DNAの無限の魅力
この記事では、 という内容を取り扱っています。 DNAの幅広い応用DNAに関する技術と聞くと、バイオテクノロジーや遺伝子ということを思い浮かべるでしょうが、実はDNAには他にも非常に面白い可能性が秘められているのです。私の書いたコラム「ナノテクノロジー 序章 – 小さな世界に大きな情報スペース」で、コンピュータのプロセッサとしての可能性があることが触れられていましたよね。 そして、DNAにはまだ面白いことがあるのです。DNAの分子は伝導性を持っているのです。さらにはDNAは絶縁体にも、半導体にも、そして超伝導体にもなるのです。 私たちの生活の中で、これらのDNAの性質が一般に利用されるようになり、大量にDNA分子が必要になった場合にも面白いことがあります。石油中心につくってきた今までの物質とは違い、DNAは細胞からいくらでも自然につくることができるのです。そのため、安価で非常に高性能な製品を作ることができるかもしれません。また自然にやさしい物質だともいえます。 このように、どこからスポットを当てても、DNAには面白いことばかりです。今回は、この伝導性についてスポットを当ててみましょう。 ワトソンとクリックの予言自然に存在する物質の構造の中で、同じ分子配列が最も多く繰り返されているものといえば、なんでしょうか?やはり、それはなんといってもデオキシリボ核酸、つまりDNAといえるでしょう。しかし、このDNAの繰り返しの構造が明らかになったのは、そう昔のことではありません。1953年にワトソンとクリックによって、はじめてDNAの構造は提唱されました。このDNAの構造のおかげで、遺伝子情報が蓄えられ、書き換えられ、そしてコピーされるのだと二人は説明しました。 ところで、ワトソンとクリックの文書の最後の方にはこのようなことがかかれてあります。 「予言したような、DNAの対になった構造のおかげで、すぐにでも遺伝子の複製の仕組みが明らかになることは間違いない。」(ref.A) (DNAの環構造を表したもの) このDNAの構造が提唱されてからというもの、この遺伝子などの分野では、最近のヒトゲノム計画にいたるまで大きな発展を遂げてきました。そして、今でもめまぐるしく前進しつづけています。 しかし、当時ではDNAの構造は、主に遺伝子情報の観点からばかり述べられていました。しかし、ワトソンとクリックの提唱したDNAの構造は、今では遺伝子情報の分野に限らず、他の幅広い分野に影響を与えています。今回取り上げる内容を考えるなら、ワトソンとクリックの文書に、このような一文を加えたくなります。 「予言したような、DNAの積み重なった環状構造のおかげで、すぐにでもナノレベルでの電気回路の仕組みが明らかになることは間違いない。」 この構造がDNAの伝導性に、いったいどのように関係してくるのでしょうか? DNAに電流が流れる?DNAのなかを電子が移動するのではないかという考えは、実はワトソンとクリックが1953年に提唱して以来ずっと言われてきたことなのです。しかし、このDNAの電気的な性質は簡単に決めれるものではなく、すぐにその証拠を実験で示すことはできませんでした。 なぜこのように、DNAのこの電気的な性質がはっきりと言い切れなかったかというと、電荷が移動しているのはDNAそのものを通ってではなくて、そのバックボーンか、またはまわりの溶媒を通っているのではないかという疑いがあったからです。この疑いを晴らすのに十分な技術力が当時にはありませんでした。 そして、それから約40年程がたって、はじめてDNAの中を電荷が移動していることを実験で示すことができたのです。(ref.B) また、(内容は難しいので述べませんが、)DNAの塩基を電子が移動するメカニズムも最近になって説明されるようになりました。(ref.C)DNAの一部分である、いくつかの塩基のなかを電子が移動できるということが説明されたのです。 さらにDNAの電気的な性質を調べていったところ、先ほどのようなDNAの一部分だけではなく、DNAの繰り返しの連続している長い範囲で電子が移動できることが分かりました。 そのため、ある程度の長さのDNAが、導体、半導体そして絶縁体としてはたらくことができることが分かったのです。このDNAの伝導性がのちのちナノコンピュータの部分でワイヤなどに使われ、大きく貢献すると考えられています。 ところで、この伝導性は、他の分野ではどのように利用されているか気になりませんか?例えば医療の分野では、DNAの伝導性はこのような利用方法があります。 DNAの伝導性は構造が正常なときに生じるものです。そのため、紫外線やイオン化された放射能にDNAがさらされて、DNAの構造が変化してしまった場合、その伝導性は変化してしまいます。 逆にこの性質を使えば、突然変異してしまった遺伝子などをつきとめたり、変異してしまったDNAがどれほど治ったかということを調べることができると考えられています。このような利用方法もしっかりと研究されています。 そして最近になって、DNAにもう一つの性質が付け加えられました。超伝導性です。今年の一月にDNAの超伝導性が実験によって示されたのです。(ref.D) この性質も、はじめのうちは、遺伝子の伝導性のときと同じように、まわりの溶媒のなかを電流が流れているのではないかといったような疑問視する声が多く聞かれました。しかし、DNAを酵素によって変質させ、再び実験を行ったところ、極端に抵抗が大きくなったため、やはりDNAのなかを電子が移動しているのだということが示されました。 ただし、この超伝導性が実現するためには、かなりの条件がついてしまいます。例えば、絶対温度が1度以上なら、DNAは普通の導体なのですが、絶対温度が1度以下になると超伝導性を示します。そのため、超低温にしなくてはいけません。また、このDNAの分子を超伝導性を持った電極につなげたときにはじめて、超伝導性が起こります。そのため、DNA分子単独では超伝導を示すことはできません。 いずれにせよ、まだDNAの伝導性については、はっきりしていないこともたくさんあるのですが、「ナノテクノロジー 序章」のコラムでも説明したように、DNA非常に可能性を秘めています。 ナノテクノロジーの進歩に支えられて、DNAの可能性は実に多彩なものとなってきたといえるでしょう。 関連コラム
以前私の書いたコラムで関連のあるものをあげておきました。参考にすると、この記事の理解がさらに深まりますよ。 関連サイト
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