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   [ 図1 ]
 さて、化学反応の出発地と目的地が決まったので、あとは山登りをするときと同じような感覚でルートを考えてやればよいのです。

 たとえば、図1のように[1],[2],[3]という三つのルートを考えてみましょう。


 なにも言わなくても、直感的に[2]がエネルギー的にいちばん楽なルートだと予想できるでしょう。実際、それで正解なのですが、それぞれのルートを通る反応というものが、分子動力学的に見てどういうものかを考えてみましょう。

 まず[1]は(b)と(c)の結合距離を一定にしたまま、水素原子(a)が水素分子(b-c)に接近するルートを示しています。しかし、そうすると無理に山を上らなくてはなりません。このルートを通るには相当のエネルギーが必要になります。また[3]は、(a)がまだ遠くにあるときから、(b)と(c)の結合距離を広げようとするもので、やはり山を通らねばならず、反応には多くのエネルギーが必要になります。

 そして[2]の場合は、まずは(a)が水素原子(b-c)にある程度近づきます。そしてエネルギーを最小に保つために、C点(鞍点という)あたりから、(b)と(c)の結合が伸び始めます。つまり、この小山になったC点が[2]を通ったときの「遷移状態」ということになります。



   [ 図2 ]
 もし、はじめのエネルギーが足りなければ、[1]は図2のXのようになり、[3]は図2のYのようになって、水素原子(a)は水素分子(b-c)にたどり着くことができません。

 また、[2]が図2のZのように、勢いよく水素原子(a)が水素分子(b-c)近づいていくと、いったんエネルギーの壁を駆け上って転げ落ち、反対側の壁を再度駆け上って転げ落ち…と繰り返しながら、目的地へと近づきます。これが意味していることは、(a)と(b)の結合距離がバネのように伸び縮みしている振動した水素分子が生成することになります。

 さっき見たフェムトパルスレーザーによる波打ったグラフは、このような出会い方によって、生じたり消えたりする振動が反映されているのです。(さっきのグラフは、水素原子と分子の反応ではなく、もう少し複雑であるが…)


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