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   最終更新日:2002/10/27




量子コンピューティング-量子コンピュータの実現へ向けて/シュプリンガ−フェアラーク東京


中国人郵便配達問題=コンピュータサイエンス最大の難関
/講談社


Quantum Computation and Quantum Information
/Cambridge Unv. Pr.


Quantum Computing
/Springer Verlag



The Bit and the Pendulum: From Quantum Computing to m Theory - The New Physics of Information
/John Wiley & Sons



 

  
イントロダクション
量子コンピュータの歴史
量子力学と計算機科学
Shorの因数分解アルゴリズム,他
実際に量子コンピュータ装置を作る
リンク集

 
■量子コンピュータ
 − 量子コンピュータの歴史


1959年 「量子力学的な振る舞い」を計算に利用する

 1959年に、Richard FeynmanはCaltech(カルフォルニア工科大学)である公演を行なった。
その内容は、原子分子レベルではまだ活かしきれていないスペースが存分にある("There's Plenty of room at the bottom")といったものだった。[1]当時はあちこちで小型化の波が押し寄せ、それに伴って情報の高密度化が進行していたが、それとは一線を引いた内容で議論を行なった。

 Feynmanはその公演のなかで、例えば「量子化されたエネルギー準位(quantized energy levels)」や「スピン(quantized spins)」など、量子力学的な振る舞いを利用することを提案した。ただし、このときの話は理論的なものが中心で、具体的な手段については何も触れられていなかった。

 
実際には、今の量子コンピュータの誕生とこの出来事を直接結びつけるべきではないかもしれない。ただ、量子コンピュータやスピントロニクスが注目されるようになった今に、この公演の内容を振り返ってみると非常に興味深い。



1980 量子コンピュータの概念の誕生

 それまで、不確定性原理による理由から、計算過程でエネルギーを消費し、量子的な系の情報が失われてしまうために、どんな量子力学的モデルもコンピュータに利用することはできないと考えられていた。ところが、Paul Benioffは1980年からの一連の論文で、エネルギーを消費せずに計算が行えることを示した。[2]こうして、はじめて量子コンピュータという概念が誕生した。82年には、ノーベル物理学賞を受賞したFeynmannも、この有用性について言及している。

 ただし当時は、量子コンピュータはあくまで学術的な興味の範疇にとどまっており、広く関心が集まることはなかった。


1994 量子コンピュータは現在の暗号技術を崩壊させる

 90年代に入り、量子コンピュータでどのような問題を解くことができるかが議論されるようになった。しかし、そのなかでも最もインパクトが大きかったのは、94年にベル研のPeter Shorの示した因数分解のアルゴリズムに違いない。[3]

 現在の暗号システムは因数分解に基づいており、従来のコンピュータが現実的な時間で因数分解を解くことができないことを、暗号の安全性の根拠としている。ところが、それまで宇宙年ほどの時間(順指数間数的な時間)をかけても解けなかった因数分解を量子コンピュータは数分で解いてしまうことが示されたのだ。

 仮に量子コンピュータが実現すると、重要な暗号システムRSAも破られてしまい、社会的な影響は非常に大きい。こうなれば、インターネットもメールも携帯電話もすべて信用できなくなってしまう…。

 こうして量子コンピュータは強烈なインパクトとともに、広く注目されるようになった。



1997〜 数キュービット - 百万キュービットへの小さな1歩

 こうして、量子コンピュータが理論どうりに実現されれば、現在のコンピュータよりも本質的に高速なコンピュータが得られる理論的状況証拠はすでに示された。ただ問題は、量子コンピュータのハードウェアを技術的につくることが恐ろしく難しいということだった。

 90年の後半に入って、世界中のいくつかの研究所で、数キュービット(量子ビット)の量子コンピュータの動作が実証されるようになった。これらのハードウェアというのは現在のコンピュータと比べるとずいぶん風変わりなもので、例えば、低温でイオン一つ一つにレーザーを照射するイオントラップ、液中の分子の核スピンを調べるNMR(医療用装置MRIと似た装置)[4]、そして現在の半導体技術の粋をつくして作成したジョセファン接合による超伝導単一電子箱[5]などだ。

 ただし、これらの実験では数キュービット程度のもので、従来のコンピュータより高速な量子コンピュータには百万キュービット程度が必要だとされていることを考えると、まだまだコンピュータと呼べるようなものではないかもしれない。

 それにイオントラップ、NMR、ジョセフソン接合などの現在の方法の延長では、おそらく百万キュービットを実現するのは不可能で、大きなブレイクスルーが必要とされている。



ref.
[1]"There's Plenty of Room at the Bottom" R.P.Feynman, 29th annual meeting of the American Physical Society at Caltech (1959)

[2]"Quantum Mechanical Models of Turing Machines That Dissipate No Energy" P.Benioff, Phys. Rev. Lett. 48, 1581-1585 (1982)

[3]P.W.Shor, Proceedings of the 35th Annual Symposium on the Foundations of Computer Science , 124, (1994)

[4]"Quantum computing in molecular magnets", M.N. Leuenberger, D.Loss, Nature 410, 789-793 (2001)

[5]"Bulk Spin-Resonance Quantum Computation", N.A.Gershenfeld, I.L.Chuang, Science 275, 350 (1997)



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