■導電性高分子
− キャリア濃度-ドーピングでキャリアを注入
銅や銀などの導体(金属)の場合、原子核の影響から比較的自由に動くことのできる電子(自由電子)が多く存在していて、結晶中をデタラメに動き回っている。導体に電圧をかけてやればその向きに沿って電子が移動し、電気を通すことになる。
一方、シリコンなどの半導体は純度が高い場合、ほとんどといってよいほど自由電子が存在していない。下に示すシリコンの図のように、最外殻電子をすべて使って頑丈な結晶格子をつくるために、自由に動くことのできる電子が残らないからだ。キャリアがなければ電気は通さない。
不純物を含まないシリコンの単結晶。自由に動ける電子を持たない。 |
そのため半導体デバイスなどをつくるときには、わざと半導体に導電不純物を加えてキャリアを注入してやる。これをドーピングといっている。下の図は、シリコンに価電子の多いリンを加えてやり、自由電子を増やしたときの場合だ。これによって余分に自由電子が存在することができる。(詳しいことは「半導体」を参照。)
不純物のリンを加えることで自由電子が存在している。 |
普通は導電性高分子の場合も、無機結晶半導体のようにキャリアをほとんど持っていない。そのため、ドーピングによってキャリアを注入してやらなくてはいけない。ただし、無機結晶の半導体と似ている点もあれば異なる点もあるので注意が必要だ。
ドーピングには正孔を注入してやる酸化(p-ドーピング)のものと、電子を注入してやる還元(n-doping)の二種類がある。
ドープ一覧表
アクセプター(p-ドーパント) |
ハロゲン |
Cl2, Br2, I2, ICl, ICl3, IBr, IF3 |
ルイス酸 |
PF5, AsF5, SbF5, ... |
ドナー(n-ドーパント) |
アルカリ金属 |
Li, Na, K, Rb, Cs |
アルカリ土類金属など |
Be, Mg, Ca, Sc, Ba, Ag, Eu, Yb |
ドープ後のソリトン
ポリアセチレン(all-trans型)をヨウ素(アクセプター)で酸化した場合について、下のフラッシュアニメーションを参考にしながら詳しく見てみよう。とくに、ドープ量を増やしていった場合、どのような変化が起こるかに注目するとよいだろう。
π電子は1/2のスピンをもっているので、中性ソリトンのスピンは1/2だったのに対し、この場合はπ電子が引き抜かれたために、スピンは0、荷電は+1となる。これを「正荷電ソリトン」と呼んでいる。
一方、ナトリウムのようなドナーでドーピングしてやると、カルバニオンになり、スピンは0、荷電は-1の「負荷電ソリトン」となる。
中性ソリトンの場合と異なり、荷電がゼロでない正荷電ソリトンと負荷電ソリトンが導電キャリアとなって、導電性に大きく寄与する。
ソリトン、ポーラロン、バイポーラロンの特性
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ソリトン |
ポーラロン |
バイポーラロン |
中性 |
正荷電 |
負荷電 |
正荷電 |
負荷電 |
正荷電 |
負荷電 |
荷電数 |
0 |
+1 |
-1 |
+1 |
-1 |
+2 |
-2 |
スピン |
1/2 |
0 |
0 |
1/2 |
1/2 |
0 |
0 |
荷電ソリトンと中性ソリトンが結合すると、カチオンラジカルやアニオンラジカルが発生する。これをポーラロンと呼んでいる。ポーラロンには磁性が発生する。さらにポーラロンの濃度が高くなると、ポーラロンどうしが結合してバイポーラロンとなる。このあたりの詳しいことは、ノーベル財団のホームページを参考に。
The Nobel Prize in Chemistry, 2000: Conductive
polymers(pdf)
- nobel e-museum
http://www.nobel.se/chemistry/laureates/2000/chemadv.pdf
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