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---Natureの編集者も今回の発見を過去十数年の超伝導の分野でもっとも驚くべき発見だとほめたたえています。ではいったい何で、これほどまで大騒ぎになったのでしょうか。この発見の意義は、数字やこの発見のみを見ていては、少し見えにくい仕組みになっています。--- |
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この記事では ちょっと分かりにくい大騒ぎの理由 金属の中での最高の臨界温度 MgB2は「身近な」超伝導体 大きな流れに埋もれてしまったMgB2 という内容で構成しています。 |
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ちょっと分かりにくい大騒ぎの理由 2月の終わりに、超伝導の分野で非常に大きなニュースが流れました。それは青山学院大学のチームが、MgB2(二ホウ化マグネシウム)は金属の高温超電導体であるということを発見したニュースです。この発表は、科学誌Natureにも載りましたが、その編集者も過去十数年の超伝導の分野でもっとも驚くべき発見だとほめたたえています。ではいったい何で、これほどまで大騒ぎになったのでしょうか。この発見の意義は、数字やこの発見のみを見ていては、少し見えにくい仕組みになっています。大きく分けて今回の発見の注目すべき点は二つあるといえます。また、このNatureの編集者といっしょに歴史的な瞬間(最近はブレイク・スルーなんて言葉を使いますね。)を共有するためにも、ちょっと立ち入ってみていく必要があります。 金属の中で最高の臨界温度 超伝導とは、臨界温度と呼ばれる非常に低い温度で、物質の電気抵抗が突然0になる現象のことだということは皆さんご存知でしょう。この技術の応用はいくつかありますが、主にあげられるのが病院で使われているMRI(Magnetic resonance imaging)と呼ばれる装置でしょう。 このMRIは磁気共鳴断層撮影装置などと日本語で訳されます。台に横たわった人が大きな輪の形をした装置の中に通されている写真を、今までに見たことはありませんか。あれがMRIです。MRIはそのようにして、針をさしたりせずに脳や脊髄の断面図を映し出しすことができます。体の中が映し出せるということなら、誰でも経験があるX線がおなじみでしょうが、このMRIにはX線にはできないようなことを簡単にやってしまいます。そして、この装置で超伝導のワイヤが使われているのです。 ただし、このワイヤが超伝導であるためには非常に低い温度で保ってやる必要があります。そのために使われているのが液体ヘリウム(-269℃、絶対温度4度)です。ひょっとすると、大きい病院の前で液体ヘリウムを積んだトラックが走っているのを見たことがある人がいるかもしれませんが、あの液体ヘリウムはこの冷却のために使われていたのです。今度大きい病院の前でトラックを見張ってみてはどうでしょうか。もっとも最近では、液体ヘリウムを使わなくても電気冷却装置が開発されたり、液体ヘリウムで冷やさなくても、もう少し温度の高い(-196℃、絶対温度77度)の液体窒素で冷却するだけで超伝導になるワイヤも開発されたりしているのですが、やはり今でも液体ヘリウムが多く使われています。 そこで、ちょっと注目してもらいたいのが、液体窒素で冷却することができるワイヤということです。液体窒素で冷却可能ということは、液体窒素の温度-196℃(絶対温度77度)で、超伝導になる物質があるということになります。 実は、現在-113℃(絶対温度160度)という温度で超伝導を示す物質が見つかっているのです。それは酸化物超伝導体とよばれるもので、今回超伝導性が発見されたMgB2などの単純な金属と比べると、かなり構造の複雑なセラミックスです。関連記事を詳しく見てもらうと分かると思いますが、すべての記事に今回の発見は「金属での」最高温度を記録と書いてあります。どこにも「超伝導体で」最も高い臨界温度を持っているとはかかれていません。ここが今回のニュースの分かりにくいところです。 MgB2は「身近な」超伝導体 しかし、もし金属のなかで臨界温度が最も高いというだけなら、ここまで大騒ぎになる必要もないはずです。結局のところ、金属の中で最高の臨界温度を持つといっても、所詮その温度は絶対温度39度で、セラミックスの臨界温度が絶対温度160度であることを考えれば、わずか4分の1にすぎません。臨界温度は高いほどよいということを考えれば、今回の発見はあまりたいしたことには思えなくても仕方ありません。 しかしそれを差し引いた上で、今回の発見が大きく注目される理由は、単に金属のなかで温度の記録を塗り替えたということだけにあるのではありません。その理由は、セラミックスの方が生成・加工がしにくいのに対して、MgB2は非常に生成加工しやすい点にあるのです。産業で利用するには、生成・加工がしにくい、つまりコストがかかるというのは、かなり大きなマイナス点であるのは言うまでもないでしょう。逆にMgB2は1953年に発見されてから、今ではキログラム単位で簡単に手に入り、普通の研究所でも簡単に作れるような「身近な」物質なのです。 このようにMgB2が生成・加工が簡単だということを象徴する逸話として、Natureの発表とPhysical Review Lettersの発表の順番の話があります。 青山学院大学の秋光教授のこの発見は一月の始めに仙台で行われた会議ではじめて公に発表されました。そして、3月1日に発行されたNatureで、その発見が発表されました。ところがNatureでその発表がされる前に、別の科学誌のPhysical Review Lettersでは、この秋光教授らの発見をワイヤを作って実験で確認したと、アイオワ州大学のポール・キャンフィールド教授らの報告が発表されたのです。発見が発表された後に、それを実験で確認するという順序が普通でしょうが、今回の順番は見事にひっくり返ってしまっています。なにもこの理由は、Natureのよく抱かれるイメージの「保守的、発表まで遅くなる」のせいではありません。むしろ今回の発表は、Natureとしても異例の速さでおこなわれました。 確かに、仙台で発表した時点で、このニュースは世界中を駆け巡ったわけなので、このひっくり返った順序は決してありえないことではないはずです。しかしこのことは、私たちにとって、同じ日本人が発見の手柄を別の国の研究者に持ってかれたようで、なんとなく複雑な気がするというわけです。例えば朝日新聞のオンライン版には、東京大学の教授がこのことについて、仙台の会議の前に米国の研究者がこの発見の情報を得ていたとしか考えれないと述たということが書かれていました。 しかし、私の場合は、そのよう皮肉っぽく見るのではなくて、これだけ早く米国の研究者が実験で確認ができたのは、それだけMgB2が簡単に手に入り生成加工が簡単で、応用もしやすいというふうに前向きに受け取っています。(ところでNatureやScience,Physical Review Lettersという権威のある科学誌の周辺では、なぜかよくこのような、はたから見るとおかしな逸話が生じるような気がします。) なにもこんな逸話などしなくても、いろいろなメディアで取り上げられたように、このMgB2は加工しやすく価格も安いことは間違いありません。逆に臨界温度が高くても、セラミックの超伝導体は、価格が高く、扱いにくいということも間違えありません。例えば、毒性を持っているため生成するのが難しいとか、生成時に酸素の量が重要となり生成が難しい、湿度などに弱いため扱いにくいといった点です。とにかく、このように非常に「身近な」素材で、実用にもっていきやすいということが、今回の発見の意義の一つ目といえます。 大きな流れに埋もれてしまったMgB2 ところで、扱いにくいといわれながらもセラミックは今まで研究しつづけられ、逆にMgB2はありふれた金属なのに、このような超伝導性が発見されなかったというのはどういうわけでしょう?その理由は偶然だけではないような気がします。その大きな理由に、超伝導をめぐる研究開発の歴史の流れというものがあるような気がします。つまり、超伝導の研究開発の興味の推移の流れの中によって埋もれてしまったということです。超伝導性について研究開発された対象は、そのときどきによって大きく変化していっています。その関心の変化のなかで、MgB2は見過ごされてしまったように思われます。そこで今回の発見のもう一つの意義をつかむためにも、簡単に超伝導の研究開発の歴史を眺めてみましょう。 超伝導というものがいちばん最初に発見されたのは1911年のことでオランダの物理化学者カーメリン・オンスによってでした。カーメリン博士は水銀を超低温化で扱っているときに、絶対温度4度を下回ったところで急に電気抵抗が0になることを発見しました。そして、およそ25の化学元素と数多くの合金にこれに似た性質が発見されました。ただし、このときの臨界温度は平均して、絶対温度20度(-253℃)くらいでした。まだこのときは超伝導の理論はハッキリしていなかったのですが、1957年に三人の科学者によって、金属の超伝導を説明するBCS理論(John Bardeen, Leon N. Cooper,John Robert Schriefferという三人の科学者の名前から採ったものです。)というものが打ち立てられました。この理論は後々の超伝導の研究に大きく貢献しました。この理論のなかには、金属の臨界温度は最高でも絶対温度30度(-243℃)くらいであるということが含まれていたのです。後で述べますが、これは今回の発見に大きく影響してきます。 とくに1960年代から70年代にかけて、このような単純な組成の金属の超伝導性が多くの科学者によって調べられました。また当時、ホウ素による化合物もたくさん調べられたのですが、なぜか今回発見された二ホウ化マグネシウムは調べられませんでした。確かに、この点は偶然といえるでしょう。しかし、80年以降、MgB2が調べられなかったのは偶然と言い切れるものではないことを説明しましょう。 1986年に酸素と銅を含むセラミックが非常に高い温度で超伝導性を示すことが分かりました。今まで液体ヘリウム(絶対温度4度)を使っていたのが、安価な液体窒素(絶対温度77度)で超伝導を実現することができるようになりました。このころこの発見がもたらした影響とは非常に大きなもので、日本でも「高温超伝導フィーバー」と呼ばれ、盛んにこれらのセラミック系の研究がされました。当時の雰囲気はちょうど今のゲノム解析のような感じで、明日にでも室温に近い臨界温度を持つ常温超電導材料が発見されるかといった勢いでした。しかし、研究も一段落して、関心は実用化に向けた開発に向いていきました。例えば皆さんよくご存知のリニアモーターカーなどがあります。当時は21世紀までに、すべての車が、リニアモーターカーのように宙を浮いているようになるだろうとまで考えられていました。しかし、大きな壁にぶち当たりました。それは先ほども述べたセラミックス系の適当な加工が法がないという技術的な問題でした。 ところで、「高温超伝導フィーバー」の時期の最大の関心は、いかに超伝導の臨界温度を上げるかということでした。そのため、幸か不幸か大きく貢献したBCS理論ですが、金属の超伝導の臨界温度は絶対温度30度が限界というその理論によって、それ以上高温になる望みのない、それまでの金属の超伝導体には余り関心がむけられなくなりました。そのため、あまり研究が行われず、今回のMgB2の発見が見逃されてしまったといえるでしょう。これが私が偶然ではないとえる理由なのです。 それを考えると、Natureの編集者も書いていましたが、「もし60-70年代にMgB2のことが発見されていたなら、世界は大きく変わっていただろう。」と思いたくなってしまうわけです。 さて、いよいよ今回の発見の核心に到達しました。今回の発見は、BCS理論の枠内では説明できません。今まで金属の超伝導は絶対温度30度以上では不可能だと考えられていたのが、今回の絶対温度39度という結果によって破られてしまいました。つまり結果として、BCS理論は完全ではなく、新しい理論が出てくる可能性が出てきたわけです。同時に単純な組成の金属合金でより高温な超伝導体の登場の可能性も出てくるわけです。 今まではセラミックスを研究することで高温超伝導を実現しようとしていたのですが、これからは再び金属合金を研究することで、それを実現しようという流れになるかもしれません。こうして超伝導の研究開発の流れを眺めてみると、今回の発見は、これまでの流れを大きく変える機会となるかもしれないわけです。これが、今回の発見の二つ目の意義といえます。 今の時点では何もわかりませんが、少なくとも病院の前から液体ヘリウムを積んだトラックが消えるといった程度のことではなく、「高温超伝導フィーバー」の時期にかなり多くの人が抱いていた21世紀像をより近いものとしてくれることになるのかもしれません。 関連項目 トップページ>物理>超伝導 関連サイト 超伝導物質二硼化マグネシウム(MgB2)の発見について - 青山学院大学 秋光純教授とそのメンバーの方、今回の発見はおめでとうございます。ということで、ここは今回の発見のオフィシャルサイトといったところでしょうか。あまり詳しい知識がなくても読める内容となっています。日本語です! Natureから(英語) ・Genie in a bottle - vol401 p23-24 何度か本文に出てきた「Natureの編集者」という人物が書いた関連記事。この人の夢なんかがかかれてあって、結構おもしろい。 ・superconductivity at 39K in magnesium diboride - vol 401 p63-64 こちらは秋光教授がNatureでした報告。いろいろ詳しく書かれてあります。 ※Natureの記事の閲覧ですが、直接そのページにリンクをはるとエラーが出るようです。そこでトップページから上の巻号とページを入れて検索すれば閲覧できます。Natureは最新号は会員でないと全文が読めないようですが、ある程度時期がたつと非会員でも読めるようです。これはうれしい。 日本のオンラインメディアから ・毎日新聞 ・日経 ・CNN-Japan(日本語) 日経新聞が関連記事などフォローされていていちばん詳しくかかれています。朝日新聞は例によってアクセスできなくなりました。きっと今ごろ有料のデータベース庫のなかに....。新聞本誌でも記事は載ったようですが、なにせ土曜の夕刊で、しかも最近の国内ニュースにかき消されてしまって。もうちょこっとインパクトがあってもよかったのに。 Superconductivity(英語) Britanicaの膨大なオンライン百科事典から。そんじょそこらのサイトとは説明の詳しさが違います。超伝導について詳しすぎるくらい書かれてあります。ただし、今回の発見のことはかかれていませんが。 「超伝導」というキーワードに42件の書籍がヒット - 専門書の杜 |
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