言われてきた、「傷ついた猟師の説」(カット・ハンター説、cut hunter theory)ということになります。 これは、人間がチンパンジーなどHIVにつながるウィルスをもった動物を捕まえるときに、噛まれたなり引っかかれたとかで、傷口から動物の血に混じってウィルスが体内に入り込み、HIVに感染したという説です。 しかし、こんなことなら何も20世紀の後半になって急激におこることではありませんし、今まででエイズの症状が見られていないというのもおかしいと思えるのも当然でしょう。 もっとも、フーパーもまさにここに注目して本を書いたわけで、実際のところ今でもあまりハッキリしたことはわかっていないません。ポリオワクチン起源説が正しくないとしても、20世紀になってから、自然発生的にエイズ感染が爆発的に増えたと考えるのはあまりに不自然です。やはり、何らかのかたちで人の手が加わっているのではないかと考えるのが自然でしょう。しかし、だとすれば、それは何なのでしょうか。 その要因の1つと考えられるものに、人口の増加というものがあります。人口が増加し、人どうしの距離が小さくなれば、当然その分だけ、HIVが広がっていく確率が高くなります。つまり、昔から、HIVに感染していた人がいたにしても、それが今のように爆発的に広がるようなきっかけがなかったというわけです。 また、人口増加は、人間どうしの距離だけではなく、人とウィルスを持った動物との距離も近づけてしまうことにもなるのです。人口増加のために、森林の伐採や農地の拡大で、そういった動物の住む土地を狭め、私たちとの距離を近づけてしまうことになるのです。これは、カット・ハンター説にちなんで、カット・ファーマー説と言われることがあります。しかしこの場合は、傷ついた農家ではなくて、木を切る農家という意味なのでしょう。なんとも皮肉な名前の付け方です。 人口増加の要因以外には、注射器針の説もあります。注射器もアフリカの地域にとっては高価であり、そのまま消毒もされずに不特定多数の人に併用されることがあったのです。 いくつか要因は挙げられますが、どれかが正しいというわけではなくて、すべてが相互に絡み合って今のような急激な増加につながってしまったと考えるべきなのでしょう。 大河の後に残った大きな跡 さて、結局、フーパーの書いた"The River"は、いったいなんだったのでしょうか?もちろん、科学者と一部の人間の間の、自説の正当性をめぐった単なる茶番劇ではないはずです。 確かに、科学的な議論の場において、フーパーの"The River"はもはや闇に消えていく運命にあるのかもしれません。それどころか、多くの科学誌で書かれていることですが、過去のポリオワクチンの偉業を汚したと酷評されるほどです。少し話しはずれますが、例えば、アマゾンなどのオンライン書店のページで、読者の評価が、この本のように真っ二つに分かれるものはそう多くありません。 ところで、ネイチャーなどの科学誌が一貫して、この"The River"を否定してきたのには、ポリオワクチンの業績を守る以外にも、もっと大きな意味がありました。例えば、少なくとも、今のポリオワクチンには、まったくHIVに感染する心配はないのですが、"The River"であまりに印象的に取り上げられたため、ポリオワクチンは危険なものだという誤解が生じるのではないかという内容の記事を見たことがあります。 もっと一般的なものでは、このように根拠のないことを騒ぎ立てることで、一般の人が科学と科学者を信用しなくなるという問題にもつながるといっています。特にネイチャーは、"The River"が出版されたときから、このような姿勢でのぞんでいました。 ところで、"The River"が、なぜ、ここまで騒がれることになったのかということをもう一度考えてみましょう。結局のところ、以前にもこのような説はあったはずです。それなのにこれほど大騒ぎになったのは、フーパーの書いたこの"The River"が、以前あったものより科学的で、資料の豊富な、単に分厚い書物だったからだけなのでしょうか。 その答えを考えるためには、"The River"が出版された時期と、テーマの中心がアフリカにあったということを考えてみる必要があるでしょう。 言うまでもなく、今エイズによる被害がもっとも大きい地域はアフリカです。私たちがエイズの問題を考える場合、第一に差別や偏見の問題といったものが思い浮かべるかもしれませんが、実のところ、アフリカの事情というのは、私たちの認識するものとはまったくかけ離れたものなのです。(ここで具体的に挙げることはできませんが、下に関連サイトを多く挙げておいたのでぜひ参考にしてください。) そして、現在の悲惨なアフリカ像とちょうど呼応するかのようなかたちで登場したのが、人の手によってアフリカからエイズが始まったというフーパーの説ということになります。 1997年あたりで、アメリカなどではエイズによる死亡者数が減少したなどと、エイズについて一応の落ち着きを見せていたのですが、そのことはアフリカではまったくあてはまらないことだったのです。 というのも、エイズなどの新薬の開発などのおかげで先進国はよい方向へと転じていったのに対し、このような高価な新薬は、アフリカなどの途上国ではとても手に入れられるようなものではなく、状況は悪化する一方だったのです。 そのため、"The River"が発行されたときは、ちょうど、企業は治療薬を安くするべきだといった議論が盛んな時期でもありました。そこで途上国側では、先進国が途上国にエイズを広め、再び植民地化しようとしているといわんばかりに、企業の承諾を得ずに治療薬のコピーを作り、安価に売るといった問題なども起きていました。この治療薬の価格をめぐる問題は、今でも解決には程遠く、時おり新聞で見かけることもあるのではないでしょうか。 いずれにせよ、このような国際情勢の利害対立の中で、フーパーの説は、自分を正当化する道具として使われたり、間違って、もしくはゆがめられて使われたことも少なくはありませんでした。 しかし、ともすれば先進国の関心があまり向かなかったかもしれないアフリカの問題について、フーパーの本が、アフリカに広く関心を向けるきっかけとなったことは間違いないでしょう。 単にフーパーの説がエイズの起源の議論という科学的なものだけにとどまっていたなら、ここまで大きく騒がれることはなかったはずです。 また、問題になった1950年代は、ウイルス学の未熟な時期でワクチンの品質管理の概念も生まれ始めた時期でした。もしもワクチンの開発研究の記録、製造記録、投与の記録、サンプルの系統的保存のシステムが確立されていれば、ワクチンの製造にチンパンジーの腎臓が使用されたかということを、すぐに調べることができたはずです。 結局はフーパーの説の真偽の判断は、発生系統的な根拠をもとに下されることになったのですが、これについても、ワクチンのサンプルの系統的保存がもっとしっかりしていれば、フーパーが"The River"を書くことにならなかったのかもしれません。 だとすれば、フーパーの"The River"が登場することになった要因の一つには、当時の品質管理のずさんさがあったとも言えないこともありません。 このような薬品の品質管理などは、今でも医療の場で大きな議論を呼んでいることです。日本の場合でも思い出すものがいくつかあるはずです。 今になって冷静に考えると、フーパーの導いたエイズの起源は、科学的には間違っていたものだというのが有力といえそうです。しかし、フーパーのしたことは、単にエイズの起源を探るだけに終わったわけではありません。 フーパーは過去の歴史の断片をつなぎ合わせるという作業を通して、「時は過ぎ、記憶はどんどんと薄れ、あいまいなものとなっていく。2個であったはずのリンゴは3個のように思え、チンパンジーはキリンに化け、シマウマはワニに変わる」と、人の記憶が薄れていくことを指摘しています。 仮に、フーパーの説が間違っていて、科学者の悪評をうけ、闇へと消えていくとしても、私たちはこの"The River"の残した跡を記憶にとどめておくべきなのでしょう。 関連サイト 今回は、本文がかなり広範な内容を取り扱っていたため、関連サイトもかなり多くなりました。1つのメルマガの中にすべてを十分に書くことなど不可能に近いので、今回のコラムに興味をもたれた方は、関連サイトを覗いてみることをおすすめします。 (※メールを見るソフトによっては、長いリンクが正常に表示されないことがあります。もし、うまくリンクできませんでしたら、リンクをコピーして、ブラウザに直接貼り付けてみてください。それでもうまくいかない場合は、お手数ですがメールで知らせていただけると幸いです。) "The River"について 抜粋"The River : A Journey to the Source of HIV and AIDS"(英語) 今回の話に出てきたフーパーの書いた本の抜粋です。ちなみに、この本が欲しい方がいましたら、http://www.amazon.co.jp などにいけば、手に入るようです。 一般メディアによる関連ニュース ほぼ時間の経過通りにニュースを並べています。 エイズ治療の現在=オーレン・コーエン博士に聞く - 毎日新聞 1999年の時点。当時の視点から、エイズ克服についての将来が書かれています。 エイズでアフリカ南部が存亡の危機 アフリカのエイズをめぐる論争 - 田中宇の国際ニュース解説 アフリカを覆うエイズの影 - CNN日本語版 アフリカのエイズ被害の現状がリアルにかかれてあります。ここまでかかれた記事は見たことがありません。 Did a vaccine cause AIDS? - Economist(英語) フーパーが本を発行したときの記事。 AIDS wars - Economist (英語) 2000年の夏にロンドンで開かれた専門家の集まりについて。 Yahoo!ニュース エイズ問題特集 関連の科学的論文 科学誌Nature エイズ起源についての特集(2001/4/26) (英語) 最近の報告についてとくに大々的に取り上げたのはこのサイト。どうやら、誰でも閲覧できるようです。その中で、今回の話に登場したものをピックアップしました。 Polio vaccines exonerated ネイチャーの見解について書かれてあります。 Human immunodeficiency virus: Phylogeny and the origin of HIV-1 HIVの発生系統について詳しくかかれた報告 Up the river without a paddle? フーパーの書いた"The River"に対する書評。 最近、今後のエイズの予測についてネイチャーで、かなり大きな特集が行われていました。もっとも、誰にでも読める内容というわけにはいかないのですが(^^; 、エイズワクチンの開発の展望について書かれたvol.410のp1002-1007あたりを参考にするとよいかもしれません。なお、どういう意図か分かりませんが、いくつかのメディアでも、同時期に似たような特集が組まれていました。一例をあげておきます。 Can AIDS ever be cured? - CNN(英語) Hope for AIDS cure fades - シアトル・タイムズ(英語) ----☆PR☆------------------------------------------------------------ ●今回の内容をもっと知りたいなら、オンライン書店bk1で本を探そう。例えば.. ・『驚異のウイルス 人類への猛威と遺伝子が解く進化の謎』根路銘 国昭著/羊土社 ・『エイズ ウイルスの起源と進化』 山本 太郎訳/学会出版センター ・『エイズ・デイズ 危機と闘う人びと』 宮田 一雄著/平凡社 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