■トランジスタ
- トランジスタを理解するための前知識
半導体の中でキャリアはどう振る舞い、どう移動するか?
半導体に電流が流れるというのは、キャリア(電子や正孔)が移動することによって起こる。そのため、トランジスタに限らず、発光ダイオード(LED)など半導体デバイスをつくるためには、半導体の中でキャリアがどう振る舞い、どう移動するかを理解することが必須になる。
半導体の中のキャリアを移動させるには、どのような方法があるだろうか?それには二つの方法がある。
まず一つ目に挙げられるのは、キャリアに電圧をかけてやることだ。
二つ目は、ある地点と別の地点でキャリアの密度に差をつけてやることだ。密度の差があれば、キャリアは密度の高いほうから低い方へと移動していく。これは、例えば水の中に落としたインクが広がっていったり、煙が広がっていったりする現象と同じで、「拡散現象」と呼ばれている。
電界によるキャリアの移動を「ドリフト」といい、密度差によるキャリアの移動を「拡散」という。また、それによって生じる電流をそれぞれ、ドリフト電流、拡散電流と呼んでいる。
キャリアが移動する途中で、反対符号のキャリアとぶつかると、両方とも消滅する。これを「再結合」と呼んでいる。
次の項目では、この拡散とドリフトをうまく利用したpn接合についてみてみよう。
pn接合とは?
「pn接合」は半導体デバイスのもっとも基礎となる部分である。pn接合は両端に加える電圧の正負の向きによって、電流が流れたり流れなかったりする。その構造は、「p型半導体」(p:positive,正孔が比較的多い半導体)と「n型半導体」(n:negative,電子が比較的多い半導体)を接触させて合体した非対称なものになっている。
キャリアの密度の異なるp型半導体とn型半導体を接触させているということは、先ほど述べたキャリアの拡散が起こる。こうして、電子はn側からp側へ、正孔はp側からn側へと移動し、お互いに再結合して消滅してしまう。
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pn接合によるキャリアの拡散の様子 |
接合付近での正孔と電子の拡散や再結合は、ある程度進行したところで止まる。そのため、接合をはさんでp側には負のアクセプターイオンが、n側には正のドナーイオンが残される。この領域のことを、キャリアがないということから「空乏層(depletion layer)」と呼んでいる。
こうして接合の両側には電位差が生じる。これを「拡散電位」といい、φd[V]であらわす。また、pn接合ではn側の方がp側より電位が高くなるので、ポテンシャルエネルギーに注目すれば、p側の方がn側よりもqφd[J]だけエネルギーが高いことになる。このエネルギー差を「エネルギー障壁」という。

この図ではアクセプターイオンやドナーイオンなどを省略している |
pn接合に電圧をかけると、それによってこのエネルギー障壁が低くなったり高くなったりする。そのため電流が流れたり、流れなかったりと、オームの法則には従わない。
このことに注目して、拡散の終了したpn接合に電圧をかけたとき、電流が流れる方向を「順バイアス」、逆に電流が流れない方向を「逆バイアス」と呼んでいる。順バイアスと逆バイアスのときの、半導体の中のキャリアの様子は図2に示すとおりである。
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