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幹細胞: Here, There and Everywhere? |
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---胚幹細胞は倫理的に難しいところがあるため、胚以外に幹細胞を探している科学者も少なくありません。そのため、毎週のように骨髄、脳、皮膚、肝臓などといった細胞から幹細胞が見つかったというニュースが流れています。しかし、結局のところ、大人の体からとれる幹細胞の可能性はどうなのでしょうか?--- |
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この記事では 台風の目 幹細胞の二つの魅力 ジャズ演奏家と幹細胞 幹細胞:Here, There, and Everywhere? 今後の幹細胞研究は? という内容で構成しています。 |
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台風の目 そうとうの可能性をひめつつも、倫理面などで大きな問題を抱え、胚幹細胞をめぐる議論は非常に複雑になっています。 胚幹細胞を使ってマウスの心臓を再生させたとか、臓器移植は必要なくなるといった研究報告が華々しく報道されいますが、その一方で、政府の胚幹細胞の指針の決定が難航しているニュースなども毎日のように耳にすることを考えると、やはり胚幹細胞の問題の難しさがうかがえます。 ところで、そういったニュースの中には、胚以外の、大人の体から幹細胞を発見したというものもよく見かけます。脳、肺、肝臓、皮膚、皮下脂肪、そして筋肉などと、体のありとあらゆるところで、胚幹細胞と同じような働きをする細胞が見つかっているのです。 確かにこれなら、胚幹細胞とちがって、倫理的な問題もずいぶんと和らぎそうです。実際、そういった理由から、胚以外の幹細胞を研究している科学者も少なくありません。しかし今の段階では、成体の幹細胞は、胚幹細胞ほど医療に期待できないと言われているのも事実です。 いったい、成体の幹細胞にはどれほどの可能性があるのでしょうか?これほど多様な種類がありますが、それぞれの幹細胞どういった違いがあるのでしょうか? 今回は、成体の幹細胞というものがどういうものか、胚幹細胞と比較しながら考えてみることにしましょう。 幹細胞の二つの魅力 ほとんどの細胞のはたらきは、等身大の私たちの生活に似ています。つまり、成長して、一二回増殖し、同じ仕事を毎日繰り返し、そして力尽きたら死ぬといった具合です。 ところが、幹細胞というのは、等身大の私たちにたとえると奇妙なことになります。条件さえ整っていれば、何度でも増殖することができるのです。細胞の観点からすれば、一種の「不死性」をもっているとも言えるでしょう。実は、幹細胞の他にも、環境の条件次第で同じように何度も増殖する細胞がいます。それはガン細胞です。しかし、さらに幹細胞には、ガン細胞にはない性質、つまり、どんな種類の細胞にもなることができる「多分化能」の性質をもっています。この2つの性質こそ、幹細胞が多くの科学者を惹きつける理由なのです。 こういった夢の細胞が胚に存在しているということは、それほど驚くべきことでもないでしょう。受精卵からしばらくたった胚は、はじめわずかな細胞の塊ですが、これがさまざまな臓器の細胞に分化していくからです。 実際、ずっと以前から科学者のあいだでは、胚幹細胞のような特殊な細胞が存在するということは知られていました。ヒトの遺伝子の解明に役立ったマウスの研究では、遺伝子組み換えと同じくらいこの胚幹細胞を使った実験が行われてきたのです。 そして、1998年にアメリカで、ヒトの胚幹細胞を使った実験が初めて行われ、試験管のなかで、その2つの性質が示されました。確かにこの出来事は幹細胞の研究の歴史では大きなインパクトを持っていますが、この結果は、決して驚くべきことではなかったのです。これを機に、ヒトの胚幹細胞の研究が世界のあちこちで行われるようになったのですが、今に至るまで幹細胞のメカニズムははっきりとしていないのです。むしろ、こちらの方が驚くべきことなのかもしれません。 胚幹細胞を作成するまでの手順は次のようなものです。受精卵は5,6日後に、大きく分けて、胎盤になる外層の細胞の部分と、将来的にさまざまな臓器に分化していく内部の細胞の2つに分かれます。このときに、胚を破壊して、内部の細胞をとりだし、それを胚幹細胞とするのです。外装の細胞には独自で分化していく能力はないので、このとき死んでしまいます。将来的にヒトになりうる胚を破壊するというこの操作が、倫理面での最大の焦点になっているのです。 こうして、どんな細胞にでも分化する「万能」細胞を得ることができるのですが、そういった細胞も胎児として成長していく場合は、いずれ特定の細胞に落ち着くようになり、「万能」の性質は失われます。とは言っても、これは悪いことではなく、個体の形成には非常に重要なことです。もし正常な細胞に下手に幹細胞が混じっていると奇形腫(teratoma)という悪性のはれものができてしまうからです。 ジャズ演奏家と幹細胞 このように、はじめは「万能」であったはずの細胞が、どういう過程で分化して特定の細胞に落ち着いていくかということは今でも研究されている内容です。 細胞のこういった性質には、ジャズ演奏家たちと似たところがあります。ジャズ演奏家たちは、はじめに大まかな演奏の流れを決めていますが、その場の雰囲気や状況に合わせて、アドリブで演奏を変化させます。すべての細胞の遺伝子には、脳や肺、皮膚、血液といったすべての細胞を形成するための情報があらかじめインプットされているはずなのですが、その細胞がどこの臓器中に存在しているかによって、どの遺伝子を発現させるかアドリブで決めているようなのです。いくつもある遺伝子をスイッチのオンオフで発現させたりさせなかったりしているのです。おそらく普通の細胞と幹細胞の違いは、遺伝子のような根本的なものではなく、ただこのアドリブが上手いか下手かという違いなのでしょう。 問題なのは、このアドリブがどのように行われているか、ほとんど分かっていないということです。この要素こそ、細胞の分化の仕組みの根本にあることで、もっとも知りたい内容のはずです。 この仕組みが分からないことには、幹細胞を使った治療が、長期的に安全かどうかなど分かるはずもありません。つまり、手術後すぐは注入した幹細胞が周りの細胞となじんでいるように見えても、時間がたつにつれて不安定になり下手なアドリブをはじめ、ガン細胞のような働きをするかもしれません。このあたりは、ヒトに応用する場合に慎重さが必要となってくるでしょう。慎重さを欠いて、一般の人に嫌われる結果となった遺伝子組み換え作物の二の舞は避けたいところです。 今の幹細胞の研究でもっとも必要とされている知識は、まさに分化のプロセスに関わるものといえるでしょう。遺伝子の内容がわかっても、それが発現したり発現しなかったりするのでは、再生医療において、遺伝子について何も分かっていないのと同じということになってしまいます。実際に、ポストゲノムとして、遺伝子のスイッチオンオフの仕組みは非常に重要視されています。 幹細胞:Here, There, and Everywhere? さて、胚からとれる幹細胞の話はこれくらいにしておいて、最近、新聞やテレビをにぎわしている、成体の細胞からとれる幹細胞はどういったものでしょうか? 一般にこれまでは、未分化の幹細胞は胚のような若い細胞にのみ存在しているものだというのが大前提でした。例外として、さまざまな種類の血液細胞をつくる骨髄などにも未分化の性質があると考えられているに過ぎませんでした。 ところが、約10年ほど前に、この大前提がひっくり返ったのです。成体の脳に幹細胞が見つかったのです。その後、ひ臓、肝臓、軟骨、筋肉、皮膚などと、ヒトの体のあちこちから、まるでゴールドラッシュのように幹細胞が発見されました。 例えば、絶対量が豊富にあるということで、皮膚からとれる幹細胞は大いに期待されています。この幹細胞は、培養する環境の条件をいろいろと変えてやることで、平滑筋の細胞になったり脂肪細胞になったりすることが分かっています。現段階では、マウスを使った実験がほとんどですが、さまざまな種類の幹細胞で、似たような結果が出ています。 自分の皮膚から幹細胞を見つけてそれを利用するならば、倫理的な問題がないばかりか、臓器移植のような拒絶の危険を冒す必要もなくなります。臓器は常に不足しており、これからも常に不足し続けるでしょうから、その点では、成体の体のさまざまな部位から幹細胞が発見されたというのは喜ぶべきことでしょう。 しかし、こういった幹細胞にもいくつかの問題があります。まずは純度の問題です。成体からとれる幹細胞は塊で存在しておらず点在しているため純度が低く、他の普通の細胞と分離する方法が必要になるでしょう。まあ、これについてはいずれ時間がたてば解決するでしょう。 厄介なのは、成体の幹細胞は胚幹細胞ほど多分化能に優れていないということです。やはり、胚幹細胞を使ったほうが成功率が高いのです。つまり、成体の幹細胞は胚幹細胞ほどアドリブが上手ではないのです。 それに、試験管などでの培養では、この幹細胞は活発に分化するのですが、生体内ではあまり活発に分化しないのですが、これも理由がよくわかりません。 やはり、幹細胞の分化に環境が関わっているという、先ほどのアドリブの話が重要になってくるわけです。 今後の幹細胞研究は? 最終的には、皮膚などからとれる幹細胞を使えるようにするのが理想的でしょうが、そのためにも何が成体の幹細胞と胚幹細胞の成功率の違いを生み出しているのかを体系的に比較する必要があるでしょう。 胚幹細胞に関しての倫理的な議論の盛り上がりによって、研究がしにくい状況にあったために、胚ではない成体の幹細胞の研究が加速されたという事情もあります。しかし結局のところ、成体の幹細胞の仕組みをハッキリさせるためには、胚幹細胞との比較が大切で、やはり胚幹細胞が必要だという状況にあるようです。マウスでは、胚幹細胞の研究は何度も行われましたが、やはりヒトのもので確かめないと、ハッキリしないという事情があるのです。皮膚の細胞だけから、「万能」細胞を得ることができるようになるのはずいぶん先のようです。 なお、最近は、たてつづけに各国の胚幹細胞に関する取り決めが決まってきましたが、これは研究の進行にそれなりの影響を与えるでしょう。日本、アメリカ、イギリスなどといった国で、それぞれずいぶんと違った対応を見せています。例えば、もっとも寛大なイギリスの場合は、監視つきという条件で14日以内の胚から幹細胞を取り出すことを認めています。日本では、不妊治療の余剰受精卵に限り、承諾を得れば、研究目的に限り使用を可としています。アメリカでは、かなりいろいろなことが報道されていましたが、結果的には、やや研究には不利な方向にブッシュ大統領の判断が傾いたといえそうです。(そのために幹細胞の研究者がイギリスに流出したことが一時期ニュースになりました。) いずれにせよ、これまで述べてきたように、今後の研究の方向性も、やはり胚幹細胞が重要視されていくものになるのでしょう。 |
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関連サイト 日本語のページを挙げておきます。 ・成体の幹細胞を使った研究への期待と警鐘 大人の幹細胞さえあれば、胚幹細胞はいらないかと言われれば、なかなかそうともいえないものです。本文でも書きましたが、成体の幹細胞と胚幹細胞との間の違いを探ることが、成体の幹細胞の安全性をつかむことに繋がるのでしょう。 ・無限に増殖し続ける不死の細胞:胚幹細胞株 -国立遺伝子研究所 ・脂肪組織から幹細胞分離 再生医療の活用に - CNN日本語版 ・米大統領、ES細胞研究への補助を一部容認 - CNN日本語版 ・ES細胞 国産化が解禁 - 毎日新聞 ・「再生医療周辺と生命倫理を考える」 -団藤保晴の「インターネットで読み解く!」 ・幹細胞研究特集 - Yahoo!ニュース 以下英語で参考にしたページを紹介しておきます。 ・No stemming the tide - Nature Science Update ・Potential for good? - Economist ・Stem Cell Decision Examined - WashingtonPost |
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