■デンドリマー
− ユニークな物性と応用 ドラッグデリバリーから電子デバイスまで
デンドリマーは、一般的な鎖状の高分子と異なり、ステップごとに合成できるため、構造の制御に関して非常に自由度が高い。そのため、任意の物性や機能を持たせやすいという利点がある。このユニークな物性のおかげで、ドラッグデリバリーから電子デバイスまで幅広い応用が期待されている。
水溶性を利用してドラッグデリバリーを実現
デンドリマーは、世代が進むごとに表面の官能基密度が高くなり、物性を大きく支配するようになる。例えば、末端の官能基にカルボキシル基など親水性のものを組み込めば、デンドリマーは水溶性になる。
分子表面は親水性である一方で、デンドリマーの内部を疎水性に設計することも可能だ。三次元構造で内部にゲスト分子を保持できるスペースがあることから、難水溶性薬物を取り込むことが可能だ。さらに、末端の官能基がアミノ基であるPAMAM(ポリアミドアミン)デンドリマーは、pHのような外部の環境に応答して、末端のアミノ基がプロトン化され、デンドリマー分子全体が正電荷を帯びて体積が大きくることが知られている。こういった外部の環境に応答する性質を利用すれば、ピンポイントで患部に薬物を投与するというドラッグデリバリー(DDS)への応用できるのではないかと期待されている。
図.デンドリマーを用いたドラッグデリバリーの一例 |
光捕集アンテナ
デンドリマーの内部は、密度が非常に高いため化学的に特異的な環境であることが近年わかってきた。例えば、デンドリマーを光捕集アンテナとして利用して、通常では起こりえないような反応が東大の相田らによって確認された。
図.アゾベンゼンの光異性化
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図に示すアゾベンゼンには、トランス体とシス体の二種類の異性体があり、通常はトランス体のほうが安定である。ただし、このトランス体に紫外線を照射すると、シス体に光異性化し、逆に可視光を照射するとシス体からトランス体に戻ることが知られている。これによって色が変化する。
ところが、コアにアゾベンゼンをもつデンドリマーにエネルギーの低い赤外線を照射することによってシス体からトランス体に光異性化ことがわかっている。この原因として注目されているのは、コアのアゾベンゼンが置かれている化学環境の特殊性だ。通常は溶媒分子の衝突などによって、アゾベンゼンの励起状態は緩和されるが、デンドリマーの場合はコアのアゾベンゼンの周りに溶媒分子がたどりつけないため、励起状態が緩和されずに光異性化が起こるのだろうと考えられている。
無限の可能性
このようにデンドリマーはコアユニットや表面ユニットを修飾することで、多様な機能を発現させられることがわかっている。このため、デンドリマーは上に紹介したドラッグデリバリーや光捕集アンテナのほかにも、有機ELディスプレイ、人工光合成システム、人工ヘモグロビンなど多様な応用が期待されている。ここでは、本文で紹介しきれなかったデンドリマーの応用研究のリンクを紹介する。
フルカラー有機ELディスプレイの開発に向け、
英国オプシス社と共同開発契約を締結すると共に、英国CDT社の株式を取得 - 凸版印刷(2002)
情報通信ナノテクノロジー研究
- 通信総合研究所ニュース(2000)
複数の吸着性基をもつデンドリマーの挙動
- JST さきがけ研究「組織化と機能」領域(2001)
エレクトロニクスからフォトニクスへ
多機能性超分子をデザインする - 理研ニュース(2000)
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