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カーボンナノチューブ
-応用例1 電界放出ディスプレイ(FED)への応用
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高電圧型蛍光表示管の断面図
このタイプの表示管は屋外大型ディスプレイなどに利用するもので、直接家庭用のディスプレイに使えるわけではない。ただし、FEDで使われているものも基本的な原理は、これと共通している。 |
電界放出とは?
固体表面に強い電場がかかると、電子を固体内に閉じこめている表面のポテンシャル障壁が低くかつ薄くなり、トンネル効果により電子が真空中に放出される。この現象を「電界放出(field emission)」と呼んでいる。
この現象を観測するには、非常に強い電場を固体にかけなくてはならない。そのとき、電圧をかける面積が小さくなればその分だけ電場が集中するので、「電界放出型電子源」の金属針の先端は、鋭くとがらせたものを用いるのが一般的だ。
電界放出型電子源に向いているナノチューブ(アレイ)
この点から、カーボンナノチューブは電界放出型電子源に向いているといえる。それはまず第一に、カーボンナノチューブのアスペクト比(縦横比)が非常に大きく、先端が尖鋭であることが挙げられる。しかも化学的に安定で機械的にも強靭だという利点も見逃せない。
ただし多層ナノチューブ一本だけでは、放出できる電子の数が少なく(したがって電流も小さく)、一般に電界放出型電子源として利用するときは、多数のナノチューブが”剣山”のように生えた「ナノチューブアレイ」が使われている。
このナノチューブアレイは、半導体微細加工のような複雑な操作を必要とせず、「自己組織化」をうまくコントロールして比較的簡単な操作で作ることができる。(「カーボンナノチューブ/操作・加工」のページを参照)
また、多層ナノチューブの端のキャップを破壊しておくと、電界放出が飛躍的に増大することがわかっている。おそらくその理由は、ナノチューブの端が破壊されることで、網目のほつれたセーターの袖口から毛糸が飛び出すように、炭素の「原子ワイヤ」が飛び出し、そこに強い電場が集中しやすいためだと考えられている。
ナノチューブを使ったディスプレイの利点
この性質をいかし、ナノチューブを電界放出型電子源に使った「FED(Field Emission Display、電界放出ディスプレイ)」の研究開発が行われている。(解体真書シリーズ「電界放出ディスプレイ」を参照。)
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従来の電界放出ディスプレイの構造についてのモデル図。これまで電界放出源にはシリコンなどを微細加工した針が使われてきたが、これにナノチューブを使うことで、さまざまな性能を向上し、コストを抑えることができる。 |
FEDは、熱放出型電子源(電子銃)を採用していた従来のCRTと比べて、加熱の必要がないため省エネをはかれる。
また、FEDは一つ一つの画素に電子源が対応しているため、熱電子銃を使ったテレビのようにかさばった構造をとる必要もなく、うす型で高画質なフラットディスプレイが可能になる。
このFEDの電子源にカーボンナノチューブを用いることは、製造コストを抑えられるばかりか、環境にもやさしいと考えられている。
このFEDの実用に向けた研究開発は、国内では三重大学と伊勢電子の協同研究チームや、韓国のサムスンが有名。
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