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最終更新日:2002/12/9
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■自己組織化&自己集合
− 固体表面に自己形成するナノワイヤ・量子ドット
これまでの標準的な半導体加工プロセスでは、例えばシリコンウエハにワイヤを形成するために、薄膜形成、リソグラフィー、エッチングなど、多くの複雑な操作が必要だった。
ところが、ある金属表面に蒸着膜を成長させる過程で、両者の格子定数のミスマッチなどから生じるひずみの力を利用して、ナノワイヤやナノピラミッド・ナノドットなどを作成できることが分かってきた。とくにこれらの微細構造は、量子ドットをはじめとする量子デバイスへ利用できると期待されている。
例えば、Si(100)上にGeを蒸着させると、ピラミッド型やそれを横に引き伸ばしたようなナノクラスターが形成されることが知られている。またSi(100)上にエルビウムシリサイド(ErSi2)を成長させた場合、ナノワイヤが形成される。
固体表面に自己形成するナノ構造体
薄膜 |
基板 |
ナノ構造体の形状など |
Ge |
Si(100) |
ピラミッド、ドーム |
InAs |
GaAs |
ピラミッド、量子ドットなどへの利用 |
ErSi2 |
Si(100) |
ワイヤ |
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固体表面で自己形成するナノ構造体のムービー
http://www.fz-juelich.de/video/voigtlaender/MBESTM.html
SKモードで成長させた様々な結晶のSTMイメージ(着色あり)
http://www.hpl.hp.com/research/qsr/gallery/gallery.html HP社
もちろん現段階では、この自己形成するナノワイヤでコンピュータ回路を作り上げるような段階にはない。しかし、従来の複雑な加工プロセスのほとんどを排し、薄膜形成に必要な操作だけでコンピュータ回路を作れるようになれば、その産業的影響は計り知れない。
固体表面に自己形成するナノ構造を支配する要因
ワイヤやピラミッドのようなナノ構造体の形成を駆りたてるのは、いったいどのような要因なのだろう?ナノ構造体の形成を支配するいくつかのパラメータをコントロールできるようになれば、任意の方向・位置にワイヤやピラミッドを形成することが出来るようになるかもしれない。
現時点ではこの成長メカニズムが完全に理解されているわけではないが、いくつか基礎となる考えがある。それは熱平衡での表面と界面の自由エネルギーについて注目した考え方だ。これは「表面張力による造形」のページで取り上げた考えと共通するところが多い。
その観点から、Bauerは固体表面上の薄膜成長を三つのモードに分類した。その重要な基準が基板と薄膜の原子の化学結合力Dsmと薄膜の原子どうしの化学結合力Dmmの大小関係である。
図.固体表面での結晶の自己形成モード
FMモード;二次元的な薄膜形成、VWモード;単純な島形成、SKモード;薄膜+島形成 |
Dsm>Dmmのとき、基板上に平面構造を持った層が一層ずつ出来あがるFMモードとなる。
Dmm>Dsmのときは、はじめに基板上に結晶核が形成され、最後に各粒子が合体して薄膜化するVWモードとなる。例えば貴金属や酸化物などの安定な基板上に、遷移金属などの反応性の高いものを成長させるときに、このVWモードになりやすい。
そして、とくにDsm>>Dmmで、基板と薄膜の格子定数のミスマッチが大きいとき、SK(Stranski-Krastanov)モードになる。このモードではSi基板上でGeピラミッドが出来たりと興味深い。まず、一層目の薄膜は、基板全体を出来る限り覆うことでエネルギー的に安定になる。一層目の存在のおかげで、二層目は基板からの結合力の影響力をあまり受けない。その一方で、基板と一層目のあいだの格子定数のミスマッチで生じたひずみは、膜の厚さが増すごとに大きくなるので、二層目は一層目のひずみのうえにピラミッドなどを形成する。また、ひずみの異方性からピラミッドやドーム型でなく、ワイヤ状に成長することもある。
以上の三つのモードは、薄膜形成させる温度や材料の供給量などの熱力学的な要素によって大きく左右される。しかし、熱力学的な要素だけな説明だけでは不充分な例も報告されており、拡散などの影響も含めた新しい構造規制因子の存在が考えられている。
従来の半導体技術での薄膜成長プロセスでは、ひずみなどによって生じる自己集合島などはむしろ排除すべき要素であった。したがってFMモードが重要視されてきた。しかし微細加工の限界がささやかれはじめている現在、固体表面での島成長プロセスが注目されてきている。
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