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2001年 科学トップニュース




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人気投票によるピックアップ
「気になる科学ニュース調査」で振り返る2001年科学トップニュース




・気になる科学ニュース調査・人気投票
 12/15〜12/28の二週間、読者の方に人気投票していただいた結果です。(一人につき3タイトル以内で選択、155人参加)。

順位 タイトル 投票数
1 そして光は止まった... 42
2 「平ら」な宇宙 39
3 銀河系の中心からウインクしたのは誰?やっぱりブラックホール 36
3 ますます肩身の狭くなる”惑星”冥王星 36
5 超低温の世界は量子ワンダーランド 31
6 シリコンにない可能性を広げるプラスチックコンピュータ 29
6 プリオン病:死の病原体の足取りを追え 29
8 量子テレポーテーションと不落の量子暗号 25
9 ポストゲノムの新しい方向性 システムバイオロジー 23
10 太陽ニュートリノ問題の解決は深遠なる謎への入り口 22
10 記憶はガラスの中に 22
12 家庭のコンセントから宇宙へ繋がる 宇宙太陽光発電衛星構想 19
13 南極の氷の下に眠る知られざる生命 18
14 ナノテクノロジー序章:小さな世界の大きな情報スペース 16
15 失われた抗生物質に望みをつなぐナノチューブ 13
16 光ファイバーの見えないガラスの壁 12
17 水に浮く「水滴」 11
18 ナノロボットからDNAのコピーの不思議へ 9
18 ヒトの進化の歴史を変える頭蓋骨 9
18 LED照明に浮かび上がる21世紀の姿 9
         21位以下は省略

 私の感想としては、なんとなく宇宙・物理に偏った結果になったなあというところでしょうか。たいていの方は選択できる三タイトルのうち、宇宙なら宇宙だけ、バイオテクノロジーならバイオテクノロジーだけといった感じで、一つの分野に集中して投票していました。それにしてもメルマガ創刊号となった「そして光はとまった…」が一位になるなんて。




・人気投票によるピックアップ
 とまあ、そんなわけで、とくに人気の高かった内容について、補足というか続編的な内容というか、簡単にコメントをつけておきます。1位の「そして光は止まった」と2位の「「平ら」な宇宙」についてです。

 1位 「そして光は止まった…」

 これは気になる科学ニュース調査の第1号のときのものですね。このニュースは量子学的な現象としてとらえても面白いのですが、なんとなく光の速さは越えられないというイメージが浸透しているので、社会的にもかなりショッキングなニュースでした。

 超低温のルビジウムのガス(ボーズアインシュタイン凝縮)に、二つのレーザーをうまくあわせることで、光をいったん止めて再び放つというものでした。


スポットライトはオンオフはカップリングレーザーのオンオフを表す。左から右へ抜けた赤い線はレーザー。そして、並んだガラス玉はルビジウムの冷却原子を表す。
 一般に、ルビジウムのような不透明なガスに光を通しても吸収されてしまいますが、もう一つのレーザー(カップリングレーザー)とあわせることで、その光を通すことができます(図1)。そして光はルビジウムと干渉します(図2)。ところがこのときにカップリングレーザーを消すと、光は透過できなくなり消えてしまいますが、ルビジウム原子にはその量子的な情報が残ります(図3)。そのため再度、カップリングレーザーをつけると、先ほど消えていた光は復活し(図4)、ルビジウムのガスの外へ出て行きます(図5)。
 

 この現象の細かい内容は記事本文を見ることにして、ここではあまり踏み込まないとして、記事本文であまり書かなかった具体的な応用について少し考えてみましょう。

 まずは、この二つの記事で書かれていたことを思い出してください。
 ・「光ファイバーの見えないガラスの壁
 ・「シリコンと光のできちゃった結婚とその解決

 これはともに今の光ファイバーによる通信が抱えている問題について書いたものでした。シリコンと相性のよいLEDなどをつくろうと、地道な努力が行われているということについて書きました。しかし、これに書いた解決策は、あくまで従来の半導体を基礎とした発想のものでした。

 そういった方法から、いずれ量子情報通信に取って代わるとよく言われます。例えば、カーボンナノチューブが大騒ぎされている理由には、単なる半導体材料として高性能というだけでなく、量子デバイスとしてもかなりの可能性を秘めているということがあります。NECやHITACHI、NTTといったところも、既存の情報通信の延長線上の研究だけではなく、基礎研究として量子情報の研究を行っています。

 ただ、具体的にどういう方法で量子情報通信をするにしても、光子と原子との間で量子情報を交換があまりうまくいっていないことが大きな課題となっていました。

 そこで、この光を「止める&放つ」の技術が役に立ってきます。原子と光子がうまく量子的な情報を交換しているように、この原理を応用すれば、量子的な意味で、原子光子間でのスイッチや情報ストアレッジなどがつくれると考えられています。もっとも、こういった大がかりな量子デバイスが現実のものとなるのには、少なくとも10年以上、30−50年近くが妥当だと考えられていますが・・・。


■関連記事
Frozen Light - Scientific American
Taming light with cold atoms - PhysicsWeb
 こちらはかなり詳しい。↑




 2位 「「平ら」な宇宙」

 何やら私が思っていたより、異様に投票数の多い宇宙関連のコラム。その中でもとくに多かったのは、この「平ら」な宇宙でした。歴史好きの人なら、大航海時代の地球の形に重ね合わせたくなるような話かもしれません。

 さて、この記事で書いた内容は二つ、
   ・宇宙は膨張しつづけている(ビッグバン説)
   ・宇宙の「かたち」は開いた平面
 というものでした。

 この記事は2001年の4月に行われた三つのプロジェクト、ブーメラン、マキシマ、デイジーの観測データに基づいたものでしたが、6月にNASAの大規模なプロジェクト(MAP: Micowave Anisotropy Probe)によって、さらに多くのデータが得られました。


 一般にビッグバン理論によれば、宇宙の密度が特定の密度(臨界密度)より大きければ時空は収縮し、小さければ永遠に広がりつづけ、そして等しければほぼ今のままでとどまっていると言われています。
 このこと自体はよく知られていると思いますが、同時にこの区別は宇宙の「かたち」にも関わってきます。もし、宇宙空間を三次元に例えれば、次のようになります。(イメージ図↓:NASA)
 http://map.gsfc.nasa.gov/ContentMedia/990006b.jpg

 もし臨界密度より大きければ、私たちの宇宙は球の表面(正の曲率)のようなものとなり、有限で閉じた空間になります。臨界密度より小さければ、私たちの宇宙は馬の鞍の表面(負の曲率)のようなものとなり、無限に開いた空間になります。臨界密度と同じ場合は、宇宙はまっ平らで(おそらく)無限に開いた空間になると考えられています。

 で、NASAのMAPから集められた観測データでは、わずかに臨界密度より大きいというものでした。そのため、私たちの宇宙は「平ら」で、少しずつ膨張しつづけているというものでした。ただし「平ら」というのは、宇宙空間の次元を一つ落とした場合の表現なので、私たちが普段思っている平らとは違ったものなのかもしれません。

 まだ、私たちの宇宙像には、ダークマターやダークエネルギーといったものがハッキリしないため、他のものの可能性も否定できませんが、おそらく、ビッグバン説に基づいた「膨張を続ける「平ら」な宇宙」と言えそうです。


■関連サイト
NASAのホームページは相変わらず凝っています。いや、これに関しては相当のものです。内容もわかりやすいと思います。
MAP: Micowave Anisotropy Probe(英語)
Cosmology: The Study of the Universe(英語)




・気になる科学ニュース調査と振り返る2001年科学ニュース
 気になる科学ニュース調査で取り上げた科学ニュースで、特にインパクトが強かったものを集めてみました。2001年がどういう年だったかを科学ニュースを通して振り返って見ましょう。

●ニホウ化マグネシウムで39Kの超伝導

 ここ5年ほど、超伝導の業界はなんとなく元気がなかったのですが、そんな停滞感をこのニュースが一気に吹き飛ばしてくれました。青山学院の秋光教授らの研究チームがニホウ化マグネシウムという単純な組成から臨界温度が39Kに達することを発見しました。これまで超伝導の基本だったBCS理論などを見直し、さらに新しい発見があるかもしれません。

 なお、このニュースがあったためか、有機分子やC60、カーボンナノチューブなどの超伝導のニュースも盛りあがりました。

 「身近なものから超伝導」
 「膨らむC60 膨らむ超伝導の夢」



●冷却原子で光を止めて再び放つ
(人気投票によるピックアップの項目で詳しく紹介↑。)

 「そして光は止まった」



●太陽ニュートリノ問題の解決

 太陽から発せられたニュートリノについて、実際に観測できる数は、理論上で予測されるものよりずいぶんと少ないものでした。その理由は30年以上謎のままでした。ひょっとすると太陽のモデルが間違っているのかもしれないとまで言われていました。しかし共同研究により、その原因はニュートリノが他の種類に変るためだと言うことがわかりました。また太陽ニュートリノ問題の解決とともに、ニュートリノの質量があることについてもほぼ確定的になりました。

 しかし一方で残念なことに、世界のスーパーカミオカンデで事故が起きてしまった年でもありました。

 「太陽ニュートリノ問題の解決は深遠なる謎への入り口」



●宇宙は「平ら」で膨張しつづける
(人気投票によるピックアップの項目で詳しく紹介↑。)

 「「平ら」な宇宙」



●ヒトの遺伝子は3万、もしくは4万

 去年のゲノム解析の草案に引き続き、今年の二月は、国際ヒトゲノム計画と民間企業のセレーラがヒトの遺伝子の解析を完了を発表しました。それによると、ヒトの遺伝子の数は2万5千くらいから多くても4万。多くの人が思っていたよりはるかに少ない数でした。もっともこれは物語の始まりにすぎません。というより、あまりにもこの分野の研究が広がったために、もはや把握できないほどですが(笑)。

 「ゲノムウォーズ」



●狂牛病騒ぎとvCJD

 国内で狂牛病騒動として大きく注目されたプリオン病ですが、未だその全体像がつかめていないのが現状です。タンパク質のはずなのになぜ感染するのかとか、種の壁を越えてウシからヒトに移りvCJDとなるのか、遺伝子とのかかわりはどうなのかとさまざまなことが研究されていますが、それが明らかになるにはもう少し時間がかかりそうです。

 「プリオン病:死の病原体の足取りを追え」



●テロと科学のかかわりについて

 アメリカ同時多発テロと炭そ菌騒動の関連で、科学とテロとのかかわりがインターネット上でよく議論されました。これまでにも科学専門誌ではしばしば議論されてきた内容でしたが、CNNやBBC,ABCといった大衆メディアでもこの内容が大きく取り上げられました。

 「バイオテロの可能な時代:最先端の攻防」



●カーボンナノチューブ論文ラッシュ

 カーボンナノチューブを量産する企業が毎月のように登場した今年ですが、カーボンナノチューブ関連の論文の方は毎週のように発表されました。とくに基礎研究の分野では、これまでの半導体とは異なる、量子デバイスとしてナノチューブを利用とする研究が注目されました。今後ともカーボンナノチューブの動向は目が話せなさそうです。

 「ナノチューブの奏でる究極のコンピュータ序曲」





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