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はじめてのナノプローブ技術
/工業調査会


走査型プローブ顕微鏡―基礎と未来予測
/丸善


ナノ・フォトニクス―近接場光で光技術のデッドロックを乗り越える
/米田出版


ナノテクノロジーの最前線 アトムテクノロジーへの挑戦〈1〉ナノテクで原子分子を見る触る操る
/日経BP社



 

  
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走査トンネル顕微鏡,STM
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■走査プローブ顕微鏡,SPM(Scanning Probe Microscope)
 - 近接場光学顕微鏡,NSOM(NOM,SNOM)


光の波長の呪縛から解き放たれるには…

 ナノスケールの世界を従来の顕微鏡で冒険しようとするとき、いつも光の波長というものが問題となる。可視光の場合で、その波長は400-800nm程度である。凸レンズで光を収束させることができるが、レンズにも有限の大きさがあるために、二つの点を区別することのできる距離(分解能)は、

  (最小分解能) = λ/N・A(λ:光の波長、N・A:レンズの開口数)

 となってしまう。基本的なレンズのN・Aは1以下なので、100nmを切るような分解能を得ることは難しい。このように、光の波長の呪縛によって生じるこの技術的・論理的な限界を、「回折限界」と呼んでいる。

 この回折限界は、単に顕微鏡の分解能だけに影響するものではない。CDやDVDなどの光ディスクに記録できる情報密度は、光の波長に依存している。また、半導体チップの製造過程でも、どれだけ加工寸法を小さくできるかは、光の波長によるところが大きい。つまり、光の波長の呪縛に縛られている限り、光ディスクの高密度化することもトランジスタの小型化することも期待できない。

 このような従来の光技術の問題を解決するにはどうすればよいだろうか?その答えの一つが「
近接場光」なのだ。



近接場光とは?

近接場光の発生・観測について

 光の波長よりもずっと小さい直径の粒子に光を当てた場合、その粒子の周辺で、局在した電磁場が電磁場が発生する。これを近接場光と呼んでいる。

 散乱光も近接場光も、入射光が球に当たったときに、球内部に誘起される電気双極子が源となって発生する電磁場である。
ただし、散乱光は遠方にまで伝わるのに対し、近接場光のエネルギーは球面状に沿うようにして集中し、球から離れた位置では観測することはできない。しかも、近接場光が分布しているのは、粒子からその粒子の直径程度の距離だ。したがって、遠方に光検出器を設置しても、粒子にへばりついた近接場光の存在を知ることはできない。では、どうすれば近接場光を観察することができるだろうか?

 それには、近接場光を発している粒子1のそばに、別の粒子2を置き近接場光を散乱させてやればよい。散乱された近接場光は、遠方にまで伝搬することが可能なので、その一部が光検出器で観測される。

 したがって、粒子2を粒子1のまわりで走査し、散乱された近接場光を観測すれば、粒子1の形状を知ることができる。つまり、粒子2はプローブ(probe)としての役割を果たしている。これを利用すれば、顕微鏡がつくれるわけだ。

 ここで重要なことは、この顕微鏡の分解能は、粒子2の直径、つまりプローブの先の大きさだけに依存するので、入射光の波長とは無関係であるということだ。したがって、光の波長の呪縛に縛られず、ずっと細かい分解能を得ることができる。これが近接場光を利用した顕微鏡「
近接場光学顕微鏡(NSOM;Near-field Scanning Optical Microscopy, NOM;Near-field Optical Microscopy, SNOM;Scanning Near-field Optical Microscopyなどとも)」の原理だ。

 NSOMの分解能は、粒子2の直径(プローブ先端のサイズ)に大きく影響されるわけだが、プローブのサイズはまったく自由に決められるというわけではない。測定の感度は粒子1と粒子2の直径が同じ程度のときが最大になるので、このことを考慮してプローブを作成しなくてはならない。



近接場光学顕微鏡の動作モード

近接場光学顕微鏡の二つの動作モード

 NSOMには、大きく分けて二つのモードがある。先ほど近接場光の観測の仕方をフラッシュアニメーションで説明したが、それは試料に光を当てて試料のまわりに近接場光を発生させて、それを別の粒子で剥がすというものだった。実際は、粒子を用いるのではなくて、加工・走査の問題から、先端に微細構造を持つ、「ファイバープローブ(先の尖った光ファイバーのようなもの)」が用いられている。こうして、プローブを試料の周りで動かせば、試料の形状がわかるというわけだ。この動作モードを「集光モード」と呼んでいる。

 一方、集光モードとは逆に、何らかの方法でプローブのまわりに近接場光を発生させて、その近接場光で試料を照らしてやるということでも、試料の形状を知ることはできる。つまり、集光モードのプローブと試料の役割が逆転しているわけだ。この動作モードを「照明モード」と呼んでいる。


照明モードで微小光源を作るための2通りの方法
(a)先鋭化した光ファイバーの先端に小さな金属開口を作る。開口から染み出した光や漏れ出た光が近接場光領域で小さなスポットを形成する。(b)鋭い金属探針の先端部に光を照射する。先端の狭い領域に近接場光が発生する。
 いずれの動作モードにしても、NSOMは先端に微細構造を持つプローブを試料に対して走査するという点ではSTMやAFMなどと共通しており、走査プローブ顕微鏡(SPM)の一員として考えられている。

 NSOMは、今のところ定常的にナノメートルの分解能が得られるわけではなく、STMやAFMほどは確立した技術とは言えないが、光観察における情報の豊富さゆえにSTMやAFMに劣らぬ期待を持たれている。例えば、生体一分子の素過程や、量子ドットなどのナノデバイスの評価など、すでにいくつかの優れた利用方法が実証されている。



原子間力顕微鏡,AFM SPMによる観察・評価