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ナノテクノロジーの最前線 アトムテクノロジーへの挑戦〈2〉電子スピンを見る操る
/日経BP


Semiconductor Spintronics and Quantum Computation
/Springer-Verlag




    最終更新日:2002/11/10
 

  
イントロダクション
スピンとは?
ハードディスクの成長を支えたGMR素子
メモリに必要な条件をすべて満たす MRAM
スピンFET 広がるスピントロニクス
リンク集

 
■スピントロニクス
 −メモリに必要な条件をすべて満たす MRAM


ちょっとメールを確認したいだけなのに、例によってこの画面を見させられるなんてもううんざり。もしMRAMが実現すれば、テレビをつけるのと同じようにすぐにパソコンを起動できるようになる。

起動待ち画面にサヨナラ

 メモリに望まれる条件とはどんなものだろうか?基本的には次のようなものがあげられるのではないだろうか。
  ・書き換え/読み出し速度
  ・集積度
  ・揮発/不揮発
  ・消費電力
  ・ビット単価

 パソコンやその周辺の製品にはいろいろなメモリが使われている。しかし、今のところこのすべての条件を満たしたメモリは存在しない。パソコンの「メモリ」として使われている「DRAM(Dynamic Random Access Memory)」は書き換え/読み出し速度、集積度などの点で優れているが、「揮発性」メモリで電源を切ってしまうと保持していたデータが失われてしまう。そのため、いつもパソコンを立ち上げるたびに待たされるというわけだ。デジカメのメモリなどとして使われている「フラッシュメモリ」は「不揮発性」であるが、書き換え/読み出し速度やビット単価の面で優れているとは言えない。

 しかし、「
MRAM(Magnetic RAM)」はメモリに要求されるこれらの条件をすべて満たすことができるかもしれない。MRAMは従来のメモリとはまったく違った原理になっている。これまでのメモリは構造の違いこそあっても、すべて電子の電荷によって情報を保持していたのに対し、MRAMでは電子のスピンで情報を保持するようになっている。


TMR素子 - MRAMの基礎

 MRAMの原理を理解するためには、まず「トンネル磁気抵抗(TMR:Tunnel MagnetoResistance)効果」を理解しなければいけない。このTMR効果は、図に示すような絶縁体を二つの強磁性体で挟んだTMR素子で確認することができる。

図.TMR素子の構造

 TMR素子では一方の強磁性体層(図では下部)のスピンの向きは一定で、もう一方(上部)ではスピンの向きは外部の磁場によって変えられるようになっている。一般に、両者のスピンの向きが平行な場合を"0"とおき、また反平行な場合を"1"とおいている。

 ここで重要なのは、スピンの向きの違いによって、TMR素子の電気抵抗が変化するということだ。図1のようにスピンが平行なときは、TMR素子の電気抵抗は小さくなり、電流量が大きくなる。一方、スピンの向きが反平行で、抵抗が大きくなるので電流量は小さくなる。つまり電気抵抗の変化を検出することでTMR素子のスピンの状態を知ることができる。こうしてTMR素子に蓄えられているビット情報を引き出すことができる。

 また上部の強磁性体のスピンの向きは外部からの磁場によって変えられるようになっているので、スピンの向きを変えて"0/1"を書き換えることができる。

 図にスピンの向きと電気抵抗の変化(minor loop)について示してあるが、ここからMRAMの不揮発性の性質が分かる。磁場を加えることによって"0"⇔"1"を書きかえているわけだが、磁場がなくなっても点A,Bに示すようにスピンの平行、反平行の状態が保たれていることに注目しよう。


MRAMの構造・動作原理

 下図にMRAMの構造とその動作原理についてモデル化したものが示してある。MRAMはTMR素子がグリッド状に配置された構造となっており、個々のTMR素子のスピンの向きで0/1の情報を保持している。

図.MRAMの構造、動作原理

 図からも分かるように、MRAMの構造は比較的シンプルであるといえるだろう(実際のTMR素子は強磁性体層と絶縁層との間にいくつかの補助的な層が含まれており、図ほどは単純ではないのだが)。精度の高い薄膜形成が要求されるものの、シンプルな構造は集積化などにも有利だと考えられている。

 また、MRAMは従来のシリコン半導体とまったく別路線にあるというわけではなく、シリコンの遺産をうまく引き継ぐかたちで発展していくと考えられている。そのためにも重要となるのはシリコン基板上にMRAMを設置可能にすることであるが、例えば2002年に産総研エレクトロニクス部門が、MgOを下地に使うことで高性能のMRAMを従来のシリコンLSI上に作成することに成長している。

 新型高性能トンネル磁気抵抗素子を開発 - 産総研(2002/4)


すぐそこまでやって来ているMRAMの足音

 確かに、MRAMには克服しなければいけない技術的な課題も多いことも事実だ。しかし、決して遠い未来の技術というわけではないのだ。

 MRAMの研究開発は最近になってアメリカでDARPAなど政府機関が後押しするかたちとなって、MotorolaIBMなどがその試作機をデモンストレーションして話題となっている。Motorolaは2001年に256KビットのMRAMを作成し、世界をあっといわせた。しかも2002年の6月には1Mビットの作成を発表している。

 Motorola、1MビットMRAM発表 - ZDNet(2002/6)

 Motorolaは順調に行けば2004年から2005年ごろにはMRAMが市場に投入されるだろうと考えているほどだ。またアメリカと比べるとやや遅れをとった感じも否めないが、国内でも東芝やNEC、ソニーなどがMRAMの開発を進めている。こうしてMRAMは、フラッシュのようなニッチ的なメモリではなく、今後はDRAMに取って代わる存在になっていくと考えられるようになってきたのだ。



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