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宇宙を帆船で旅しよう(last modified 02/08/11) |
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---宇宙を帆船で旅するとは、なんとも夢のある話だと思いませんか。この帆船はソーラー・セイル(solar sail)とよばれ、従来の宇宙船とは大きく異なるものです。例えば帆船の特徴にあるように燃料が必要ありません。 --- |
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この記事では 帆船が宇宙でよみがえる 宇宙で風が吹いてるの? いずれは太陽系の外までも... 夜空に月並みに輝く広告掲示板(?) という内容で構成しています。 |
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帆船が宇宙でよみがえる 現在、海の旅で帆船を使うということは、ほとんど聞かれなくなってしまいました。私たちにとって帆船とは、本などでしか見たことのない、遠い世界の乗り物かもしれません。だからこそ、心惹かれるものなのかもしれません。しかし、宇宙での旅では、帆船が非常に有効なものとして現実味を帯びてきたのです。 というのも、今年の年末までに帆船を宇宙に打ち上げるという計画が進行しているからです。もちろん帆船を宇宙に打ち上げるのは、これが初めてとなります。惑星協会(The Planetary Society)とよばれる、NASAなどと異なり、政府が出資していない組織によって、この計画は進められています。 それにしても、宇宙を帆船で旅するとは、なんとも夢のある話だと思いませんか。この帆船はソーラー・セイル(solar sail)とよばれ、従来の宇宙船とは大きく異なるものです。例えば帆船の特徴にあるように燃料が必要ありません。今回はこのソーラー・セイルをちょっとのぞいてみて、近いうちに実現しそうな宇宙の帆船の旅に想像をめぐらしてみましょう。 宇宙で風が吹いてるの? まず、ソーラーセイルはどのような原理に基づいているのでしょうか? ソーラーセイルの動作原理について、いくつかの疑問がわくと思いますが、主に次のようなものではないでしょうか? ・ソーラーセイルの推進力は何か? ・ソーラーセイルはどうやって行きたい方向へ進むのか? まずは、ソーラーセイルの推進力について考えてみましょう。ソーラーセイルの外見は帆船に似ていますが、宇宙では空気などの媒体がないために風が生じることはないため、私たちの知っている帆船と対比させて考えることはできません。ソーラーセイルは、太陽から放出される光を帆に受けることで推進力を得ているのです。太陽に背を向けているときが推進力が最大となります。 では、このときソーラーセイルはどの程度の推進力を受けているのでしょう?これは簡単な計算によって見積もってやることができます。推進力をF、仕事率をP、光速をcとすると、次の関係が成り立ちます。 F=2P/c (2が掛けてあるのは、帆が光を吸収するのではなく反射しているため) 出力Pについてですが、これは太陽光の強度(W/m2)を計測することで簡単に知ることができます。一般に、太陽から1天文単位(地球までの平均距離)では、太陽光の強度は1.4kW/m2程度だとされています。 ということは、帆の面積が1km2のソーラーセイルが受ける推進力は約9N(ニュートン)となります。スペースシャトルのメインエンジンの打ち上げ時の推進力が約170万ニュートンということを考えるととるに足らない量です。 このように、ソーラーセイルの推進力は非常に小さなものですが、単純にスペースシャトルと比較できないメリットがあることに注目しなければいけません。スペースシャトルは燃料が限られているので、エンジンから推進力を得つづけることはできませんが、ソーラーセイルは燃料に頼ることなく、太陽の光を受けている限り、ずっと推進力を得ることができます。そして徐々に加速していきます。 また、ソーラーセイルの質量はスペースシャトルと比べればはるかに小さく、例えば惑星協会が計画しているCosmos 1の重さは、なんと40キログラムに過ぎないのです。帆の大きさ(600m2)を考えると、ソーラーセイルはいかにダイエットしているかがお分かりでしょう。それもそのはずで、なんと帆の厚さは5μmしかないのです。帆の材料には、これだけ薄くても丈夫なように、素材にはアルミニウム加工されたマイラーという高分子が使われています。このような素材の発展がソーラーセイルの実現に大きく関わっていることはいうまでもありません。 ソーラーセイルが太陽光から受けている推進力は微々たるものですが、その条件下でソーラーセイルはうまく機能しているのです。 さて、次にソーラーセイルが行きたい方向へ進むのかについて見てみましょう。まず、ソーラーセイルも、人工衛星やスペースシャトルと同じように、太陽の引力によって、軌道にのりながら移動するというのが基本となっています(図1)。ソーラーセイルの帆が太陽光に当たらないようになっているとき、つまり帆が太陽光に対して水平に保たれている場合は、加速されることも減速されることもありません。したがって、一定の軌道上を回りつづけることができます。
では、外側の軌道(太陽からより離れた軌道)に移るにはどうすればよいでしょうか?そのためには、図2に示すように帆の向きを傾けます。すると太陽から離れるような力(F1)が加わると同時に、加速する力(F2)が加わり、より外側の軌道へ広がっていきます。目的の軌道にのったところで、再び帆を太陽光に対して水平に保つことで、その軌道を保つことができます。
一方、内側の軌道(太陽に近い軌道)に移る場合は、その逆を考えればよいことになります。図3に示すように帆の向きを傾ければ、先ほどと同様に太陽から離れるような力(F3)が加わってしまいますが、同時に減速する力(F4)も加わります。結局、減速が原因となり太陽の引力につかまる形で、内側の軌道へ縮んでいきます。こうして目的の軌道にのったところで、再び帆を太陽光に対して水平にします。
実際は、太陽の距離の二乗に反比例して、太陽光の強度が変化するため、もう少し繊細な考察が必要なのですが、大まかな原理は以上のようなものです。 いずれは太陽系の外までも 燃料についても気になることがありますね。ソーラー・セイルには燃料が必要ないというのは先ほど話したとおりです。すると、いつまでも旅ができるということになるのでしょうか? この答えは、そうだとも、そうでないとも言えます。木星の公転軌道の距離まで離れると、太陽光がだいぶ弱くなります。そのため、もはやあまり推進力も得られず、同時に方向変化もできなくなるわけです。 そこでこれを克服するために考えられたのがレーザー光線です。一般に光というのは遠くに行くほど拡散してしまって弱くなってしまうものですが、レーザー光線はそのようなことが起こりません。したがって、地球上にレーザー光線を発する基地を作り、ソーラー・セイルをレーザーで照射してやればよいわけです。これで、まだ宇宙船が到達したことのない冥王星や、はたまた別の恒星の系にある惑星などまで飛んでいくことができるようになるわけです。 ところで、そんな大きなレーザー基地をつくって、強いレーザー光線を発するには、非常に大きな電力が必要となりますよね。これではソーラー・セイルの燃料がいらないということが、あまり意味がなくなってしまいます。しかし、その辺のポリシーはちゃんと守られていて、レーザー光線のエネルギーは太陽エネルギーでまかなおうという計画を立てているそうです。なるほど、このあたりは燃料不要のクリーンエネルギーの概念を大切にしているというわけです。 夜空に月並みに輝く広告掲示板(?) こうやって聞いていると、燃料もいらないし、長距離飛行も可能だなどと利点ばかりが目に付きます。では、こんないいものを今までに誰もつくろうとしなかったというのは、おかしな話だと思いませんか。 実はそういうわけではないのです。つくろうとはしなかったというよりは、つくることができなかったというべきでしょう。ソーラー・セイルのコンセプトは、1924年にフレドリック・トサンダーによって提唱されていました。そして70年代以降にはNASAがソーラー・セイルのプログラムを計画していたのですが、技術的な問題や予算問題などで結局実行されませんでした。1996年からは ヨーロッパ宇宙機関(Europe Space Agency)がソーラー・セイルのプログラムに取り組んでいるのですが、こちらも順調とはいえません。今もその両方の機関がこのプログラムを計画しているのですが、どちらともはっきりとしためどが立っていない状況です。 そんななか、今回紹介している惑星協会がワン・コスモスネット、コスモス・スタジオといったベンチャー企業と手を組んで、NASAなどよりはやくソーラー・セイルのプログラムを実現しようとしているわけです。これが成功すると、初めて帆船が宇宙に打ち上げられたことだけでなく、民間の機関によって宇宙船がはじめて打ち上げられたことにもなります。 NASAなどが手をこまねいていたこのプログラムが、好奇心あふれるベンチャー企業の資本出資があって、はじめて可能になるのです。ところでベンチャーが投資をするということは、当然商業的な利用の可能性があるからだと考えられます。Cosmos 1の場合は、地球の公転軌道をまわって、ソーラー・セイルが実用可能だという健全性を示すことが目的とされています。しかし、ソーラー・セイルを従来の人工衛星のように扱えば、情報発信ができるわけですし、宣伝効果が期待されるわけです。こういった見返りなどを期待して、今のベンチャー企業はソーラー・セイルというプログラムに投資をしているわけです。 ただ、このソーラー・セイルは太陽の光を反射するため、夜空では月程度の明るさがあり、多くの天体観測者が夜空が汚されると反対しているということも見逃すことはできません。ベンチャー企業にとって、ソーラー・セイルを打ち上げ、情報発信や宣伝効果による収益を期待するのは、私企業ながらの自然な考えでしょう。しかし頭を抱える問題は、議論を起こしてまでして自分の会社の宣伝をして、はたしてイメージアップにつながるかということでしょう。 この点で、同じソーラー・セイルのプログラムを計画しているヨーロッパ宇宙機関(ESA)と比べてみると、非常に対照的といえるでしょう。この機関はユネスコといった教育機関から資金を調達し、私企業から札束をつまれても、私企業の宣伝媒体としては使わないといっています。ESAの姿勢は下のURLのインタビューに見事に現れているのですが、読んでいると、名前こそ出てこないものの、惑星協会側のことを"violence industry"(暴力的な産業)と呼び、自分たちのことを"peaceful industry"と呼んでいるかのようです。惑星協会とヨーロッパ宇宙機関の違いを考えながらこのインタビューを読んでみると、主張がいっそう浮き彫りにされるでしょう。(ESAへのインタビュー:New Scientistから http://www.newscientist.com/opinion/opinion.jsp?id=ns22795 ) 逆に、惑星協会のパートナーのコスモス・スタジオのプロモーション・ビデオを見ていたら、「あなたも夜空を見上げれば、ソーラー・セイルの輝きを裸眼で見ることができます」といった内容のことを言っていました。先ほど述べたような天体観測者などの非難があることをおそらく知っていて、あえてこのようなプロモーションビデオにしたのでしょう。ヨーロッパ宇宙機関とは、態 度が実に対照的です。 (惑星協会側にはいろいろとムービーが用意されていますので、下で詳しく紹 介しておきます。) そういえば、商業的な話ということで、もうひとつ象徴的なことをお話しましょう。この惑星協会がCosmos 1を打ち上げる場所は、いったいどこだと思いますか? なんとロシアの潜水艦から打ち上げることになっているのです。ちなみにこの惑星協会はアメリカにある組織です。意外だなあというか、なんで?といった感じでしょう。 実はロシアにもいろいろとつらい事情がありまして、話は冷戦のころにまで戻ります。当時はアメリカと競って弾道ミサイルをつくって、バレンツ海やカムチャッカでにらみ合っていたのですが、現在では軍縮協定などで、ミサイルを処分していかなくてはならなくなりました。そして、現在はミサイルを発射する潜水艦が残り、何とか利用法はないものかと考えたロシアは、商業的な利用を決めたのです。潜水艦からミサイルのかわりに人工衛星などを打ち上げようというのです。そこで惑星協会は、ロシアの潜水艦ヴォロナからソーラー・セイルを打ち上げることに決めたのです。これが惑星協会が一見関係のなさそうなロシアの潜水艦から、ソーラー・セイルを打ち上げるにいたった理由です。このあたりは時代の流れを感じざるを得ませんね。 良くも悪くも、宇宙の分野でもいよいよベンチャー企業の参入が具体化し、今回の場合はヨーロッパ宇宙機関より早く、プログラムを実行しそうです。まずは2001年の終わりごろに惑星協会によって打ち上げられるCosmos 1を楽しみに待ちましょう。私企業の参入によって、宇宙産業がより活発になるのなら、私たちが宇宙を帆船で旅することも夢でなくなるかもしれません。 関連サイト 惑星協会のソーラー・セイルのページをアニメーションで紹介します。ここをクリック。(207K) 惑星協会のソーラー・セイル のページ(英語) サイト内の詳しい紹介 ・ムービーは http://www.planetary.org/solarsail/animation.html ・FAQsは http://www.planetary.org/solarsail/faqs.html ・打ち上げ方などは下のURLで図入りで詳しく説明しています http://www.planetary.org/solarsail/mission_design.html http://www.planetary.org/solarsail/launch.html ・帆の部分の写真、製造方法などは下のURLで説明しています。 http://www.planetary.org/solarsail/test_development.html Cosmos Studiosのサイト(英語) ソーラー・セイル以外のページもあります。 ・下のURLで感動的(?)なムービーが見れます。コラム内で裸眼で見えると言っていたのはこのビデオのこと。 http://www.carlsagan.com/solarsail/index.html ヨーロッパ宇宙機関(ESA)関連のソーラー・セイルのページ(英語) New ScientistのESAへのインタビューのページ(英語) |
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