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あなたの遺伝子は甘党? |
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---私たちはなぜ甘いものに理由もなく惹かれるのでしょうか?おいしいから?いいえ、それだけではありません。実は、その理由は私たちの体の奥底にある遺伝子に関係していたのです。--- |
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この記事では 甘い誘惑 甘さに関係する遺伝子 遅れてきた甘さについて発見 甘い発見の甘い報酬 - 人口甘味料 甘い発見の甘い報酬 - 健康のため という内容で構成しています。 |
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甘い誘惑 あなたは、夏の暑い昼下がりに町のなかを歩いています。すると、あなたの目にふととまったものがあります。それは、木の下でアイスクリームを売る露店です。それを見ると、なぜか、あなたはそこを通り過ぎることができません。なぜかよく分からないまま、足が自然に露店の方へと向いていってしまうのです。 誰でも、このような経験を一度はしたことがあるはずです。 でも、これは、いったいどういうことでしょうか?このとき、なぜ私たちはアイスクリームに魅せられてしまったのでしょうか?熱い昼下がりだったからでしょうか?それだけではありません。間違いなく、アイスクリームが甘いものであるために私たちは惹かれてしまうのです。 それでは、なぜ、私たちは甘いものにこうまで惹かれるのでしょうか?その答えの一つは、私たちの体の奥深く、遺伝子の中に隠されていたのです。 今回は、この甘い誘惑について探ってみることにしましょう。 甘さに関係する遺伝子 私たちがこれほど甘いものに惹かれるのかということは、私たちのある遺伝子に関係しているということが、最近二つの研究グループによって明らかになってきました。この二つのグループは独立して別々に研究していたのですが、同じ日にそれぞれ異なる科学誌によって、その研究の内容が報告されました。 その二つの報告の内容はほぼ一致し、マウスのT1R3と呼ばれる遺伝子が、このような甘さの誘惑に深く関わっていることを示したのです。ところで、なぜヒトではなくマウスかというと、マウスとヒトの遺伝子はいろいろな点で似ており、今回の発見がヒトにも当てはまるのではないかと考えられているからなのです。 それでは、具体的に研究内容をのぞいて見ましょう。 まず、一つのグループは、ニューヨークにあるマウント・シナイ大学のロバート・マルゴルスキー博士たちでした。マルゴルスキー博士たちは、マウスたちに砂糖を加えた甘い水と普通の水を与えたとき、甘い水を好んで飲むマウスと、そうでないマウスの違いを調べていました。そして、その二種類のマウスの遺伝子を調べていたところ、特に甘い水を好まないマウスの方には、必ずT1R3の遺伝子に突然変異が起こっていることを突き止めたのです。 そもそも私たちが甘いと感じるとき、砂糖の分子が、舌の甘さを感じる神経細胞に受け取られ、これが神経線維を通して信号として脳に伝えられるということが起こっているのです。もちろんマウスの場合でも同じです。 このときに、あるタンパク質が砂糖の分子と舌の神経細胞のなかを取り持つと考えれています。ところが、本来このタンパク質が生成されるはずなのに、先ほどのT1R3遺伝子の突然変異で生成が妨害されてしまうのではないかと博士たちは考えたのです。 そのため、T1R3の遺伝子に突然変異が起こっているマウスは、甘さを感じることがなく、特に甘い水に何の魅力も感じなかったのではないかと考えられているのです。 また、このマルゴルスキー博士たちと同じころ、もう一つのグループでも同じことを調べていました。もう一つのグループは、ハーバード大学のリンダ・バック博士のグループで、甘い水を好んで飲むマウスはT1R3の遺伝子が正常であるのに対し、そうでないマウスにはT1R3遺伝子に変異が見られるということを、やはり同じく発見したのです。そして、やはり、バック博士のグループももう一つのグループと同じ結論に至りました。 このT1R3遺伝子が甘さに関係しているということを示すアプローチの仕方は、二つのグループで多少異なっていたのですが、結果的には同じ結論を導いたのです。これにより、この信頼性はいっそう高まりました。この報告をマルゴリスキー博士とバック博士は、それぞれ"Nature Genetics"と"Nature Neoroscience"でその成果を発表しています。 遅れてきた甘さについて発見 ちなみに、科学的に味というものは、今回の甘さに限らず、他にも4つの味があります。それは、「甘み」とともに昔から分かっていた「辛み」、「苦み」、「酸味」の三つと、最近になって科学的な味として認められた「うまみ」のあわせて4つの味のことです。ところで、この「うまみ」は英語で"umami"といい、語源は日本語からきています。 この「甘み」以外の4つの味に関しては、すでに遺伝子との関係がわかっていました。そして、今回、もっとも魅力的な味である「甘み」と遺伝子の関係が示されたことで、すべての味と遺伝子の関係が示されたわけです。 甘い発見の甘い報酬 - 人口甘味料 さて、まだ今回の話は終わりません。せっかく「甘い」事実がわかったのですから、これを利用しない話はありませんよね。今回の発見は、じきに私たちの生活の中で目に見える(舌で味わえる?)かたちとなってあらわれてきます。 その一つに人口甘味料があります。人口甘味料と言えば、例えば、ダイエット××コーラやダイエット○○○コーラなどに代表されていますよね。糖分の塊で高カロリーだと言われていたコーラですが、いつ頃からか、カロリーゼロのコーラという驚異的なものが登場しました。これは、今までの砂糖のかわりに人口甘味料を使ったためにカロリーを削り落とすことができたのです。ただし、このようなダイエット熱に力を入れるソフトドリンク会社は、人口甘味料では本物の砂糖のような甘さやまろやかさが出せないと嘆いています。もちろん、私たちの前ではそんなことを言いませんが(笑)。 ところが、今回の発見から、甘さの味と遺伝子の関係が明らかになってきたように、これを利用すれば、能率よく人口甘味料を作ることができるようになるでしょう。 今までの人口甘味料の製造は、言ってしまえば運まかせでしたが、これからはこのタンパク質のはたらきを調べることで、ヒトが甘さを感じるのに都合のよい分子構造をもった人口甘味料を、ターゲットを絞ってつくることができるようになると、マルゴリスキー博士は言っています。 このようにしていろいろな人口甘味料が作られるようになれば、ほとんど同じ人口甘味料を使っているのに、「ダイエット○○○コーラとダイエット××コーラのどちらがおいしい?」なんていったお寒い状況もなくなるのではないでしょうか。 また、一部で心配されている人口甘味料の人体への影響も、今回の発見により明らかになっていくでしょう。 甘い発見の甘い報酬 - 健康のため また今回の発見で、私たちの食習慣についてもいろいろと分かってきます。例えば、私たちの中でも、紅茶の中に角砂糖を3つ入れなければいけない(?)人もいれば、1つでいい人もいます。このような人の間で遺伝子を比較すれば、糖尿病などの食習慣病への対策法も考えることができます。 例えば、女性のうちで遺伝子的にあまり苦さを感じない人は、同様にして甘さもあまり感じず、甘いものをとりすぎる傾向が見られるといったように、このような傾向を知ることが、栄養学的なサポートをするときに大きく役立つと考えられています。 このようにして、今回の発見は私たちが、どのようにして甘みを感じるのかといったことだけにとどまらず、私たちの目に見えるかたちで、大きく関わってくるのです。それも、なんとも魅力的なかたちで関わってくるのです。そう考えると、今回の甘い発見の報酬は、実に甘いものだということになりますよね。 さて、このメルマガを読んでいる間にも、あなたの体の奥底の遺伝子から、甘いものを求める声が聞こえてきませんか? 関連コラム 以前私の書いた関連コラムの紹介です。 野菜が嫌いな別の理由 今回は甘さについての話でしたが、このコラムは苦さについてです。実は野菜が苦いのは、私たちに食べられないようにするための抵抗だったのです...。 関連サイト 今回の関連サイトは日本語のものが見つからなかったんですよね。ぺプシ以外のページはみんな英語です。 Sweet tooth gene found - Nature Science Update(英語) おいしそうなケーキの写真が......、もとい、分かりやすく今回の内容が書かれています。 Nature Genetics(英語) マルゴルスキー博士のグループの報告 vol 28, p 58 Nature Neuroscience (英語) バック博士のグループの報告 vol 4, p 492 新ダイエットぺプシ登場(日本語) とりあえず、このコーラにつけ加えられた新しい人口甘味料についてかかれてあります。アセスルファムカリウムについて。 解き明かされる味覚の情報伝達 - 日経サイエンス 6月号 p54-60 本誌で今回に関連する部分が取り上げられています。 ちょっとコメント 最近、私たちの目に見える特徴と遺伝子の関係についていろいろなものが、すごい勢いで明らかになってきています。今回の甘い話もその中のひとつにすぎません。このように遺伝子を調べることで私たちの病気が治せるとかいったことは折込済みなのですが、いまいち具体的なことが分からず、漠然とした不安を抱えていたかもしれません。今回のような話なら少しは不安が和らぐかもしれませんが、やはり現実では、ちょっと怖そうな遺伝子との関係も発見されています。これからも、ときどき、今回のような遺伝子と私たちの特徴との関係を取り上げていこうと思います。 なお、最近、どんな遺伝子との関係が見つかっているかを知りたい人は、「私の気になる科学ニュース」の過去ログなどをご覧ください。 |
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